第18話 闘技祭
いよいよ闘技祭の本番だ。
ここ剣魔学園に、帝都の市民が観客として入ってくる。観客のスペースは200m以上あり、闘技場のスペースは150mある。
初めは一年の見せ場だ。
二年と三年は一年の後に戦いを行うことになっている。
二、三年は市民と反対側の観客席で待機し、一年は後の方に試合が控えている者は、観客席に観客として試合を傍観している。
俺の試合は、六番中の四番目であり、時間はまだまだあるので、観客席に座り繰り広げられる試合を観戦する予定だ。
審判が闘技場の真ん中に立ち、試合が始まる直前である事を告げると同時に観客の雑談が静まり、次に観客は声援を上げる。
「出場者は前へ!」
審判が大きな声を発したタイミングで二チームが闘技場へと足を運ぶ。
何人かは体を震わせ、初めての試合に緊張している様子。
でもそれは試合が始まる前に収まっていた。
観客の目に慣れたのだろうか、この観客の数には俺も緊張しそうだ。
闘技場を囲む人々、声援は闘技場の外に必ず響くと思えるほど大きく、正直言えばうるさい。
「もうすぐ始まるな!楽しみだぜ!」
振り向くとシンが急いで観客席に来て俺の隣に座る。
「シンは個室にいなくても大丈夫なのか?」
「おう、まだまだ大丈夫だぜ、俺達はハルトの試合の後に控えているからな」
雑談をしていると審判が手を挙げ言う。
「それではこれからロロ・バリスチーム対ベール・グラミアチームの試合を始める。それでは開始!!」
審判が叫んだ瞬間からさっきまでの緊張、余裕そうだった威勢が消え、相手を睨見ながら相手が起こす動きを待っている。
構図は俺から見て真ん中の左にロロ、右にベール、ロロの右に黒髪のポニーテールをしたベンディア・ラート、左側にはティアラ・ウィンデ、茶髪の美少年。
ベールの右側にはグレンダ、左側にはナビア・ポリトネッサ、神学の授業の時に毒キノコを提供して仲間を殺しかけた女である。
行動を一番に起こしたのはベールチームの一員、グレンダ・アルバードだ。
呪文は観客席にいるので聞こえないが、目で見て何をしているかはわかる。
グレンダが火魔法でティアラに向かって火魔法を放つ。
魔法の威力、精度どちらも良く、相手に魔法が直進する。
ティアラは土魔法で生み出す壁と同じようなものを水で生み出し、それを盾にする事によって火魔法を蒸発させ、相手に乗るように水の槍を三つ生み出し即座にグレンダに打ち出す。
グレンダは火魔法を圧縮して槍の軌道上人配置する事によってさっきの技と同様に蒸発させる。
そこで一旦攻撃が止まり、次に動き出したのはベンディアだった。
ベンディアはナビアに風の切り裂く刃を飛ばしながら、ナビアを誘い込むように俺から見て手前側に移動する。
ベンディアはナビアと一騎打ちをするために移動したように見える。
ナビアは誘い込まれたのか乗ってあげたのか、すぐに移動を始める。
ロロとベールはまだ攻撃を開始せずに相手が起こすアクションを待っているだけ。
相手が起こした動きを元に動きを変える策略だ。
グレンダとティアラがベンディア達と同じように奥に行くような形に移動する。
それが移動し終わってからすぐにロロとベールの攻防は始まった。
授業と鍛錬の時には見られなかった本気のロロの気迫に驚いた。
ロロが雷魔法を直線で発射する。
ベールは土魔法では防げないと悟ったのかとりあえず大きな球の火魔法をロロと同じ直線上で放つ事で雷と火魔法がぶつかる。
ロロは同じ攻撃を止める気がなく、ベールも火魔法を撃つ以外に他の反撃をする余裕はなさそうだ。
繰り返しているうちに闘技場の真ん中広域に爆発音と共に爆煙がいくつも発生し、端で一騎打ちをしているグレンダやベンディアを巻き込みかけている。
そこで仲間に注意されたのかロロは攻撃を変え、氷魔法の尖った氷を生み出しながら左右に動きながら間合いを詰めていく。
詰める速度は普通ではない。
俺と同じ身体強化魔法な筈、でもそれは俺が使う時よりもずっと上手く扱えているように見える。
でも何故魔法使いなのに間合いを詰める?魔法使いの戦いのほぼ7割が遠距離の撃ち合いで勝敗を決める。
ロロが間合いを詰めていると言う事は3割の近距離、中距離に何かできる手段を持っている。
ベールは別に魔法の威力がロロに負けている訳ではなく、単純にロロが放ち続ける魔法に対処が追いつかず、対処している間にも間合いはトントン拍子で詰められ余計に焦らされている。
魔法使いでも0.1秒の戦いが何度も起こるもの。
