第11話 残り13日。たからもの

「……おねえ、ちゃん?」


 女の子は、きょとんとした顔でみのりを見る。


「お母さんが好きなんだよね? だったら、このリンゴ飴を持っていくといいよ~」

「でも……」

「いいよ~お姉ちゃん、実はお腹いっぱいなんだぁ。だから、これ貰ってくれると嬉しいな~」


 みのりは、にっこり笑って、もう一度「どうぞ」と差し出す。

 女の子は、おずおずとしながらも、それを受け取った。


「ありがとう。おねえちゃん」

「どういたしまして~。こちらこそ、貰ってくれてありがと~」


 そんなふたりのやり取りが終わる頃、遠くから男の人の声で「かなー!」と人を呼ぶ声が聞こえてきた。


「あ! おとうさんだ!」

「えっ? ほんと?」

「うん! あのこえは、おとうさんだよ!」


 女の子も「おとーさーん!」と大きな声をあげる。

 そのまま、お父さんの方へ行こうとして、ピタリと立ち止まった。

 ふり返って、みのりに近づくと、ポケットに手を入れてゴソゴソしている。


「おねえちゃん、これあげる」

「なぁに?」


 みのりが両手を差し出すと、女の子の手から何かが渡される。


「たからもの! あげる」


 そう言って、お父さんの方へ向かって走って消えて行った。


「ちょっと待って! 走るとあぶないよー!」


 凛那が慌てて、その子の後をカラコロと追う。

 俺はみのりが女の子に貰ったものが気になって、声をかけた。


「あの子になに貰ったんだ?」

「あ、これ?」


 そう言って、みのりが手を広げて見せてくれた。

 みのりの手のひらにあったのは──おもちゃの指輪。


 夏祭りの屋台で、きっとお父さんに買ってもらった物かなにかだろう。

 ハートの形をしたダイヤ風の指輪が、そこにコロンと乗っていた。


「なるほど。確かにあのくらいの子なら、これは宝物かもなぁ」

「そうだね~。これ貰っちゃって良かったのかなぁ」

「あの子なりのお礼の気持ちなんだし、いいんじゃねーの?」

「……そっか」


 みのりは指輪を摘まんで、眺めている。

 小さなおもちゃの指輪だが、コイツの指なら入りそうな気がした。


「それ、はめてみれば?」

「ええ~? さすがに入らないよ~」

「入るだろ~! お前、手ぇ小さいじゃん」

「私、高校生だよ~? こんな小さいの入らないと思うけど」


 俺はみのりの指輪を持ってない方の手を持って、重ねてみる。


「ほら、見てみろよ。お前の手、ちっさ! 俺の第一関節までしかないじゃん」

「え、あ、う、あ」

「貸してみ? 小指だったら、いけるんじゃねーの?」


 ロボットみたいに固まったみのりの手から指輪を取り上げる。

 みのりの左手を持って、その指輪を小指にはめてみた。

 指輪は第二関節付近で引っかかっている。


「……入らない。いけると思ったのに。お前の言う通りだったな」

「…………」

「みのり? どうした?」


 俺はみのりの顔を見る。

 そのとき、ドーンという音と共に、夜空に大輪の花が咲いた。

 その花の明かりに、みのりの顔がほんのり照らし出される。


 整えられた眉。

 パッチリ二重。

 唇には色つきリップ。


 化粧をして『可愛い女の子』に変身していたコイツが、顔を真っ赤にして俺を見つめていた。

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