第20話
「うーん」
ロフシーは腕組みをしながら難しい顔をしていた。
場所は館に入ってすぐの、大きな角がある蛇の像の前だった。それを見ながらうなっている。
「すいません。私を持ち上げてもらえませんか」
「持ち上げるのですか?」
ロフシーと共に同じ場所で暮らすことになったリザードマンは、彼女の体を両手掴むと、幼い子供にやるように頭上へ持ち上げた。ロフシーは小柄だとはいえ子供よりも重いのだが、リザードマンには軽すぎるので簡単な事だった。
「何をしているのですか」
声をかけてきたのは、館で働くリザードマンだった。
「この像を見れば、何かがわかるかもって思って」
ロフシーは蛇の頭部を製作できなくなっていた。後は目と鱗を彫り、細部を調整すればいいだけだったのだが、手が動かなくなってしまったのだ。このままでは完成させることはできないと、職人の本能が告げていた。
「なぜ作れないのですか」
「今あるものと同じのは作れます。でも、同じなだけじゃダメなんだって、なぜかわかるんです。自分でも不思議なんですけど……」
作りかけの頭部を前にいくら考えてもどうにもならなかったので、この場所へやって来たが何も変わらない。リザードマンに持ち上げてもらって像の頭部を近くで見ても、それは同じだった。
「どうすればいいんだろう……」
「それでは、精霊神様に関係あるものを見てはどうでしょう。この館にはいくつもありますので」
「本当ですか!」
「はい。案内します」
ロフシーが案内されたのは館でも一番広い部屋だった。百人以上が入っても余裕があるだろうこの場所は、舞踏会も行えるホールだった。高い天井には絵が描かれ、シャンデリアがぶら下がっている。太い石柱には美しい彫刻が施されていた。流れるような模様に草花など。
「あの、この彫刻は何ですか? 人の背中に羽があるようですけど」
「これは妖精という名前の精霊です」
「精霊だったんですね。どんな精霊なんですか?」
「体が非常に小さく、大体人の手に乗れるぐらいです。気分屋でイタズラ好きで、花の蜜を好んで食べます」
「へー」
広いホールの一番奥、一番身分が高い者が座る豪華な椅子が置かれた一段高い場所の背後。その壁一面に巨大な壁画があった。角を持つ蛇の全身だ。
「すごい……」
壁に直接描いている所もあるが、その部分は少なかった。緑色に輝く全身の鱗と丸い瞳は、全てが鉱石でできていた。
遠くから見ると緑色一色だったが、近くで見ると複数の種類の鉱石が使用されていて、緑色にも種類があるのがわかった。鱗と鱗の隙間にも複数の鉱石が埋め込まれ、開いた蛇の口からのびる長い二又の舌は赤色の鉱石、頭にある角は黄色の鉱石が埋め込まれていた。
「角って黄色だったんですね」
「もっと近くで見てもいいですよ」
ロフシーは段にのぼり、壁際に立つ。磨かれた鉱石の美しさがさらによく見えた。
「触ってもいいですか」
許可をもらうと指先で緑色の鱗になっている鉱石を触る。表面はとても滑らかだ。これだけで高度な技術が使われていることがわかる。この壁画に使用されている鉱石はどれもロフシーが知らないものだが、高価な物だというのは明らかだ。それがこの大きな壁一面に存在している。全部でどれだけの値段になるのか、彼女には想像もできなかった。
「他も見ますか」
「お願いします」
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