第16話

 材料となる青銅の塊が出来ると、ロフシーは作業場で毎日長時間作業することになった。

「私はここでいいですよ」

「いいや。駄目だ」

 ロフシーは作業場兼自宅となるここで生活を始めるつもりだったにだが、ガイラが家具や食器など生活必需品がまだ準備できていないと、館から通うように告げた。

「私はベッドだけあれば十分ですけど?」

「いいから、まだしばらくは館にいろ。いいな」


「よしっ」

 作業台に置かれた青銅の塊を前に、ロフシーは気合いを入れた。

 彼女の両手にはハンマーとノミが握られていた。これは元々持っていた道具ではなく、新たに用意してもらったものだ。本来は石を削るときに使うものだが、パニメットに調整してもらった。

「そっちを持ってもらえますか?」

「わかりました」

 リザードマンが青銅を両手で固定し、ロフシーがノミにハンマーを振り下ろす。青銅の塊はリザードマンの頭と同じほど大きいので、ロフシーの細腕では動かすことはできない。なのでこうしてリザードマンに手伝ってもらう。その首もとにはロフシーが製作したペンダントが揺れている。


 この日ロフシーの作業場にパニメットがやってきた。

「頼まれたもの持ってきたぞ」

「ありがとうございますっ」

 それは長かったり広かったり、断面が半円になっている複数の金ヤスリだった。

「いつも私がやってた細工は小さい物ばかりだったので、こんなに大きな物に使う道具は持ってなかったんです」

「たしかに、これだけデカイのを作ることはそうないよな。じゃあちょっと使い心地を試してくれ。何かあったら調整してやるさ」

 ロフシーはゴリゴリ音をたてて青銅を削る。

「やっぱりパニメットさんの道具はすごいですね! とっても使いやすいです」

「大げさに褒めるなよ。この程度は普通だって」

 パニメットは言葉とは違い嬉しそうにしている。

「長さや重さはどうだ? 持ち手の太さは?」

「問題ないです。持ち手はあとで布を巻いて調整しようかなって」

「木製の持ち手にすれば、手の形に合わせて調整できるぞ」

 ロフシーは驚きで手が止まる。

「木で作るなんて無理ですよ! そんなお金ありません!」

「材料は全部そっちが出してくれるから大丈夫だろ。これまでもそうだったし。なあ?」

 パニメットはリザードマンに視線を向けると、頷く。

「ガイラタビィーエ様からは、ロフシーの要望をなるべく聞くように言われています。この程度ならまったく問題ありません」

「アタシにはリザードマンだっけ? その言葉はわからないからさ、何て言ってんだ?」

「あの、大丈夫だって」

「だったら決まりだな。しかし、何でロフシーは言葉がわかるんだ?」

「そう言われても。私には普通に聞こえてるし……」

「アタシにはシューシュー言ってるようにしか聞こえないんだけどね。不思議なもんだ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る