第23話
精霊神の頭部が完成すると、ロフシーには次の仕事が待っていた。農地の逆側、ロフシーの作業場がある地区に流れる用水路の源にも、精霊神の頭部と同じような物があった。それの製作だ。
「次にロフシーにはこれを作ってもらう」
それは精霊神ではなく、青銅製のリザードマンの頭部だった。
「こっちはリザードマンさんなんですね」
「同じようなものだ。問題なく作れるだろう」
「はい、大丈夫です」
実際、問題なくロフシーはリザードマンの頭部を作製できた。
「ロフシー、お茶をどうぞ」
「ありがとうございます」
リザードマンが淹れてくれたお茶をロフシーは飲む。
その様子を、同じテーブルに座っているパニメットは同じくお茶を飲みながら見ていた。
ロフシーとパニメットは、二人で昼食を共にすることが多かった。食事はリザードマンが持ってきてくれるので、昼食時間が同じになるのだ。二人の暮らす家にはかまどが付いた台所もあるのだが、食料が無いので調理ができない。実はこの街には、商店というものが存在していなかった。リザードマンしかいないので、貨幣を使うことがないのだ。
「ロフシーはどうしてリザードマンの言葉がわかるんだろうね? アタシは今でもわからないってのに」
「そういえば、パニメットさんっていつからここにいるんですか?」
「もう一年以上になるか」
「へー。その前はどこに?」
パニメットが表情を苦いものに変えた。
「あそこの事は思い出したくねえなぁ」
「ご、ごめんなさい! 変なこと聞いちゃって」
「ロフシーは悪くねえよ。まあ、アタシは前にいたとこでいろいろあって、ここに流れてきたって感じさ。最初にリザードマンを見たときはもう、驚いて殺されるって思ったよ」
パニメットはリザードマンに視線を向ける。
「まあ、今はそこまで恐ろしいやつとは思わないけど」
「リザードマンさんはみんな優しいですよ」
「ありがとうございます」
ドアが開き誰かが入ってきた。
「話がある」
「ガイラさん。どうしました」
リザードマンを連れたガイラが予定無くやって来た。
「ロフシーに仕事を頼みたい。そこのリザードマンがしているようなペンダントを作れ」
「素材はどうします?」
「同じものでいい。作ってもらうのはパニメットが使うものだ」
ガイラの言葉にパニメットは驚く。
「アタシの?」
「お前にはやってもらう事がある」
翌日にはペンダントが完成した。
「貸せ」
ロフシーから手渡されたペンダントを、ガイラは片手で握る。
「…………」
握られたペンダントが緑色に数秒光り、元に戻った。
「ロフシー、これをパニメットに」
「これをアタシが着ければいいのかい?」
パニメットは訳もわからずペンダントを首にかける。
「これで我らの言葉がわかるのですか」
「そのはずだ」
リザードマンとガイラの会話を聞いたパニメットの表情が、驚きに変わる。
「言葉がわかる!」
驚きが消えない彼女を、ガイラは冷たい目で見る。
「お前には人間たちと取引をしてもらう」
荒野の鱗風草 山本アヒコ @lostoman916
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