第7話
館のなかもロフシーにとって驚きの連続だった。
館に入ってすぐの広間には、巨大な石像が鎮座していた。体をくねらせる巨大な蛇らしきもの。ロフシーが蛇ではないと思った理由は、その頭に長い角があったからだ。全身に蛇のような鱗があるのは同じだが、彼女が見たことのない姿だった。
トカゲたちに続いて進む。広く長い廊下の壁には等間隔で火が壁に灯されていた。ロフシーの村では家畜の糞などを燃やすので臭いのだが、そんな臭いはまったく無かった。不思議に思って見たのだが、彼女にはよくわからなかった。
「まずはこちらでお寛ぎください」
トカゲが開けた扉を見て、ロフシーはまたも驚く。荒野では貴重品である木でできたものだったからだ。
中に入っても驚く。広い部屋の中央に、何十もの椅子が並べられた長い机。それらも全て木製だった。これだけで一財産の高級品である。
ガイラは部屋の奥側にある椅子へ案内された。その椅子は他の椅子に比べて背もたれが高く、装飾も派手だった。位置は長方形の机の短編側で部屋全体を見渡せる、一番地位の高い者が座る場所だ。
「ど、どうも……」
ロフシーもトカゲに案内され、初めて座る豪華な木製の椅子に、恐る恐る腰をおろす。見事に磨かれて輝く木肌は、手で触るのも躊躇するほど。しかしガイラは一切気にする様子はなく、まさにこの場の支配者だった。
「あなた様のご帰還を、心より嬉しく思います。まずは臣下一同を集め忠誠を改めて誓うべきですが、急な事であったため用意ができておりません。申し訳ありません」
「かまわん。あの謁見の儀というやつは、とにかく面倒だった。人数が多すぎて誰が誰だか覚えられん。しかもそれが何日もだ」
本当にうんざりした様子のガイラに、トカゲの口が上向きの弧をつくる。
「幸いにと言っていいのか、かつてとは比べることもない数の臣下しかおりません。すぐに終わります」
「それはよかった」
「ここにあなた様が戻ってきたということは、上神様の封印が解かれたということ。お許しがでたのですね」
「それは……わからん」
トカゲはその巨体に比べると小さくてつぶらな瞳を、二回まばたきした。
「それは、どういうことでしょう?」
別のトカゲが盆に乗せて杯を運んできた。ガイラの前に置き、次にロフシーの前に。
「ありがとうございます。ん、おいしい! 水だけじゃない味がする!」
果実の汁を混ぜた水の美味しさに、ロフシーが思わずはしゃいだ声を出して飲んでいると、こちらへ向けられたガイラとその隣に立つトカゲの視線に気づく。恥ずかしくなって、顔を赤くしながら杯を置く。
「ご、ごめんなさい……」
「気に入ったのなら遠慮をするな。いくらでも飲んでいい」
ガイラが指を振ると、杯を運んできたトカゲが一礼して、おかわりを持って来るために部屋を出ていく。
体を小さくしているロフシーを見ながらトカゲが口を開く。
「ところでこの娘とはどういう関係でしょうか?」
「おそらくだが、俺の封印を解いたのはこいつだ」
「何とまさか!」
トカゲは大きな口を開けて驚く。ロフシーはじっと見つめる視線に居心地が悪くて、体を揺らせる。
「あの、よくわからないですけど、私はガイラさんに水を飲ませてあげただけで……」
「水を……そういうことですか」
トカゲは大きく頷き、ガイラはつまらなさそうに息をはく。ロフシーは訳がわからず、視線を二人へ交互に向けるが答えは返ってこなかった。
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