第14話

 翌日もロフシーはパニメットの作業場へ向かった。ガイラと護衛のリザードマン達も一緒だ。

「預かっていたやつだよ」

 パニメットはロフシーに道具入れを手渡す。

「道具を確認してくれ」

「うわあ! すごく綺麗になってる!」

 美しく磨かれた細工道具は光を反射していた。鋭く研磨された針と小刀の先端はどんな硬いものでも削れるようにロフシーは思えた。

「こっちは予備の道具だ。さすがに全部は無理だったから、残りはまた今度わたすよ」

「ありがとうございます!」

 笑顔が満開になるロフシー。それを見たパニメットも満足そうだ。

 パニメットと一緒に昨日も行った農地へ向かう。

「ふうん。これを作り直すってことか」

 パニメットは水を吐き出す蛇の頭部を複数の角度から、何度も観察する。

「見るだけでいいのか」

「アタシは大体のものは見るだけで何とかなっちまうからね……いえ、できます……」

 パニメットは質問してきたのがガイラだと気づき、ぎこちなく言葉遣いを丁寧なものにした。ガイラの無表情を見て、顔がひきつる。

「それで、これは作れるんだな」

「は、はい。アタシは鋳造はできないっすけど、今回は大まかな形を作るだけでいいので。青銅の量は十分ある……です、はい」

「期間は」

「この程度なら今日中にはできますんで」

 ガイラは顎に指を当てて何かを考える様子。

「そうか……ではロフシーは明日から仕事になるな……まだあの家の準備はまだできていない。その間は館から通いに……」

「あのっ」

 急に声を出したロフシーに、ガイラが視線を向けた。

「私、この綺麗になった道具を使ってもいいですか?」


 一行はパニメットの鍛冶場へ戻ってきた。

「量はたったこれだけでいいのかい?」

 ロフシーが求めたのは硬貨ほどの小さな青銅の塊数個だけだった。

「はい。試しに作るだけなので十分です。それと真鍮もありますか?」

「ああ。あるよ」

 材料を手にしたロフシーは、自分の作業場となる場所へ来た。ガイラとリザードマン達も一緒だった。

「あの、ガイラさんはどうしてここに?」

「嫌なのか」

「そんなことはないですけど、お仕事があるんじゃないかなって」

「気にするな。お前の腕前を確認するだけだ」

(緊張するなあ……)

 いつも作業するときは母親しか隣にいなかった。ガイラと大勢のリザードマン達に見られながらというのは初めてだ。しかし失敗してしまえば、ここで仕事を任せてもらえるどころか追い出されてしまうかもしれない。

 唇を強く引き結んで道具を手にしたとき、脳裏に母親の言葉が浮かんだ。

『いいかい、ロフシー。美しい細工ってのは丁寧な仕事をするしかないんだ。丁寧に丁寧に、削って磨くんだ』

「そうだね、お母さん」

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