6

 数十分後、川原が大森を連れて戻って来た。

 大森は、やはり一見普通に見えるが、ノワール曰く、魔法をかけた術者の腕がいい証拠なのだという。

 大森をイスに座らせると、彼の前に焼き立てのガレット・ブルトンヌを出した。

「なあ、陽芽子。これを食べればいいのか?」

「う、うん。食べてくれる……?」

「もちろん。陽芽子が作ったものなら、なんでも食べるよ」

 やはり大森には魔法がかかったままだ。大森はガレット・ブルトンヌを一つ手に取ると、口に運んでいく。

 本当に魔法は解けるのか? 一度は必ず失敗をする真白だ。

 なんだかオレの方が緊張してきた。

 みんなに見守られる中、大森は、大口を開けてガレット・ブルトンヌを口に入れた。もぐもぐと口を動かすこと、数回。

 ――瞬間。辺りは、まばゆい光に包まれた。

 やがて光が収まると、大森は、ぱちぱちと何度か瞬きをした。

「あれ……。オレ、なにをしてたんだっけ……?」

 大森は首を傾げさせる。人の苦労も知らないで能天気なヤツだ。

「ん? なんだよ、陽芽子。人のこと、ジロジロ見て。気持ちわりーなー」

 川原は、大森のそんな態度に、

「魔法が……、魔法が解けたっ……!」

 大声を上げる。

 本当か……。真白の魔法が成功したのか? それも一発で……?

 大森の態度から察するに、魔法は本当に解けているのだろう。川原は、わんわんと大声で泣き出す。

「ごめんね、空。ごめんねっ……!」

「なっ、なんだよ、陽芽子。なんでお前、泣いてるんだ? 変なヤツだなー」

 何度も謝る川原に、全く事情を知らない大森は困惑している。それも、そうだろう。魔法をかけられていた間の記憶はない、とノワールが言っていた。

「まさか真白の魔法が一発で成功するとは……」

 つい本音が出てしまった。その声は真白に聞こえたようで、

「黒沢くん、ひどいですー!」

と真白は頬を大きく膨らませた。

「でも今回魔法を使ったのは私ではありません。陽芽子ちゃんです。陽芽子ちゃんの大森くんを思う気持ちが魔法を解いたのですから」

「それにしても。真白以外の魔女か。何者なんだ、そいつは」

「そうですね。少し気になりますね……」

 真白も彼女にしてはめずらしく真面目な表情を浮かべていた。だが川原と大森の様子を眺めている内に、いつもの能天気そうな顔に戻っていた。

 散々大地を濡らしていた雨空も、いつの間にか晴れていた。

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