第20話 一回戦目
個室に戻り、準備をしている間に自分達の前の試合が終了し、自分達の番になった。
初めての試合という事もあり、緊張が込み上げてくる。観戦をしていた時には全く持って無かった勝てるかどうかの不安も込み上げてくる。
「アリス・グロリダチーム、レイク・ドュラビンチーム前へ!」
審判が試合が始まる前のコールをすると同時に、俺は覚悟を決めて、アリスとラグナにそれを伝える。
「勝ちに行こう、アリス、ラグナ!」
「もちろん!」
「そんなの当たり前だ!」
アリスとラグナも覚悟を決め、ハルトの呼び掛けに応え、試合前にあった謎の無言の時間が嘘のように消え失せる。
前へ出ると、辺り一面に広がる観客、正面には対戦相手、その中にはシンもいる。シンには得意な魔法が筒抜けなのでそこは不利に働く。
「それでは試合開始!」
審判が試合の始まるコールをし、一斉に皆が動き出す。
まずは魔法の攻防、アリスとラグナが主体となり、魔法の攻防を繰り広げる。
「冷え 凍てつく大地よ 氷塊来たれ!」
「雷鳴よ 天より昌来し 万物を貫け!」
アリスが魔力を込めることで自由に氷塊の長さを調節しつつ氷魔法で応戦、ラグナが槍の形をした雷魔法を放ち、速度での攻撃を繰り返すことで相手の行動範囲を狭めていく。
そして相手が反撃の手にでる。
「風よ来たれ 渦を生み出し 吹き荒れよ!」
相手のレイクが風を集わせ、吹き荒れる擬似ハリケーンを生み出す。
「火炎よ 燃え盛り 焼き尽くせ!」
シンがダンジョン実習の時には見せなかった、火魔法の中級をここで披露する。
シンが放った魔法は威力を重視した魔法ではなく範囲に重視した魔法、放たれた火炎は広域に燃え広がり、相手も移動を制限してくる。その魔法は多分、俺を警戒しての魔法だと予想。
相手はこちらと異なり、全員を主体とした攻撃をしてきている。
「吹き荒れよ!吹き荒れよ!吹き荒れよ!」
風魔法で辺りに散らばった火を振り払い、移動制限を無くす。
相手の一番前に出ているレイクが攻撃を緩めた隙を狙い、身体強化を自分に施し、間合いを詰める。
「雷光よ 轟け!」
レイクがそれに気づき、近付かせまいと雷魔法の速度で身体強化に張りはあって来るが、下級魔法の雷だ。
俺は剣に魔力を流し、剣を真っ直ぐ構え、勢い良く振り下ろす。すると雷魔法は真っ二つになり、音と風を生み出し消えた。
「雷魔法は斬られたが、これも斬れるか?火炎よ 燃え盛り 焼き尽くせ」
煽り気味に言葉を発して、シンが放った魔法とは違う威力に特化した球の形をした火を撃ち出す。
剣を構え、魔力を流し、斬れない魔法は受け流す。
「下級の魔法なら斬れるんだけどそれは流石に無理だ」
煽りには乗らず、魔法を受け流しながら言い返す。
「そうか、ならこれも受け取ってくれよ!天より昌来されし雷よ 稲妻となり 降り下ろせ!」
「なかなかに悪趣味だなレイク!それにAクラスの10位から上はそんなに頻繁に中級が使えるのか、羨ましいよッ!雷よ 轟け!」
そう言いながら俺は頭上から降ってくる一本の雷を下級雷魔法で多少相殺し、火魔法の受け流し時より、魔力を込め、タイミング良く威力の減衰した雷魔法を弾き返す。
「はえぇ、そんなこともできるんだなお前、煽りにも乗らないし器用、悪い所無しじゃんか」
レイクが感激したように言った。
「アリスにいつも煽られてるせいかもな、煽りには慣れたよ。」
「いつまでゆったり会話してるの!こっちは魔法の撃ち合いで消耗してきてるんだから早く間合いを詰めて斬るなりしてよ!」
アリスがイラついた口調で叫んで来る。
「悪かった、次はしっかり間合いを詰めるから許してくれ!」
試合に長ったらしく喋っていたのは悪いと認め、素直に謝り、間合いを詰め直す。
「土よ 地面より這い出て 砕き爆ぜろ!」
「水よ 波打ち 弾けろ」
思考を巡らせていると、土が現れては爆破し、水が波打ちながら押し寄せてくる。
「土よ 地より壁を生み出し 我らを守れ!もう!ハルト、考えるなら動きながら考えて!こうやって集中放火食らうでしょって」
アリスが狙われていた事を勘付きすぐに駆けつけて魔法で俺を守り、さっきよりも大きな怒号をあげ、指示を繰り返す。
「ご、ごめん」
対人戦は本当に未熟で、今の俺はチームに何一つ貢献できていない。なんなら手間を増やし、足手纏いをしているだけだ。
狙われていた事すら気付かず、びっくりした反動の空いた口が塞がらない。謝る事しか現状していない。
