第28話 絡まれ

 レイクとの鍛錬を終えて、借りていた広場に施錠をする。


「それじゃあまたね!良い鍛錬になったよ」


 レイクと別れようとしていた時—————


「「風よ 対象を囲いて 拘束せよ!」」


「「は!?」」


 何者かの拘束魔法により、レイクが拘束される。それにレイクと俺は息を合わせて驚く。


 複合詠唱によって創り出された風の網かご。レイクは井の中の蛙になってしまった。


 園内ほ闘技祭などの競技、鍛錬場以外で人に暴力行為、拘束するのは禁止事項であり、教師にバレでもしたら洒落にならない。待っているのは退学か他の処分だ。


「あははははははっ!Aクラスの生徒の筈だよなこれ!?Bクラスの生徒に捕まった気分はどう???あはははは!みろよこの顔!」


 自称Bクラスの生徒がレイクの真剣に網を破ろうと悪戦苦闘している姿をゲラゲラと嘲笑う。


「何のつもりだ!早くここから解放しろ!」


 怒り心頭のレイクは声を荒げるが、拘束した本人らが解放する素振りをせずに言う。


「無理無理。お前は人質代わりだから出せないんだよ。用があるのはあっちのAクラスの落ちこぼれ」


 そう言って振り返り、俺を指差す。指を差した後、再びレイクに向き直る。


 指差された時、疑問と共に俺の背筋に電流がほとばしった。


「おいマルス、捕えた奴を馬鹿にしすぎだ。コイツに抜けられたら俺たちゃあ一溜りも無くなるんだからやめろ」


 鞘に剣を納めたもう一人の仲間が煽った生徒の肩に手を回して口を開く。


 どうやらもう一人の仲間はレイクの事を危険視しているようだった。闘技祭の件あって実力が知られているのだろう。


「いいのいいの、どうせ抜けれないんだからなぁ!おりゃあ!」


 レイクが脱出できないと断定し、悪びれも無くレイクが押し込められているかごを蹴り飛ばす。


「レイクに当たるな!用は俺にあるんだろ?」


「ああ、そうだったそうだった。実はな、俺とジークはBクラスの一位と二位でさあ、正直?Bクラスでは競い合いが物足りないんだよね?だーかーらー!お前を潰してAクラスに昇格しちゃおうって話!分かる?」


「・・・・・・っ!・・・・・・生憎時間がたんまり無い、何がしたいのかをさっさと言え!」


 俺は声を荒げて響き渡る声で相手を急かし、その声で近くにいる生徒まで寄って集って来る。問題児を見つめるような視線に嫌気がさすが仕方がない。


「連れないなぁ。あとー、そんなデケェ声出すなよ。周りの人様に迷惑だろうが」


 盗賊が威嚇時にするような強張った面を向けながら荒い口調で喋り続ける。自分達から人目が集まりそうな悪事を仕掛けておいて、人目が集まるのは嫌いみたいだ。


 俺は前にいるのが12歳で同級生とは思えない恐怖に狩られている最中。


 今までにこんな経験談があれば怯えずには済んだと思う。


 同級生の放つ言葉に恐怖を覚えることはあるが、恐怖が持続したのは初めての感覚だ。


「迷惑かけてんのはお前らだろ!」


 何とか外面だけでも強気を保ち、相手に押されないように言い返す。弱気を見せれば次に何をしかけてくるかわからない。


「正論は嫌いなんだけどなぁ、まあお前に?何が言いたいかと言うとぉ、俺達二人を相手にして、負けたらお前はBクラスに行けってこと」


「そんなの学園が通すはずが無いだろ!」


「それが通ちゃったんだよなぁ!俺は貴族様だからなぁ!!!!」


 そう言ってマルスは俺に不利に働く様々な事が記されている書類を腕いっぱいに広げる。


 学園に紛れ込んだ貴族の力か・・・・・・いや、校長がそんなものを許すわけがない。それならどうして書類が・・・・・・


 今の段階では何も思いつかない。


「一年の終わりまで待てばいいじゃないか!クラス替えの代わりに入れ替え戦があるだろ?」


 一年の終わりに、Aクラスの40位とBクラスと1位が昇格と降格を賭けてぶつかり合う入れ替え戦がある。その時に勝てば昇格できる。だから今戦う必要はない。しかも今年はAクラスの生徒が一人自主退学しているためピッタし二人昇格できる。


