レシピ3:よろしくのウッフ・ア・ラ・コック

1

 午前七時――。

 予定通りの時間に起床。顔を洗い、服を着替え終えると、オレは早速机に向かう。

 今日は学校が休みだ。おかげで一日中勉強ができる。ここ最近、脳内お花畑の魔女っこに振り回されているせいで、思うように勉強ができなかった。だが、今日でその遅れを取り戻そう。

 机の上に参考書とノートを広げ、シャーペンを握った瞬間だ。ピンポーンとチャイムの音が鳴った。

 こんな朝っぱらから誰だよ。はた迷惑な。どうせ宗教の勧誘か、押し売り販売だろう。オレは居留守を使うことにし、無視して参考書へと目を向ける。

 だが、ピンポン、ピンポン、ピンポンと何度もチャイムが鳴り続ける。なんてしつこいんだ。

 チャイムが鳴り続く中、オレは立ち上がると玄関まで行き、

「うるさいっ!!」

 いらだちを隠すことなく扉を開け放った。

「あっ、やっぱりいました。黒沢くん、おはようございまーす!」

 一抹の悪気も抱いていない様子で、真白は、ぺこりと頭を下げた。

 顔を上げると真白は、にこりと、いつもの能天気そうな笑みを浮かべさせる。

「こんな朝っぱらから、なんの用だ」

「なんの用って、とっても大事な用です」

「大事な用だと?」

 オレには、なにも思い付かないぞ。少なくとも真白と約束した覚えはない。

 早く用件を言うよう促すと、真白は告げた。

「黒沢くん、一緒に朝ご飯を食べましょう」

「断る」

「あれ。もしかして、もう食べちゃいましたか?」

「休みの日は食べないんだよ」

「ええっ、それはいけません! たとえお休みだろうと、朝ご飯は毎日しっかり食べないと!」

 真白は、ぐいと顔を近付けてくる。オレは、そんな真白の顔からふいと離れる。

「なにが大事な用だ。オレは忙しいんだ、ほっといてくれ」

「まあ、まあ。今日の朝ご飯は自信作なんです」

 真白は、がしりと閉じかけていた扉を無理矢理こじ開けると、オレの腕をつかみ取った。閉めかけの扉をこじ開けるなんて、なんちゅー握力をしているんだ。

「黒沢くん、朝ご飯は、ちゃんと食べないとだめですよー」

「少しは人の話を聞けーっ!」

 必死に叫ぶが、残念ながらオレの切実な願いは一ミリも真白には届かない。

 オレの家の隣に、とんでもない連中が越してきた。正確に言えば、オレが住んでいるアパートの隣の建物に、だ。

 この朝食、朝食とうるさい脳内お花畑女は、自他ともに認める魔女だ。いや、魔女と呼ぶにはまだ未熟なので正確には『魔女っこ』らしいが、心底どうでもいい。魔女だろうと魔女っこだろうと、オレにとっては同じふざけた存在だ。邪魔者であることには変わりない。

 このポンコツ魔女っこに、オレの規則正しい日常が破壊されつつある。今だって貴重な勉強時間を奪われているんだ。迷惑以外のなにでもない。

 仕方がない。ここは、さっさと食べて帰ろう。食べさえすれば、このポンコツ魔女っこも満足するだろう。

 オレは乾いた息を吐き出すと、黙って真白の後をついて行った。

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