第21話 残り3日。おかしい

 8月29日。木曜日。

 夏休みも残りわずか。


 俺はパソコンの前でうなっていた。


「おかしい。変だ。どうしたんだ……?」


 筆がピタリと止まって進まない。

 それもこれも、みのりのせいだ。


 海から帰ってきてからずっと、俺になにか聞きたそうな顔をしているくせに、それを聞くと、「なんでもない」と言う。

 お菓子で釣っても吐かないし、足の裏をくすぐっても吐かなかった。


 なにか相談事だろうか……?

 でも、それだったら、きっとすぐ言うよなぁ?


(……もしかして、前に言ってた『いいなぁ』って思ってるヤツか!?)


 なんかあったのか!? 進展した!?

 俺が水着を買いに行った日……?

 海から帰って来てからも……?


 気になってソワソワと落ち着かない。

 時計を見たらもうすぐお昼の時間帯。


「ちょっと突撃して、おばさんにスライダーやろうって言ってみるか」


 俺は椅子から立ち上がり、着替えると隣の家に突撃した。


 ***


「…………」

「…………」


 俺とみのりは今、黙々とそうめんを食べている。

 やっぱりおかしい。

 俺は意を決して、みのりに話しかけることにした。


「なぁ!」

「あの!」


 ふたり同時になってしまい、互いに「どうぞどうぞ」と譲り合う。

 それから、みのりが「じゃあ」と口を開いた。


「け、ケイちゃんが前に言ってたラブコメ小説って、いまどうなってるの?」

「俺の小説?」

「そう。ほら、私をヒロインにして……ってやつ。そういえば、あの後でどうなったか聞かないなぁって」


 みのりは人差し指と人差し指をちょんちょんと合わせながら、俺にそう問いかけてきた。


「あれな~! ちゃんと書いてるぞ! みのりと凛那のおかげで、順調だ」

「……つばさちゃん?」

「あれ? 言ってなかったっけ? 凛那も使わせてもらってるんだ」

「……へぇ~」


 みのりが俯く。

 元気がなくなったように見えた。


「わ、私もね。ケイちゃんがラブコメを書くって聞いたから、少し調べてみたんだぁ~。どんなのがあるんだろうって」

「そうなんだ」

「なんか……幼馴染のヒロインって、負けヒロイン? って言うんでしょ?」

「……は?」


 なんだそれ。どういうことだ?

 俺はみのりの顔を見た。みのりは眉を下にさげて、唇をきゅっと噛んでいる。


「ケイちゃんは、私をヒロインにするって言ってたけど、もしかして負けヒロインの役だったの?」

「おい。みのり……?」

「ケイちゃんは、もしかして……つばさちゃんが好き……?」


 予想外の言葉に俺は固まる。

 目の前にいる好きな女の子が、まさか勘違いしているとは思ってもみない俺だった。


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