第10話 残り14日。夏祭り

「じゃっじゃーん! 門川どうよ!」

「……え? 凛那?」


 待ち合わせ時間になって出てきたのは、みのりと凛那。

 ふたりは浴衣姿で現れた。


 凛那は紺色の布地にピンクの朝顔の浴衣、金髪の長い髪を結いあげて、いつもは隠れているうなじが露わになっている。

 みのりは白地に赤やピンク色の花と黄色の向日葵が咲いた柄の浴衣、髪は編み込みをして、飾りをつけて──


「あれ? みのり……なんか、いつもと違う?」

「つばさちゃんが、ちょっとお化粧してくれたの。へ、変……かな?」


 サイドの髪は編み込んでいて、髪は垂れてきていないのに、みのりは何度も耳に髪をかける仕草をする。


 俺はジーッとみのりを観察した。

 少し太めの眉がキレイに整えられて、奥二重の目がパッチリ二重になっている。


(…………)


「と……りあえず、行くか! 夏祭り会場に」

「……えっ?」

「ちょっ、門川ぁ!? なにか言いなさいよー!」


 俺は踵を返して、夏祭り会場へと足を向けた。


 **


 俺達は三人で夏祭り会場をまわった。

 ヨーヨー釣りをしたり、射的をしたり、一通り遊んだ後、花火の時間が近くなってきたので、見ながら食べれる物を調達することにした。


「ケイちゃんは、たこ焼きにしたの?」

「みのりはリンゴ飴か。夏祭りに来るといつもそれ買ってる気がするな」

「だって、美味しいんだもん」


 うふふと笑うみのり。俺達は場所を移動する。

 昔、見つけた穴場スポットへ向かって歩き出した。


 道の途中で、子どもの泣き声が聞こえる。

 みのりと凛那は、周囲をキョロキョロと見回した。


「あっ! いたっ!」


 凛那は子どもを見つけると、カラコロと下駄を鳴らしながら駆け寄る。

 五歳くらいだろうか? 小さな女の子が、びえーっと泣いていた。


「あらら、どうしたのかなー? お父さん、お母さんは一緒じゃないの?」

「うええええええん」


 凛那が声をかけるものの、女の子はずっと泣いていて、話ができない。

 俺達三人はオロオロする。

 そんな中、みのりは、女の子の近くに落ちている『ある物』に気づいた。


「もしかして、これを落としちゃったから泣いてるのかな?」


 そう言って指さしたのは、リンゴ飴。

 すると、ようやく女の子がコクンとうなずいて、反応した。


「おか……おかぁさ……ひっく……すきだか……わああああん」


 泣いてる合間、合間に聞き取った情報を繋げると、この子はお父さんとふたりで夏祭りに出かけており、家で待つお母さんのために、お土産でリンゴ飴を買った。


 大事に大事に、両手に持って歩いていたのだが、手を繋がずにいたため、お父さんとはぐれてしまったらしい。

 キョロキョロとお父さんを探していたら、石につまずいて、リンゴ飴を落として踏んづけてしまった。そして、現在に至る──と。


「そっかぁー大変だったねぇ! よく頑張った!」


 凛那は女の子の頭をなでなでする。

 俺は周囲を見回しながら、この子のお父さんらしき人がいないか探した。



「これ、良かったらどうぞ~」


 みのりは自分が買ったリンゴ飴を、女の子に差し出す。

 女の子はきょとんとした顔をして、みのりを見たのだった。

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