試験編

第4、5話 学園試験

 まだ太陽は少ししか上っていない。外は薄暗く、少しだけ寒気がする早朝。俺は朝の五時に起きた。


「昨日はいつの間にか寝ていたな・・・試験が始まるまで3時間はある。特にしたいことも無いし、剣でも研ぐか!」



 昨日のゴブリンとの戦闘で刃こぼれしたのでそれを研ぐ。


俺の家にはお金が多くあるわけではないため、剣は安物しか持っていない。ゴブリンを切っただけでも刃こぼれをしてしまう。


 剣の手入れをしているとあっという間に時間が過ぎ研ぎ終わった頃には外は明るくなっていた。


「剣を研ぎ始めて一時間ほど経ったか・・・腹が減ったな、宿の下の階で朝食を摂ろう」



 そう言って俺は階段を降り食事場を見回す。昨日の夜は耳が痛くなるくらいに賑わっていた筈なのに今は二、三人しか見当たらない。


 試験で腹を壊すと一大事なので食事はサラダなど軽い物で済ました。


 もう一度宿の部屋へ戻る。


 午前は筆記試験だ。勉強は毎日欠かさずにしたので自信はある。


「問題は午後の対戦形式の実技試験だな」


俺は少し自信なさげに、はぁはぁと溜息をついた。


「気分転換に外の空気でも吸うか・・・」


そう言って扉を開けて宿から出た。


 こうしている間にも時間は過ぎて行き、つまらないことをしている間に学園試験に向けての準備をしないと間に合わない時間になってしまった。


 急いで準備をして宿を出る。


 宿から20分ほど歩き続けた道に迷わずに学園の目前まできた。


「うおっ・・・すごいな」


学園の大きさに俺は驚きを隠せなかった。


 広大な敷地内にデカデカ広がる校舎、一年生から3年生まで入る全生徒のために作られている寮。剣魔学園は3年制の寮付きで、帝都では一番人気であり一番倍率が高い学校だ。


 校門には試験受付のご案内の紙が張り出されていた。


 試験ということもあり、校門に何百人もの人が集まっていて行列ができると面倒なのでその前に学園内に入り受付を済ます。


 受付を済ませた後、案内されるままに教室に着き指定されていた席に座る。


 周りの人はというもの、緊張感が張り詰めているのか周りにいる人と喋る人は全く居なかった。


 教室内の机は12個、一つの机には三人座れるスペースが用意されていて横に三つ縦に四つ。このような配置になっている。


 一番前の一番左端の席に座っていた俺は、後から来た机の真ん中に座る銀髪の可愛らしい女の子と目が合った。


 目が合ったもののすぐ逸らされた。受かるか受からないか分かっていない状況で人に情を寄せる余裕なんてないので仕方は無い。でもその女の子は自信に満ち溢れた表情をしていた。


 試験の準備が終わった頃合いに黒板の隣にある扉から試験官が入ってくる。


「それでは、これから筆記試験を始めます!制限時間は45分間、カンニングはくれぐれもしないように。」


話終えると、魔法でクラスにいる全生徒に一枚一枚、風魔法で紙が配られる。


「それでは、試験開始!!」


試験官が声を上げ、筆記試験が始まった。


 予想していた通りの問題、得意な魔法生物の問題が出たこともあって、なかなかに自信があった。


「だが問題は午後からだな・・・・・・」


自信なさげに俺は呟いていた。


 午後の部は昼食を摂った後、2時からと受験票に書かれている。午前の部が終わった時点で12時半、休めるのは1時間程あるので、教室で昼食を摂る。


 その間に試験官が教室に午後の部の対戦表を黒板に貼り付ける。俺は自分の対戦相手が気になったため、すぐに確認しに行く。


「相手はアリス・グロリダか・・・・・・」どこで聞いたかは忘れてしまったが、聞いたことがあるような名前だ。試合が始まるのは他の受験者が対戦を終えた最後となっている。


「絶対勝ってやる」

 

