第12話 残り12日。変化

 ドーンッと花火の音がこだまする。

 花火が上がるたびに、周囲から、わぁと歓声があがった。


「…………」

「…………」


 見つめ合う俺とみのりの間に、なんともいえない空気が流れる。

 そこにカラコロと音を立て、凛那が戻ってきた。


「ごめーん! ふたりともお待たせ! 行こっか!」

「お、おかえり。つばさちゃん」

「おう……」


 下駄の足音がふたつ。カラコロと鳴る。

 俺はふたりの後姿を見ながら、さっきの感情と向き合っていた。


(……可愛い……か)


 性別として、『女』ってのは分かっていたが、ずっと近くにいたし『女の子』って感覚はなかった。当たり前にずっとそこにいる人。家族。ほんとその延長。



『す、好きっていうか……こう~……いいなぁって人なら?』



 みのりが気になってる異性って誰なんだろう?

 学校のヤツかな。もしかして、クラスの中にいたりする?


 夜空にひときわ大きな花火が上がった。

 その明かりが、みのりの横顔を照らし出す。


 自分が気づかない間に、花火のように美しい華へと変化しつつある『女の子』


 モヤっとしたものが、胸の内側をトンと叩く。

 俺は慌てて頭を振った。


(いかんいかん! 俺は今日、夏祭りに来たのは小説のネタのため! そうそう! あの迷子の子のことは、エピソードとして使えそうだよなっ!)



 俺達は穴場スポットに到着し、花火を見上げる。

 みのりも凛那も、空を見上げて、わぁと歓声を上げていた。


 皆が空を見上げる中で、気づけば俺は、隣にいるみのりが気になっている。



『つばさちゃんが、ちょっとお化粧してくれたの。へ、変……かな?』



(……変なんかじゃない、可愛かった。でも、言えない。言えるわけないだろ。言ったら、なんかお前との関係が壊れそうで……怖い)


 俺の隣の家に住んでる女の子。

 ちょっと太めの眉で奥二重の目をした女の子。

 ほわほわとした雰囲気で、癒しと天然の集合体で、


 ──俺が自然体で、ずっと一緒にいれる女の子。


 はぁ、とため息をつく。

 そして頭をぽりぽりと掻いた。

 夜空に浮かんでは消える花火を見つめるフリをして、俺はみのりを見る。


「…………」


 そんな自分の行動を凛那がじっと見ていたとは、その時の俺は気づいていないのだった。





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