第25話 錬金術
「学園の錬金術師、マーズ・ドライアドだ。今から錬金術の授業を始めて行くが、注意事項は配った紙に書いてある。錬金術は一つのミスで全てが狂う。爆発も起きる。そんな危険物を資料を見ずに無闇矢鱈に弄るな」
全体的に暗い教師に見える。何らかの闇がマーズ先生の中に隠されていたのだろうか、注意喚起は欠かさない。
錬金術師のマーズ先生は、果実などの材料を一から混ぜ合わせて魔力増幅ポーション、強制治療薬を開発して世界に名を馳せ驚愕させた錬金術のプロフェッショナルだ。
人を殺害するために、サソリの毒より強い猛毒を完成させたと言う噂も校内全体で囁かれていた。
魔法でも千切れた腕を再生する事が可能だが、再生させる度に魔法を詠唱しなければ継続しない。
それとは異なり治療薬は飲むだけで体を継続的に再生する便利な薬だ。
魔力回復薬については魔法ではまず回復させる事が不可能であるから高価な薬として世界の冒険者が冒険に欲している。
「最初にデミグラスの液を手元にある瓶に必要量入れろ。やり方と量は配布した紙に書いてある。少しでも注ぐ量を誤ると目指している物は完成しないからな。助け合いはあり、授業の終わり前には俺の机に提出しろー」
配布された紙に書いてあるのは簡易治療、毒消しを人体に施す回復薬。
初めは一人ずつが集中して錬金に励んでいて、時間が経っていくごとに一人、また一人と調合を終えていく。
自分の側には頭脳明晰な天才しか居ないせいで、次々と先立たれて行く。それに遅れていると焦った事が原因で、重要な局面でミスを生んでしまった。
瓶の中に医療の効果を発揮するメディスプロ種を入れて魔力を軽く注ぐ。
周りに追いつきたい一心の俺は落ち着いてこなせる訳も無く、魔力をゆっくり注がないといけない地道な作業。
急いでこなそうとして配布された紙に書かれている魔力よりも注ぎ過ぎてしまった。
成功すれば種は緑色となり芽を咲かすが、それに対して過剰に魔力を摂取した芽は医療とは真逆の毒となって芽を咲かした。
「あっっっ!」
ハルトが叫んだ瞬間、勢いよく芽が吹き飛び、ハルトに向かって空気を紫色に染めた毒をボンッと放出した。
直に毒を吸ってしまったハルトは呼吸が荒くなり、次第に目から下半身へと順に痺れが回り始める。
すぐさま離れた席からアリスとロロが駆けつけ、完成した回復薬を飲ませる仕草をする。
「ハルト、これ、飲んで」
「ハルト!早くこれを飲んで!」
「私が、ハルトに、飲ませる、から、どいて!」
「私が先に駆けつけたんだから邪魔しないで!」
ハルトには分からない女同士の譲れない戦いが開戦した。
アリスはこれを機にハルトと仲直りをして仲良く喋れるように戻りたい、ロロはこれを機にハルトの苦しむ表情を見たい。
戦いを制した方にはそれぞれの求める立場が与えられる。
「身体が・・・・・・痺れ・・・・・・はや・・・・・・く・・・・・・」
ハルトは言い合いを無視して酷く悶えるが、ロロとアリスは鋭い目つきで睨み合っていて飲ませる気配がまったく感じられない。
「ふはははははは!お前は女に恵まれていいな!こんなにも早く駆けつけて心配してくれるし。だけどしょうもない女の戦いが始まるのは笑えるなぁ」
盛大に笑い吹き出しながら歩いくる、聞き覚えのある声がアリスとロロの反対側から耳に入ってくる。
「レイクか・・・・・・話は・・・・・・それぐらいで・・・・・・頼・・・・・・む・・・・・・」
「ふはは。わかってるよ」
レイクは手に完成させた医療薬を持ち、倒れかけているハルトの背中を右腕で支えながら左手で医療薬を自分の口に含んで、わざとらしくアリスとロロの視界に収まるように口から口へと移す。
「はっ!?何してるの!」
「えっ!ファースト、キスは、私が、する、筈、だった、のに・・・・・・」
こいつ何してんだ。今すぐ突き放したい所だが、自身の安全を考えて突き放さずに受け入れる。
必ず誰もが視線に止まる錬金教室の真ん中で、こんな羞恥の光景を見られるのはただの屈辱だ。
気絶はせずに済んだ。でも自分のプライドが醜態を晒した事を許さない。心の中で嫌悪感に包まれるが、何とか気持ちを取り戻す。
それから10分が経った。
痺れた身体は正常に動き、時間が押している錬金術を再び調合。またミスを犯さないか心配しているのか、アリスとロロが後ろから覗いている。
後ろからは強い威圧感を感じ、今にも二人の目線の間にバチバチの電流が走りそうで調合に集中できない。
それから10分が経った。
「ふぅ、ミスは一度あったがそれ以外は順調に進んで提出もできたな」
ちなみにミスを犯したのは俺だけで他にミスを犯した生徒は居ない。口移しされたのも恥に入るが、一人だけミスを犯したしてしまったと言うのも自分では恥ずかしいと思ってる。
教室を出て廊下を歩いていると・・・・・・
「またお会いしましたね、ハルト・テイディス」
さっきから辺りをうろちょろしていたのに、偶然かのように振る舞って会話を進めるエルフに不信感を覚える。
「偶然とは思えないんだけど何か用?」
「そんな辛辣にせずとも良いではありませんか、錬金術での絶景には錬金の調合を忘れて、長い間眺めてしまいました。まさかあれほど簡単な調合をミスる者が存在するのか・・・・・・と・・・・・・」
クスクスと手で口を押さえ煽るエルフ。優しさ、気遣いはとっくに何処かへ捨ててきてしまったらしい。
「やっぱり嘲笑いに?俺も気にしてるんだ、もうどっか行ってくれ」
手を帰れと伝わるように振り、俺も自室に戻る。
次はミスをしないために周りが終わっても焦らず落ち着いてやろう。
ハルトはそんな感じで恥を鎮めるしか、自身のプライドを宥める方法を見出せなかった。
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