自信に溢れた声で言うのだった。


午後になり、俺は心の準備をする為にも早めに準備を済ませ闘技場に向かうと、俺と同じように早めに来て準備をしている人が沢山いた。


 闘技場は大体30mで、ルールは相手に攻撃を与えその人と体を連結している人間を模した人型の魔道具破壊する。もしくは相手を降参させること。


 そして試験が始まりを迎え、審判が爆発魔法で空に向かって対戦スタートの合図を送り出す。


 次々と試合が終わって行く。俺じゃ勝てるかどうかと思うような人もいれば、まだあまり闘い慣れていないんだとわかる動きをする人もいた。


 魔物とは戦ってきたが、人間と闘うのでは根本的に違うため段々緊張してきた。そろそろ俺の番。


「アリス・グロリダ、ハルト・テイディス前へ」


 周りの受験者が先程までとは違う雰囲気を醸し出す。これを待っていたかのような視線を向けて来るので直感的に嫌な予感を感じ取ってしまった。


「では、開始!」


 審判が空に向かって爆発魔法を放つ。


 相手は剣を持っていないため魔法使いだとわかる。相手の強さがわからない以上無闇に間合いを詰めるのは避ける。


 先制は俺だった。


「冷え穿て!」


 丸い氷の粒が相手に向かって飛んで行く。


「燃え盛れよ!」


 俺は土の壁を建てるなどして防いでくるのかと思ったが、相手は予想と反する動きをした。防いで来るのではなく、上回る火力の魔法を放って相手の魔法を消し飛ばしてきた。


 その魔法は俺の魔法に当たったあとも威力が少し減衰しただけで、そのまま飛んできた。


 俺と同じ下級魔法の筈なのに、俺が放つ魔法とは段違いの威力。


「何だよこれ・・・・・・」


 自然に呟いてしまった。魔法では勝れないため、どうにかして俺の剣が通ずる間合いに敵を入れなければならない。


「吹き荒れよ!」

 

 俺は身体強化魔法を自分に掛け、再び下級魔法を放ちながら少しずつ距離を縮める。だが近づいても土魔法で間合いに入れることを防がれ近づくことも許してもらえない。それに相手は俺と同じ魔法を放ち、俺の魔法を糸も簡単に破壊してくる。


 俺が自分の間合いまで距離を縮めようとしているのに気づいたのか、様子見+魔法の後出しを止め先制を取ってくる。


「天に昇る日のように 燃え盛れよ!」


 俺へ向けて火が飛んでくる。俺は氷魔法で多少相殺した後、身体強化で避けることができたがこれが続くと考えれば俺は泣きたくなる。


 二節の下級魔法。三節からは中級魔法となっている。階級が上がることに消費する魔力量、魔力出力調節が必要になる。


 俺が様子見をしていると相手が煽り気味に言葉を投げかけてくる。


「貴方じゃ私には勝てない。わかってるでしょ?」


「うっ・・・・・・黙れっ!」これぐらいしか言い返せない。実際本当に勝てる自信がない。相手は俺より格上の魔法使い、剣と魔法を使っても間合いまで持っていけない。


「勝てなくても言ったことを後悔させてやるよ!」


 さっき相手が言ってきたことにイライラした。


「やってみなさい?どうせ出来っこないから」


 辛辣な声で嫌味を返してくる。

 

 再び戦闘が始まる。


「行くぞ!冷え穿て!吹き荒れよ!」

 

 俺は身体強化で全速力で弧を描くように走り、さらに加えて魔法も放つ。相手が魔法を対処している間に距離を縮める。後7m


「少しはやるみたいね。隔たり爆ぜろ!」

 

 下から生まれた土の壁が爆破する。土魔法と火魔法の複合魔法だ。それに少し足止めされたが、俺は気にせずに距離を縮める。後5m。


「冷え 凍てつく大地よ 氷塊来たれ!」


 氷の中級魔法。中級魔法は一般の冒険者などが使う魔法だ。この歳で扱えるのは才能としか言いようがない。


 相手と自分の距離は5m。


 俺にその魔法は避けれるとは思えない。だからそのまま突き進む。


 自分の一部となった右手に持っている剣に、無意識に今ある全ての魔力を込める。


 目の前の地面からいくつもの氷塊が俺に向かって這い出てくる。


 右手に全ての力を込め、走りながら剣を構える。


 完全に隔たるように伸び切ったいくつもの氷塊。


「やってやるよ!!」


 雄叫びを上げながら氷塊に向かって剣を振ると。パリンと氷塊が割れた音が聞こえる。


 氷塊の先には焦る素振りを見せず、冷たい表情を無くした女がいた。


「なかなかいい動きするじゃん。でもさ、君の動きに剣が耐えられなかったみたいだね。だから今回は私の勝ち」


 そう言われて右手に持っている剣を見る。刀身はさっきまで持っていた剣の半分ほどしかなかった。


 それに魔力が尽きて視界が暗くなっていく。薄っすら確保できる視界で勝敗を確認する。


 審判の隣にある俺側の人間を模した人型の魔道具は倒れていた。どうやら相手の魔法を斬ることはできたが、剣が耐えられずいくつかまだ魔法を喰らってしまったみたいだ。


 































































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