「そんなの待てるかっての!待てば待つほどAクラスの生徒と差が離れて行くだろがよ」


「今鍛錬を終えて体力を消耗したばかりなんだ!これじゃあ戦えない!」


 相手は二人で、どちらも万全な状態。俺は鍛錬終わりのヘトヘト状態。今から試合が始まった所で勝てるわけがない。


「んあ?何甘えたことグチグチ言ってんの?そんなの通用するわけねぇだろ!Aクラスの生徒なんだからBクラス生徒相手にハンデを受けるのは当然だろ?」


「そんな無茶苦茶な!・・・・・・」


「何が無茶苦茶だってぇ!?まあいい!今やんなかったらコイツを血まみれにするだけだからなぁ!」


 マルスは手に持っているナイフをレイクに突きつける。


 レイクは相手を睨み続けるが、かごの内側では上手く魔力を練られないから強気では立ち向かえない。


 ・・・・・・クソっ!・・・・・・


「わかった、わかったよ。だからレイクに危害を加えるのをやめろ!」


「聞き分けがいい奴で助かったよぉ!今からこの広場を予約してるのは俺たちだからなぁ」


 周囲の視線が送られる中、〇〇は地面を指差す。


 鍛錬場は広場と言う個室が真ん中の大広場を中心に沿う形で幾つも連なっている。マルスが予約したと言っているのは中心の大広場。


 個室広場に行くのなら大広場を必ずしも通らなければ行くことは不可能。


 必然的に数多の視線をあらゆる方向から向けられる。興味本位で近寄る人も入れば、邪魔だと思っている人もいるだろう。


「本当にこの広場でするのか?まず予約できると知らなかったし、ここだと迷惑だから個室広場に変えた方が・・・・・・」


「は?ビビってんのお前?個室広場なんかに変えるわけねぇだろ、Bクラスの生徒がAクラスの生徒をボコす所を見せてやりてえからなぁ!それが終わったら俺はカッコ良すぎてモテモテ、女には一生困らねぇかもなぁ!」


 ふざけた事をほざいているがそれは無視無視。


 Bクラスの生徒にはAクラスに入れる資格を持っている者が数名いる。例え資格を持っていると言っても、総合で評価が決められるため、学力が無ければ総合はBとなってしまう。


 例え学力が低くとも、実力がAクラスの生徒をも軽々と飛び抜けていれば総合はAになる。でもそれが起こりうるのはアリスやロロみたいな本当の天才だけだ。


 マルスとジークは前者に当てはまるのかもしれない。性格が悪いのが一番のマイナス点だと客観的に見て感じる。


「んん、仕方ねえなぁ、10分だ。10分だけ休憩時間をくれてやる。鍛錬終わりに不意打ちした挙句、休憩奪って勝ったなんて言ったら俺の面が汚れるからなぁ!」


「15分は無理か?」


 10分貰えるだけでも今の俺には充分な休憩時間だ。だけど二人を相手するならもう少し休憩しておかないと体力が持たない。


「優しさに漬け込むなクソ!それは無理だ。こっちもさっさと終わらせてAクラスに上がりたいからな!」


 返ってきたのは期待を裏切る否定の言葉だった。


 元々マルスが一分でも二分でも与えてくれるだけで奇跡に等しい。


 そうして始まった10分間の休憩時間。


 荒く乱した呼吸を正常に戻し、喉を潤わす。薄ら傷ついた剣をハンカチで隅々まで拭く。


 勢いに任せて理不尽で通るはずもない要求を自ら飲んでしまった。


 これに負けたらどうなるのかは俺自身もわからない。


 あの書類は校長本人が認めた物なのか、それともただの偽造か。真相は決着がついた後にしか知れない。


 奇跡で入れたAクラス。俺なんかが偶然入れてもらえた奇跡をここで捨てるわけには行かない。


 休憩の終わり際、なんとしてでも勝ちに行く。剣と本心にそう誓うのだった。


















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

剣と魔法の並行使い るる @rurudamon

作家にギフトを贈る

カクヨムサポーターズパスポートに登録すると、作家にギフトを贈れるようになります。

ギフトを贈って最初のサポーターになりませんか?

ギフトを贈ると限定コンテンツを閲覧できます。作家の創作活動を支援しましょう。

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