第6話

 門の向こうからやってきたのは、二本足で歩く直立した大きなトカゲだった。身長はガイラよりも頭二つ以上も高い。頭も大きく牙が並ぶ口はロフシー程度なら丸呑みできてしまいそうだ。

 十人あるいは十匹以上のトカゲたちの足音が、やけに大きく聞こえる。全員が手に武器を持っている。長い槍、槍を持たない者は

腰に剣と手に盾を装備していた。

 その迫力にロフシーは後ずさると、ガイラの手が優しく背中に触れた。

「心配するな」

 これまで聞いた声のなかで一番優しいものだった。ロフシーが顔を見上げると、ガイラは無表情でトカゲたちを見ている。

 武器を持った巨大トカゲの集団はガイラの前で停止すると、一斉に地面へ膝を着いて頭を下げた。それはまさしく、臣下が主に対して恭順を示す動作だった。

 突然のことに目を丸くするロフシー。ガイラは表情をまったく変えず静かにトカゲたちへ目を向けている。

「この日を待ち望んでいました、ガイラタビィーエ様」

「お前たちは、なぜここにいる。この地はこの有り様だ、精霊には厳しい。別の地へ向かうべきだ」

 先頭にいたトカゲが顔を上げてガイラを見る。

「我らを受け入れてくれたのは、あなた様だけでした。他の地はどこも拒絶するでしょう。我らがいるべき地はここしかありません」

「物好きだな」

 ガイラはほんの僅かに口元を弛めた。

「俺とこの娘は中に入れるのか」

「勿論です。ここはあなた様の地です」

 トカゲたちは立ち上がり向きを変えると、開いたままの門へ向かっていく。呆然としていたロフシーは、ガイラに頭を手のひらで叩かれて我にかえる。

「はっ」

「何をしている。俺たちも行くぞ」

 ロフシーとガイラが門を通過すると、重く巨大な鉄門は閉じられた。

「うわあー」

 これまで村から出たことがないロフシーにとって、壁のなかはどれも見たことがない景色だった。

 日干しレンガを使った建物は同じだが、形も大きさも違う。身長が高く肩幅も広いトカゲたちが出入りするため、入り口がまず高く広い。ロフシーの村には二階以上ある建物は数件しかなかったが、この場所では珍しくないようで、三階以上の建物も数多くあった。しかもそれらが密集して、門から続く大通りの両脇に並んでいる。

 ロフシーは口を開けて左右を眺めながら歩く。

「ちゃんと前を見ろ。そんなに珍しいか」

「村から出たことがなかったから、こんなの初めてです!」

 ロフシーにとってここは大都会だ。周囲には大勢のトカゲたちがいたが、ガイラを見ると誰もが地面へ膝を着いた。それを見てもガイラは気にすることもないが、ロフシーには落ち着かない。

「こちらがあなた様の館です」

 大通りをひたすら進んだ突き当たりに、その大きな石造りの館はあった。高くそびえる岩山の斜面を使って建てられた様子は、館というより城である。高い塀と両開きの鉄扉が設えられた門は強固すぎるほど。大きな石を積み上げた館の壁は、どんなことをしても崩れることはなさそうだ。

「何をしている。早く来い」

 その迫力に圧倒されていたロフシーは足を止めてしまっていた。なので門が開かれたことに気づいておらず、ガイラとの距離が開いてしまっていた。

「他に行く場所があるならここまでだな」

「私も行きますー!」

 ロフシーは小走りで門を通り過ぎた。


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