第22話

「できましたー!」

 ロフシーは満足そうに言った。

 作業台の上には、ついに完成した精霊神の頭部があった。

「おめでとうございます」

「リザードマンさんが手伝ってくれたおかげですよ」

 青銅製の頭部は大きく、ロフシーだけでは動かすのが無理だった。作成中はリザードマンに頭部を支えてもらうなどしてもらえなければ、完成するにはもっと時間がかかっただろう。

「あとはこれを取り付けるだけです」


 ロフシーとガイラと多くのリザードマン達が、農地に流れる用水路を遡り、その源にたどり着いた。破損した精霊神の口からは、細く水が流れ落ちている。

「取り外せ」

 ガイラの号令でリザードマンたちが精霊神の頭部を外すと、運んできた新しくロフシーが製作した頭部を設置した。

「ガイラタビィーエ様」

 ガイラは近くまで行くと、腕を精霊神の頭部へ向けた。すると腕輪に嵌め込まれた宝玉から、緑色の輝きが放ち始める。精霊神の頭部も同じ光で輝きだす。

 光っていたのは短い時間だった。ガイラは腕を下ろすと、いつもと同じ無表情で戻ってくる。

「な、なにが起こったんですか? 光ってましたけど……」

「黙って見ていろ」

 ロフシーが驚きに目を開いた顔で質問したが、ガイラは一言で切り捨てた。

 音が聞こえた。断続的に聞こえてきた音はやがて繋がり、大きな音へと変化する。すると精霊神の口から、水が吹き出した。先程の何倍もの水の量だった。

「ええっ! 水がいっぱい! どうしてですかっ?」

 ロフシーはガイラの横顔を見上げるが、ただ黙っているだけだ。

「これがガイラタビィーエ様の御力なんですよ」

「すごいですっ!」

「……フン。俺の力だけではない。ロフシーが作ったからだ」

 ロフシーが驚く。

「私がですか?」

「魂が込められた物には力が宿る。ロフシーがその技術と魂で製作したからこそ、俺の力が使えたのだ」

 ロフシーは自分の作品である精霊神の頭部へ視線を向ける。水を出し続ける様子を見ていると、胸に誇らしい気持ちが湧いてきた。

(これって……)

『ロフシー、よく出来てるよ』

 母親に自分が製作した物を見せたときに誉められるが、本当に嬉しかった。もちろん自分の技術を誉められたことは嬉しかったが、それ以上に母親が笑ってくれるのが嬉しかった。

 しかし、もう母親はどこにもいない。

(お母さん……)

 ロフシーの頭にガイラが手を乗せた。

「見ろ。あの者達も嬉しそうだ」

「え?」

 リザードマン達が、流れ出る水を見て歓声をあげていた。両手を頭上に掲げ、長い尻尾が上下に大きく振れる様は、彼らが興奮している事を如実に表している。

「凄いじゃないかロフシー! 言葉はわからねえけど、リザードマンが喜んでるってことはアタシにもわかるよ」

 一緒に来ていたパニメットが、ロフシーの背中を叩いた。力が強いので体が前につんのめる。

「わわっ」

 ロフシーはガイラとパニメット、リザードマン達を見回す。彼らと共にこれから暮らしていく。

(お母さん。私がんばるよ)

 太陽に照らされて水飛沫が銀色に輝いていた。

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