「おいおい、試合中に喧嘩するなよ、みっともない」
ラグナがハッキリと言い切り少し溜息をついている。
「わかったわ。とりあえず私達が援護するから詰めていって!」
アリスが怒りを収め、正気に戻って俺に言う。
「わかった。援護は頼んだぞ」
詰めるのが怖い、魔法が目の前から飛んでくる恐怖、それを感じたくないから計画的に詰めていきたかったが、それは悉く破壊され、仲間を頼りにして進む事しか出来なくなってしまった。
情け無くて仕方がないと自分でも自覚がある。だけど仲間が援護すると言うなら信じて進むしかない。俺にはそれしかできないから。
レイクの少し離れた左後ろに居る相手を先に狙う。
レイクと右後ろのシンはラグナの魔法で足止めをしているため、俺にヘイトを向ける機会がなく、非常に詰めやすい。
順調に詰めていくと敵が雷魔法を準備していた。
「雷よ 天より昌来し 万物を貫け!」
槍の形をした雷魔法が瞬速で俺の目前まで来るが、それと同時にアリスが同じ魔法を放ち相殺してくれた。
そのお陰もあり、間合いまで詰めることができた。
「雷よ 轟け!」
相手は焦り、下級魔法に切り替えてくる。
「風よ 吹き荒れよ!」
自分で魔法を放ち相殺、間合いは入っているので剣を構え、横に薙ぎ払い確実に相手を仕留める。
審判の魔道具を見るとしっかり倒れている。これで何とか顔向けできるくらいにはなった筈。
「次は弧を描くようにして詰めて!魔法で援護はできないから、避けまくって!」
アリスは相手を倒した事を知ると次の指示をくれるが、無茶苦茶な事を言われ戸惑ったけどやるしか選択肢は残されていない。
レイクとシンが右にいるので左からアリス達と挟むようにして詰めに行くと、シンが俺を警戒し、アリス達との攻防をやめて今一番危険な俺を処理しようと動き始める。
「レイク!俺はハルトの相手をするから二人相手任せた!」
「ああ任せてくれ!」
アリスとラグナは俺が何もやってない分消耗が大きく、レイク一人で大丈夫だと思えるほど威力が足りなくなっている。
「シン、悪いがここで負けてくれないか?俺達はこの勝負に勝ちたいんだ」
無理な願いだと理解しているが相手がどんな反応をするか問いかける。
「悪いけどそれは無理な願いだよ、俺達もお前らと同じくらい勝ちたいからなぁ!火よ 燃え行く矢となり 降りかかれ!」
火を灯した矢が大量に出現して続々と飛んでくる。その矢は早く数も多いため避け切れない。だから前進しながら魔法を放ち対処する。
「風よ 迫り来る万物を弾き 吹き裂け!」
頭上に風が吹き荒れるシールドを展開し、矢を弾く。
唯一使える中級魔法であるが、必要な魔力に少し足りていないため、威力は弱い。いくつかの矢を弾くのには十分であり、抜けて来た分に関しては魔法剣で斬ればいい。
シンが後ろに引くと、ちょうど引き下がって来たレイクと背中がぶつかって挟まれるように追い詰められる。
「まずい、追い詰められ過ぎだ。最後にとっておきの技を見せてやろうぜ」
シンがレイクにそう言うと、レイクは頷き二人は手を上に上げ二人の魔法を合わせた複合魔法を作り始め、火の渦が中心にできて時間が経つ事に膨れ上がっていく。
「アリスとラグナ、これどうするんだ?これ逃げようがない気がするんだけど・・・」
「何でそんな逃げ腰なの?剣士なら斬るなり思いつかないの?」
アリスが逃げ腰なのを良いことに嫌味を飛ばしてくる。まだイラついている様子だ。まあ任せて、この為に魔力残してあるから」
「純真に青く輝く 零度の氷塊よ 大地より現れ 全ての万物を穿ち 凍てつかせ!」
氷魔法の上級魔法、幾度と無く俺を潰して来た氷の氷塊が中級時より2倍程長く伸び、火の渦の核なる中心を青い氷で埋め尽くす。
「もう何でもありだなアリスとか言う奴」
それの被害を受けたレイクが悔し涙流さず、化け物じみた技に驚愕し、諦めた顔を浮かべる。
「ここまでされたんだ。もう魔力も尽きたし俺は降参かな」
「俺も降参かなー」
そうしてシンとレイクは意思を統一させ降参して試合は終わった。
試合は勝ちで終わって良かったが、俺の動きの悪さは散々アリスから言われ、自覚していたこともあり何も言い返せなかった。次は言われたことを反省してそれを修正して行きたい。心の中でそう決心した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます