第18話

「パニメットさんはここにいていいんですか? お仕事あるんじゃ」

 ここ数日、彼女はロフシーの作業場にいることが多かった。雑談は楽しいのだが、仕事の邪魔をしていないか心配になる。

「アタシの仕事は実のところ少ないのさ。家の修繕用の小物なんてのはすぐできるし、鍬や鎌とか農具の修繕も頻繁にあるわけじゃない。本当に得意なのは武器なんだけどな、もう予備も含めて十分作ってるからな。実際ヒマなんだよ」

「ならばお前に仕事をやろう」

「えっ、あ、はい……ガイラタビィーエ様……」

 護衛のリザードマン達と共に、ガイラが作業場へ現れた。

 パニメットは少しおびえながら丸められた羊皮紙を、リザードマンから受け取る。

「それらの物が必要だ。急ぐものではないが、作ってもらうぞ」

「はい! 今すぐにっ」

 羊皮紙を掴んだパニメットは、全速力で鍛治場へと走り去った。

「経過は順調か」

「はい」

 蛇の頭部の大まかな見た目は完成していて、今は角をヤスリがけしているところだった。角は木の枝のように折れ曲がっている。もし削りすぎたり折れてしまえば修復不可能なので、また最初からやり直しになってしまう。

 両手でヤスリを持ったロフシーは、慎重に動かす。往復するのではなく一方向に、しっかりヤスリを持つ腕を固定し、体ごと動かして削る。リズミカルな音が室内に響く。

「ふう。全体の形はほとんどできたので、目や鱗などを彫れば完成です。でも大きいので少し時間がかかるかもしれません」

「少々遅れたところで問題ない。満足いくものを作れ」

「わかりました。ところでこの蛇? ですけど、どういう意味があるんですか? 館にもありましたけど」

「…………」

 黙りこんでしまったガイラに、まずいことを聞いてしまったのかとロフシーの顔色が変化すると、リザードマンが口を開いた。

「あれは、この地を守護している精霊神様の姿です」

「精霊神?」

「この地に暮らす我ら精霊達を束ね導き、守護していただいている方なのです」

「すごく偉いんですねー。その精霊神様はどこにいるんでしょう? 会えたりするんですか?」

「それは……」

 リザードマンの目が泳ぎ、言葉をにごす。

「この地から精霊が去ったと知っているだろう。精霊神も同じく消えたのだ」

 ガイラが吐き捨てるような口調で言う。

「そうなんですかー。戻ってきてくれると嬉しいですねっ」

「そうですね……」

 リザードマンの言葉は棒読みで、目だけはガイラの様子を伺っていた。彼はただ黙っている。

「精霊神様って、館の像ぐらい大きいんですか」

「もっと大きいですよ」

「うわあ、見て見たいなあ」

 ロフシーは蛇の頭部を作る作業を再開した。

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