第2話 転機

 2ヶ月が経ったある日のこと、姉が一枚の紙を持ってくる。


「この紙を見て、あなたはこれを目指してみたらどうかしら?あなたならこれができる気がするの」


「何だよルリ姉、俺が才能ないように見えるからって別の何かを目指せっていうのか?ってええええぇぇぇ!!!」


 俺は何事かお思いながら、その紙を上から下に全て見ながら言った。


 その紙には剣魔闘技場、魔法の部、剣の部、その両方をを併合した剣魔の部、レンジ・アシュナリー、どれも好成績!!と大袈裟に書かれている。


 この世界では三つの部門で好成績を残せるのは記録に残っていても少数であり、普通は剣あるいは魔法に本腰を入れるはず。


 二つを極めようとすると、死ぬほど器用でない限り結局は中途半端になってしまう。それに剣を使うということは魔法は同じ、あるいはそれ以下かそれ以上ということだ。


 片方に本腰を入れた者に負かされるのが普通であるが、レンジ・アシュナリーはどれも好成績。


 こんなに驚いているのには理由は他にも沢山ある。


 夢を諦めかけていた俺はそれを見て確信する。俺はこれを目指しに行こう。


 才能がない、それだけで簡単に一つの夢を変えるのはどうなんだと思うような何とも言えない感情が湧いてくる。でもなぜだか知らないが、上回るような既視感につられ、その人と同等、いや、それ以上に行きたいと思うようになった。


「るり姉!たまにはやるじゃないか!」


「弟の癖してなんて言い方、まあ目指すなら頑張りなさい?応援くらいはするよ」


 それから数日が経ったある日、父から問われた。


「テストや実技試験もあるが、来年に剣魔学園を目指すのはどうだ?」


 俺は即答。


「はいっ!行かせてください!」


 この1年間の間に何ができるだろうかと考えていた矢先・・・


「一緒に模擬決闘しない?」


 姉が模擬決闘を仕掛けてきたのだ。


「どうして?」


 姉は剣魔学園に通っていて今帰省してきている。帰省しているのならゆっくりしていけよと思った。


「来年に剣魔学園目指すんでしょ?あなたはこういうのに疎いかも知れないけど剣魔学園は帝都で一番と言われるほどテストも実技も難しいのよ?ましてあなたは言い方は悪いかも知れないけど剣技も魔法もまだ平凡だわ。今のままで入学が許可されるかは結構怪しいの」


「えっ・・・そんなにレベルが高かったなんて俺知らなかった・・・」


 俺は姉から言われて初めて剣魔学園のレベルの高さを知った。


「そうだと思ったわ。あなたに今言っていて正解だった」


 それからというもの俺は勉強と剣技、魔法どちらも毎日怠らずにした。それがなかなかにキツイ。


 師範にボコされていた時もキツかったが今の訓練はそれ以上にキツイ気がする。


 姉から曰くテストは勉強すれば問題ないが、実技の部では対人戦になるそうだ。剣魔学園は家族が多く、貴族は血筋関係で平民より強いとのこと。


 剣魔学園では強さが1番重視され、入学してからはダンジョン混じりの試験をするそうだ。なので俺は対人戦で剣技と魔法の並行を行えるようにするために今から姉と家の近くにある森の中で決闘をする。


「本気で来なさい」姉が舐め腐ったように言う。


「行くぞっ!」


 俺はそれに応えるよう言いながら正面から詰めることは避け、身体強化魔法を自分に付与しながら円を描くように詰めに行く。


 姉が詰めてくる俺に火魔法を放つ。 


「燃え盛れよ!」


 一節の下級火魔法だ。


 姉は魔力の量が人並み多いため、下級でも威力が段違い。間合いを詰める俺に五つほどのその丸い火が迫り来る。なので一旦止まり、得意な風魔法を放つ。


「吹き荒れよ! 」


 風魔法で火魔法を拡散させ、身体強化で足を速めることでギリギリ躱した。間合いはあと10m程だ。


「氷漬け!」


 二番目に得意な氷魔法を放ちながら前線を上げる。五つほどの尖った氷が姉に向かって行く。


 だがそれは土魔法の壁で塞がれてしまいそのあとはと言うまでも無く、容赦なく間合いを詰めるまでに中級の三節火魔法を使われ案の定負かされてしまった。


「強過ぎるよ・・・」


「まだまだね、私は一度学園に戻るわ。しっかり鍛えるのよ?」


「言われなくてもわかってるよ・・・」


 それから俺は毎日走りながら詠唱、剣を振る。この動作を自分に慣れさせる。時には森の浅い所まで行き、ゴブリンの4体ほどの群れを潰すこともあった。

















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