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今日は朝から散々だった。日課である朝自習もできなかった。どうして邪魔ばかりするんだ。オレは、ただ……。
一秒でも早く帰って遅れを取り戻さないと。
大股で歩いていると、
「黒沢くん、待ってくださーい!」
後ろからオレを呼ぶ声が聞こえてきた。真白の声だ。
オレは無視して歩き続けたが、真白が鈍臭い走り方で追いかけて来た。
「黒沢くん、お家がお隣なんですから一緒に帰りましょうよー」
「断る」
「そんなこと言わずに、一緒に帰りましょうよー」
拒絶しているのに真白はオレの隣に並び、勝手に付いて来る。本当に人の話を聞かないヤツだ。
大体、どうしてこの女は、オレなんかと関わろうとするんだ。クラスメイトは誰一人、余程の用がない限りは話しかけてこないというのに。この女だけ、どうして……。
「あっ! 見てください、黒沢くん。ネコさんです。かわいいですねー」
小学五年生にもなって、野良ネコにはしゃぐなんて。本当に変なヤツ……。
この女の頭の中には、脳味噌の代わりに満開のお花畑が詰まっているんじゃないのか?
「黒沢くん、歩くの早いですね」
「だったら一人でゆっくり帰ったらいいだろ」
「そんなこと言わないでくださいよー」
「いい加減にしろよ! オレは、お前と違って忙しいんだ!」
「忙しい? 忙しいとは、この後、なにかご予定があるんですか?」
「ああ、そうだ。家に帰ったら、寝る時間までオレは勉強しないとならないんだ。だから邪魔するな」
「ふわあっ……! そんなにたくさん勉強するんですか? それは大変ですね。宿題をためちゃったんですか?」
「違う! お前と一緒にするな。宿題じゃない、受験勉強だ」
「受験ですか? 黒沢くん、中学受験をするんですか。すごいですね。でも私たち、まだ五年生ですよ」
「オレが話しているのは、中学受験のことじゃない。大学受験の話だ」
「大学ですか? まだ小学生なのに、もう大学受験のお勉強なんてしているんですか?」
「早くなんてない。将来のことを考えたら、今から勉強するのは当たり前だ」
「もう将来のことを考えているなんて。さすが黒沢くんです、すごいです……!」
本当に単純な女だ。コイツといると調子がくるう。
早歩きで引き離そうとしているのに、真白は、しぶとくついて来る。
「黒沢くんは、夢を叶えるために頑張っているんですね。私も夢を叶えるために頑張らないとです」
「夢だって?」
「はい。私の夢は、一人前の魔女になることです――」
オレの瞳をまっすぐに見つめて告げる真白。その瞬間、さあっ……とオレたちの間に一筋の風が流れ込んだ。
「……夢、変えた方がいいと思うぞ」
「ふええっ!? どーしてそういうことを言うんですか!?」
「本当のことだろ。残念ながら人には向き、不向きがあるんだ。魔女なんて、お前には全く向いてない。現実を受け入れろよ」
「頑張れば、なんだってできます! 私は、一人前の魔女になるんです! 百パーセント不可能なことなんてないんですっ!!」
確かにこの女は、さっき不可能を可能にした。だが、あんなの偶然だ。たまたま運がよかっただけだ。
「とにかくオレは忙しいんだ。分かったら、これ以上ついてくるな!」
「で、でも私のせいで黒沢くん、濡れてしまって。このままだと風邪を引いてしまいます」
「どうせ、もう帰るだけだ」
家までだって、そう遠くもない。これ以上、ポンコツ魔女と一緒にいられるか。
真白を無視して歩いていたが、数歩進んだところでオレの足は止まった。どさどさと頭上からネコが降ってきたからだ。
「はわわっ!?? 黒沢くんの服を乾かそうと思ったのに、また失敗しちゃいましたーっ!」
わざわざ言わなくとも分かる。後生だから、これ以上、余計なことはするな……!
そう言いたかったのに、なぜか言葉が出てこなかった。あとが続かなかった。
急に頭がくらくらして、オレの意識は、なぜかそこで途絶え……。
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