第9話
「ここで働かせてもらえるんですか!」
ロフシーは勢いよく顔をあげた。
「ここには鍛冶師はいるが、腕の良い細工師はいない。働いてくれるなら便宜をはかるぞ」
「ありがとうございます!」
「そうか。明日の朝、仕事場へと案内する。今日はもう休め」
ガイラが視線だけで指示をするとトカゲが部屋へ入ってきた。ロフシーを部屋まで案内するためだ。
「あっ、あの、本当にありがとうございます。私がんばって働きますので!」
ロフシーは深々と頭を下げると部屋を出ていった。
「気持ちのよい娘ですね。我らをあまり怖がってもいませんし」
「考えが足りぬだけだろう」
頬杖をついてロフシーがすでに出て閉じられたドアを見ているガイラを、傍らに立つ大きなトカゲは目にかすかな笑みを浮かべて見ていた。
「その目は何だ」
「いいえ。特に何もありません」
翌日の朝、昨夜と同じく二人で朝食を食べたあと館を出る。
「ガイラさんも一緒に来るんですね」
「嫌なのか」
「イヤイヤ、そんなことないですよ! ただ、ガイラさんってここの王様? なんですよね? だったらお仕事とかいっぱいあるんじゃないかなーって」
「俺もここに来るのはずいぶん久しぶりだ。変わっている場所が多いはず。そこを見て回る必要がある」
「それは私もですか?」
「お前もここで暮らすのだから、ある程度どんな場所なのか知っておいたほうがいいだろう。あとは自分で歩いて回れ」
確かにそうだとロフシーは頷く。
出発するのはロフシーとガイラ二人きりではなく、周囲には十人以上の武器を持ったトカゲたちに警護されていた。見るからに威圧感がある集団なので、誰も近づいてはこないだろう。しかしそれ以前に、ガイラの姿を見たトカゲたちは地面へ膝を着いて頭を下げているので、警護する意味も無いのかもしれない。
ロフシーは広い大通りを歩きながら、左右に頭を振って観察する。荷物を運んだり、建物を修復したりしているトカゲたちは、建物の数に対して少ないようだった。ロフシーは気づきもしないが、ガイラは違う。
「少ないな」
「はい。何とか耐えてきましたが、徐々に数は減っています」
ガイラは隣を歩く、昨夜の夕食でも一緒にいたトカゲの答えに目を細めた。
「お前たちの種族だけか」
「少数ですが……」
ロフシーは話をしているガイラたちの背中を見たが、距離があり声も小さいので内容は聞こえなかった。
「…………」
ロフシーは隣を歩く大きなトカゲの顔を見上げた。出発する前に「お前の世話役だ」とガイラに言われた者だ。
意を決して話しかける。
「あの、あなたの名前は何というのですか?」
「我らはリザードマンという種族です」
「えっ、そうなんですか。あの、それも知りたかったですけど、自分の名前も知りたいです」
リザードマンは顔をロフシーへ向けると、数回まばたきをする。
「人間は個人それぞれに名前があるのでしたね。ですが我らにはそういったものはありません。全体でリザードマンなのです」
「名前が無いんですか。なるほど……あっ! あの引っ張ってる荷車も箱も木製ですよね。どうしてあんなに綺麗なんですか? 村で使っていたのは古くてあちこち壊れていたのに」
「そうですね……古くなれば商人に頼んで新しいものを持ってきてもらっています」
「商人さんがそんなに来るんですか? 村は一年に一度きりで、来ないときもあるぐらいなのに。すごいなあ。あ、あれは?」
「あれはですね……」
ロフシーの声はよく通るので、矢継ぎ早に質問する様子はガイラにも聞こえていた。
「ずいぶん楽しそうですね」
「まったく、子供のようにはしゃぐな」
「実際、子供でしょう」
ロフシーの楽しげな声とともに、集団は道を進む。
大通りを外れると、周囲の雰囲気が変化した。働くリザードマン達の姿はなく、壁が崩れたり完全に崩壊している建物が多く目に入る。
「なるほど。ひどいものだな」
「申し訳ありません。なにぶん数が足りず、目立つ場所の建物を修復するだけて手が回りません。お恥ずかしいものを見せました」
「気にするな」
ガイラの隣のリザードマンは恐縮した様子。
「ここを抜けますと農地が見えます」
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