第10話

 農地は先ほどまでの光景とは違い、建物が見えないものだった。平らに整地された畑で、リザードマンたちが農作業をしている牧歌的な風景だ。ただし広さのわりに使用されている土地は狭いようだった。

「うわーすごーい!」

 ロフシーは歓声をあげるがガイラは渋い顔だ。

「荒れているな」

「弁解のしようもなく……」

 顔を俯かせるリザードマンを見て、ロフシーは不思議に思った。村の何倍もあるような畑が広がり、緑色の葉を広げた作物が多く育っている。畑の作物がほとんど失われることも多く、備蓄もままならないのが普通なのに、ここはそんな心配は無いように見える。ここは彼女にとって楽園のように思えていた。

「半分以上の畑が不使用か」

 たしかに多くの畑が管理されていないようで、耕された様子がなかった。

「原因は人手不足か」

「それもありますが、一番の原因は水です」

 ゆるやかに流れる水を見て、ロフシーは目を輝かせた。

「うわあー。こんなたくさんの水、村の泉でしか見たことがないですよ! お祭りで十年に一度だけ見れるんです。村長さんとかしか入っちゃいけない場所でした」

 はしゃぐロフシーとは違い、ガイラの眉間にはしわができる。

「少なすぎる」

 用水路はくるぶしほどの深さしかなかった。幅も細く流れも遅い。

「わかってはいたが……かつてとは比べものにならんか」

 ガイラの脳裏にいつかの風景が浮かぶ。深く幅の広い用水路が畑を縦横に巡り、大量に実る作物を大勢の臣下たちが収穫する。大変な作業だが、どこからも楽しげな声や歌が聞こえていた。

 しかし今はそんなものはどこにもない。荒れた畑が大半を占め、作業するリザードマンの数も少ない。

「源流はどこだ」

「こちらです」

 それは切り出した石で建造されたモニュメントのように見えた。上から見ると六角形の土台の上に直方体が乗っている。直方体には青銅で作られた生物の頭部が嵌め込まれていた。それは館にあった大きな彫刻と同じ、角がはえた蛇の頭部だった。ただし角が折れたり、ひび割れて一部が剥離したりなど破損が目立つ。開いた口から水が細く流れ出ていた。

「たしかここに水を貯める池があったような気がしたが?」

「貯まる前に蒸発してしまうので、埋めました」

 ガイラはうんざりした様子でため息をつく。

「ああー。綺麗な細工なのにもったいない……」

 ロフシーは小走りで近寄ると、破損した蛇の頭部を手で撫でる。高さがあるので、背伸びをしなければ手は届かなかった。

「ロフシー、それを修復できるか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る