第11話

 ロフシーは角が折れひび割れた彫刻を、しばし腕組みをして見つめる。

「修復は難しいです。私には鋳造の技術はありませんし、青銅を一から作る知識もありません。ただ、塊から削って作ることはできます」

「よし。ならばお前の最初の仕事はこれだな。頼むぞ」

「わ、わかりましたっ!」

 ガイラは傍らのリザードマンに視線を向ける。

「必要な材料と道具は揃うか」

「はい。鍛冶地区に行けばあると思われます」

 次に向かう場所は、ちょうど農地の反対側にあった。

「鍛冶では水を使いますが、有害なものが混ざってしまうのでそれが畑にも混ざらないように離れた場所にあります」

「なるほどー」

 リザードマンの説明に、背負われたロフシーが頷く。

 最初は一緒に歩いていたのだが、彼女と他の歩幅が違いすぎて途中で疲れてしまったのだ。そこでガイラの命令によってロフシーはリザードマンの背中が居場所になった。

「ずいぶん嬉しそうだな」

 ガイラは、背負われたロフシーを気にしている様子のリザードマンを見て言った。

「我らの子が生まれなくなって久しいですので。あのように幼い者がいるのは嬉しいのです」

 一行が到着したのは、一軒の鍛冶場だった。煙突からは煙がのぼり、鉄を叩く音が聞こえている。

 中に入るとすぐに広い作業場になっていた。炉のなかでは炎が舞い、その前で一人が作業をしている。炉で熱されて赤くなった鉄を、金床の上でリズミカルに鉄槌で叩く。

「少し話がある」

 リザードマンが声をかけると顔がこちらを向いた。まだ若い女性だった。赤く波打つ髪の毛は左右に広がり、額には大粒の汗が光っている。

「あとちょっとだけ作業させて」

 素早く鉄槌で鉄の形を整えると、水のなかに入れる。音とともに水蒸気が発生した。

「悪いね。きりのいい所までやりたくてさ。って、誰?」

 鍛治師の女性はロフシーとガイラを見て首を傾げた。

「この方は我らの主人、ガイラタビィーエ様だ」

 リザードマンの言葉に女性は目を細める。

「あんたたちの言葉はわからないんだよなー」

「えっ! リザードマンさんの言葉がわからないんですか?」

 不思議そうなロフシーの様子に、女性は驚く。

「リザードマンってのは、このでっかいトカゲたちのことか? あんたはこいつらの言葉がわかるの?」

「そうですよ」

「じゃあ、さっき何て言ったのか教えてくれよ」

 ロフシーはガイラを手で示しながら説明する。

「この人はガイラさん。リザードマンさんたちのご主人様です」

「ご主人様って、じゃあここの領主様ってことじゃないかっ! 無礼な態度してしまってすいませんでした!」

 女性は顔色を青くすると、その場で膝を折り頭を下に着けて平伏した。

「本当にすいませんっ!」

「……いいから顔を上げろ」

 女性は徐々に顔を見せた。表情はおびえている。

「お前の名は?」

「……パニメットといいます」


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