剣と魔法の並行使い
るる
序章
第1話 絶望
世界には剣を扱う者、魔法を扱う者、錬金術師をする人、農業をする事で平穏に暮らす者もいる。他に才に恵まれず道を諦めてしまう人もいる。
俺は8歳、4人家族の長男、二つ上には姉がいる。家は帝都から外れの森にあり、農業をしている農家だ。
「ルリ姉!俺よりも二歳年上で力も強いんだから手加減くらいしてよ!」
怒ったように姉に言葉をぶつけた。
「この森では魔物が多く出るの!そんな弱くてはゴブリンにすら食べられるわよ!?私はあなたに死んで欲しくないからやっているの!」
「だからって、しゃがみ込んでいる俺に木刀何回も打ってくんのは違うだろ!?」
「ゴブリンに幾ら殴られても死なない体にしようとしてんの!」
「俺がしゃがみ込んで殴られる前提じゃんか!もうるり姉なんか知らない!」
俺は勢いに任せて森へ走り入ってしまった。入ったものの、全然1人では戻れなくなってしまい帰り道が何一つわからない。どこを見ても同じ景色で特徴的な建物も何一つない。
そこでばったり体長2.5m程あるオークという魔物と出会した。叫ぶなり石を投げつけるなり、すぐに逃げた。
だが6歳の足では到底逃げ切ることはできず、走り回っている為、体力は残っておらず、走り回っていた時に頭、体、足に枝を掠っていたためか傷口からヒリヒリと伝わってくる。
運の悪いことに親からは危険だから絶対行かないようにと言われている森の崖っぷちまで来てしまっていた。
俺は尻餅をつき、後ろに下がりながら叫ぶ。
「うわああぁぁぁ、来るなぁ!来るなぁ!来るなぁ!」
それに共鳴するように魔物が叫ぶ。
「ヴゥオオオオオオオオォォォォ」
魔物が手を振り上げる。
俺は死ぬんだと確信し、下を向くように瞼を閉じる。瞼を閉じて10秒ほど経っただろうか、体に何の痛みもしない事に気がつく。閉じていた瞼をゆっくりと開け、目を正面に向けてみる。
そこには1人の剣を鞘に持っている男と、さっきまで俺を崖まで追い込んだ魔物が倒れている光景があった。
「君こんな場所に入りこんじゃダメじゃないか、傷だらけだけど立てるかい?」
男は優しく言った。
「・・・」
俺はまだ恐怖が残っていたため何も答えることができなかった。
「魔物に追いかけられた後だからね。少しゆっくりして行こう」
その男はそう言うなり素早い動きで枝を集め、焚き火をし始めた。
「座って話を聞かせてもらえるかい?」
「う、うん」
落ち着きを取り戻した俺は答えた。
「君の名前は?」
「ハルト・テイディスです・・・」
「どうして君はこんな所に?」
俺は言った
「実は姉と喧嘩して森に入ったら帰り道が何一つわからなくなってしまって・・・」
「そうか、なら一緒に戻ろう」
男はそう言い足が震え歩けない俺を抱えながら森を駆ける。両親と再会するまでに何度も魔物と出会すが、その度に男は剣一振りで魔物を次々に葬り去る。
その後男は俺を家まで見届けたあと名乗らずにどこかへ消えてしまった。
こんなことがあり、親には怒鳴られ、姉には怪我をめちゃくちゃ心配された。
この出来事がきっかけで俺には初めて夢ができた。
冒険者となり、あの男の人のように強くなること。
だから助けられて以降、このような窮地が起きた時、自分で抜け出せるように、剣を極めたいと親に自ら頼み、帝都から来た師範に姉と一緒に剣と魔法の稽古をつけてもらった。
稽古をつけてもらえるのは嬉しかったけど、正直しんどかった。
「まだまだァァ!本気で来いィィ!」
師範は熱血でスパルタ、隙を見せると手加減無しで打ってくる。
「師範もう少し手加減してください!」
「甘えたことを言うな!」
わかる通り手加減など求めても何も応えてくれない。言うだけ無駄。
師範にボコボコされ、全身打撲、ギリギリ歩けるなどと苦しい日も多かった。だがそれに耐え続け、3年間がたったある日。家で親と師範が話していた所を扉越しにその会話を聴いてしまった。
「ルリちゃんの才は素晴らしい!剣の才の片鱗は見えませんでしたが、魔法の習得、威力、詠唱短縮など様々な部分で飛び抜けているように見えました」
両親は言った
「おお!それはよかったです、姉は魔術師を目指しているのですから!」
ですがと師範は続けるように言った。
「ハルトくんですが剣に関する才能の片鱗がまったく見れません」
「そうですか・・・なら魔法の片鱗はどう・・・なのでしょうか?」
「それも...」
師範は皆まで言わずに押し黙った。
「そうでしたか・・・」
俺が剣を極めたいという夢を応援していた両親は残念そうな声で返事をした。
「夢は諦めた方が良いかもしれません」
師範はキッパリ言いのけた。
俺は黙って聴く事も出来ず、勢いに任せ、扉を開け言葉を発していた。
「才能が無いから何!?夢を目指しちゃダメなの?!」
「ハルトいつから!」
この日は俺は稽古をせず扉を開けたまま自分の部屋に閉じこもった。あんなに頑張ったのに・・・そう思いながら涙が少し溢れてきた。
それからというもの、師範との3年契約もあって、師範は王都に帰ってしまった。最後にまともな挨拶はできなかったものの、別れを言うことはできた。
師範が帰ってから両親は1人で稽古を続ける俺に何も言わなかった。俺は次に師範に会った時に、負かせてやろうと思い、全力で鍛錬した。
でも俺は自分でも才がないと自覚がある。
「才能が喉から手がほど欲しい・・・」
そう呟くが嘆く事しか許されなかった。
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