ロロの速度を減少させようとベールは土魔法をロロ近くに生み出しては何度も爆破させ、破片を飛ばす。
破片が飛び散る爆発の中、突っ走る訳にもいかずロロは足止めを喰らってしまった。
40m程離れた所で熱い戦いは別に起こる。
ベンディアとナビアの戦いだ。
お互い魔力を使い過ぎて大分消耗しきっている様子だ。
はぁはぁと溜息まで吐き、全力で攻防を繰り返している。
ベンディアが氷魔法で生み出した氷塊を風魔法で加速させナビアにダメージを与えた。
ナビアもそれと似たように水魔法を垂れ流すように生み出し、そこに雷魔法を付け加える。
ベンディアは走る気力も無さそうにしながら懸命に避けるが疲れ切っているため、避けきれなかった。
多少ダメージを受けたものの、まだ人間を模した魔道具は倒れていない。
ナビアが水魔法を使って何かをしようとしていた所に、ロロが突如として介入し、雷魔法をナビアに放ち、退場を余儀なくする。
ナビアは雷魔法を喰らっても、全て魔道具が代わりに受けてくれるため、何も感じずにいられるが、どうしてロロがいるのかと立ち止まり呆けている。
左側を見るとベールはまだ立っている。
つまり、ベールとの戦闘を放棄して、水魔法で何かを起こそうとしていたナビアの隙を綺麗に突いてきた。
ナビアは何が起こったかについてようやく気がつき、魔道具を見るとベール側のナビアの魔道具が一つだけ倒れている。
ナビアとベンディアを見ていた観客は一度静まり、一瞬の時が過ぎ去った瞬間に盛大な歓声をあげる。
ナビアは泣く泣く退場し、その間にも戦いは何事も無かったように続いた。
ロロは再びベールとの戦闘を開始し、ベールとの戦闘の中、流石に魔法の酷使と身体強化の酷使にそろそろ体が限界な様子。
策があるのかまた間合いを詰める。
それに対してベールは雷魔法を乱射し、それを避けさせ、無駄な動きをさせる事で体力を消耗させる方法へと足を踏んだ。
足止めはできたがそれは束の間、間合いは結局縮まり残り10m辺りでロロが力を振り絞って隠し技を披露する。
氷の粒を手に集中させたった一つの氷の剣を作り上げた。
魔法を想像して創造する空中歩行のようなもので、本来魔法とは自身の魔力に詠唱と言う性質変化、形質変化を加える事で、脳に負荷をかける事なく魔法を使えるようにするものである。
ロロが今やって見せたのは、性質変化と形質変化を脳内でこなし脳に負担を掛けながら魔法を創造するいつ脳から血が溢れてもおかしくないような荒技。
そうして氷の剣を手に構え、左右に動きながら見えているかのようにベールが撃つ魔法を避ける。
3m程まで近づいていて、もうそこはロロの間合いでしかない。
ベールは左右に動くロロの動きに合わせて魔法を撃つ抵抗も虚しく、1秒後にはベールの身代わりとなる魔道具が倒れていた。
ロロは魔力が尽き、疲れ果てたのかその場で静かに倒れ込んだ。
最後の倒れる瞬間、俺を見てやってやったぞと言わんばかりの笑顔をしていたが気のせいだろうか。
場面はグレンダとティアラの戦場に映り変わる。
ベンディアは交戦に混ざる前に深呼吸をして息を整えている。
グレンダとティアラはベールとロロの戦いが始まる前から潰し合いをしていた割にはあまり体力を消耗していないように見える。
グレンダとティアラは攻撃パターンを用意していない様子で同じ魔法を使い分けているせいか、試合が全く進まない。
これはベンディアが来ないとなんの動きもないままずっとこれが続くと俺は感じた。
ベンディアも観客の声援を聴き取り、直感的に感じたのか急いでティアラと合流する。
合流してきたベンディアと元々そこにいたティアラの2人の連携に観客が魅せられる。
ティアラが水魔法で相手に弾を撃ち込む。
そのタイミングで風魔法をベンディアが撃ち込むことで、グレンダが相殺を意図して放った火魔法をベンディアが後に撃った風魔法が火魔法を拡散する。
先に撃っていた水魔法が風魔法の後にグレンダに直撃する。
一度目は耐えることができた。
次が当たれば最後だと知っているのか、グレンダは血迷った形相をしながら試行錯誤している。
試行錯誤が無駄だと分かり、グレンダは審判に降参を言い渡す。
「これにて一回戦目、ロロ・バリスチームの勝利!」
審判がキッパリと言い渡し、一回戦目が終わった。
次はあの危険度マックス以上あるエルフの戦いだ。
事前に知ることで策を考えよう。
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