第21話
「ここは絵画を保管している倉庫です」
それなりに広い部屋は、ほぼ全て埋まっていた。額縁に入れられて壁に飾られているものもあれば、イーゼルに置かれたものもある。壁際には棚があり、そこにも多くのキャンバスが入れられていた。
「精霊神様の絵画はこちらです」
絵画は大きいものから小さいものまで、かなりの数があるようだった。そのどれもが名のある絵描きの作品だとわかる見事さだった。
「たくさんあるんですね」
「皆こぞって献上していましたから。もし気に入ってもらえれば、自分が有名になれますので」
「精霊神様が頼んだんじゃないんだ」
案内してきたリザードマンは苦笑した様子だった。
「あの方はそういうのを好みませんでしたので」
「ええっ? 今作ってるのは精霊神様の頭なんですけど。作らないほうがいいのかなあ……」
ロフシーの言葉を聞いたリザードマンはひどく慌てる。
「そ、そんなことはありません! ガイラタビィーエ様のご依頼なのですから、大丈夫です!」
「そうですよね。お仕事を頼まれたんだから、ちゃんとやらないと」
リザードマンは胸を撫で下ろした。
「うわあー」
次に案内されたのは装飾品などの小物が保管されている部屋だった。もともとロフシーが得意としている細工物なので、つい興奮してしまう。
「どうやって作ってるんだろう?」
金銀銅、複数の素材で作られた腕輪や指輪に耳飾り。そのどれもが模様や絵で艶やかに装飾されている。ロフシーには到底不可能な高度な技術が使用されいる物がいくつもあった。
「これって……」
ここには棚などに飾る小さな置物も保管してあった。木彫りの人形や動物。その中にそれを見つけた。
それは素朴な灰色の石を彫って作られた、精霊神の石像だった。大きさはロフシーが片手で持てるほど。他にも大理石や動物の牙を彫刻した美しく高価な像がいくつもあったが、彼女はこれに惹き付けられた。
灰色の表面は美しく磨かれていた。撫でてみても引っ掛かる場所はどこにもない。波打つ体に細かい鱗が一枚ずつ彫ってあり、瞳にはまるで生きているかのような輝きがあった。
「…………」
「どうしました」
無意識のうちにロフシーはその石像を何度も撫でていた。
「はっ。ごめんなさい。何だか触っていたくて」
「気に入ったのなら持ち帰ってください」
「いいんですか?」
「はい。こういったものに興味が無いのです、精霊神様は」
「お帰りなさいませ、ガイラタビィーエ様」
「ああ」
「今ロフシーが館に来ております」
「何? ロフシーがか。案内しろ」
リザードマン達を連れたガイラが向かったのは、長い廊下だった。その壁際にはいくつもの石像が並んでいる。そのうち一つの石像の前にロフシーがいた。リザードマンから石像の説明を受けていた。
「これも精霊さんの姿なんですね」
「ケットシーと呼ばれる精霊です。見た目は猫ですが二本の足で歩き、靴と服を身につけているのが特徴ですね。とにかく身を飾るのが好きで、派手なものを好みます」
「はーなるほどー」
石像を見上げていたロフシーは声に振り向く。
「ロフシー、何をしている」
「あっ、ガイラさん。館のなかを案内してもらってました」
「物は完成したのか」
「それが、どうしても完成させることができなくて……精霊神様の像を見れば何かわかるかもって思って来たんです」
「それで、効果はあったのか」
「はい!」
ガイラは笑顔のロフシーが、その手に何かを持っていることに気づいた。
「これですか? 精霊神様の像です。これを見たら作れるぞって思ったんですよ」
ロフシーはそう言いながら、石像を手で撫で回している。
「なぜずっと撫でている」
「何だか触ってると落ち着くんですよね」
精霊神の全身をロフシーの手が撫でていく。頭を背中を、腹を小さい手指が這い擦る。
ガイラの眉がわずかに動いた。
「やめろ」
「え?」
「それを撫でるのをやめろと言ったのだ」
ロフシーの指先が、精霊神の顎下をゆっくり往復する。
ガイラの眉が片側だけ跳ねた。
「いいから、やめろ」
「わかりました……」
ロフシーは不満そうに口を尖らせながら精霊神の像をしまった。
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