第5話

「ガイラさん、どこへ向かっているんですか?」

「水がある方向だ。お前には必要だろう」

「水がある場所がわかるんですか!」

「ああ」

 実際に先程は水が湧き出ている場所があったので、ロフシーは「そうなんだ」と納得してしまう。

 相変わらず動物も植物も姿が見えない荒野をしばらく歩き、崖が風化して崩れてできた危険極まりない階段をロフシーは苦労しておりる。彼女は両手両足を使って、時には下に這いつくばるような姿だったが、ガイラはまるで普通の階段かのように涼しい顔で足進ませる。

 あっという間に下まで到着したガイラは、早く来いと頭上のロフシーを睨む。「ムリですー!」とロフシーは半泣き。

「はあはあ、やっとついた」

 地面に手をついてロフシーは荒い息を整える。ガイラは素知らぬ顔で目を向けさえもしない。

「…………」

「ま、待ってくださーい」

 無言で歩き出した背中を追いかける。

「あの、水がある場所って遠いですか? もう少ししたら夜になりますけど」

「近い。もう少しだ」

 しばらく進み、大きな岩を右へ曲がるとそれが見えた。

「村ですか」

「さあな」

 近づいていくと、ここがロフシーの暮らしていた村とは比べ物にならないほど大きな場所なのだと気づいた。

 ロフシーの村は、大人の手が届かない高さまで石と日干しレンガを積み上げた壁で囲まれていた。荒野には木はほぼ存在しないので、建築材料として使えるのは石と土しかない。

 壁で囲まれているのはロフシーの村と同じだが、日干しレンガは使われておらず全て石でできている。ただし石の大きさが比べ物にならない。綺麗に切り出された四角い石はどれも大きい。一番下の土台になる石など高さがロフシーの二倍ほどもある。上にいくほど小さくなるが、どれも村より大きい。

 なので壁の高さも相当なものになっている。ロフシーは首を真上にしなければ見上げることができない。

「すごい……」

 入り口には巨大な鉄製の門が閉まっていた。ガイラの身長の二倍以上もある落としと門だった。なので押して開くことはできず、ここを通るには門を上に引っ張り上げてもらう必要があった。

「はっ、そうだ。ガイラさん、どうすれば通れるんでしょう。声をかければいいんですか?」

「さあな」

 ロフシーはどうすればいいかわからず無意味に左右を見て、ガイラはといえば我関せずといった表情でただ立っているだけ。

 鎖が擦れる音がした。耳障りな金属音と軋む音とともに、門が揺れる。風で吹き付けられた土を落としながら、ゆっくりと金属の門が上へ持ち上がっていく。

「ひ、開きましたよっ!」

 開かれた門の向こうから複数の人影がこちらへ歩いてきた。その姿を見たロフシーは困惑と少しの恐怖が混じった声を漏らす。

「と、トカゲ?」


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