第9話 残り15日。待ち合わせ

 8月18日、日曜日。

 今日は誰がなんと言おうと8月18日だ。間違いない。



 死ぬほど暑い昼間はエアコンの効いた自室で、カタカタとキーボードを打ち、小説を書いて過ごした。

 17時になり、スマホのアラームが鳴る。

 俺はキリの良いところまで書き上げて、その手を止めた。


「結構、書けたな……」


 実際に存在する人物を使っての創作が功を奏しているのか、筆が進む。

 500リワードが貰えるまで、残り15日。これは楽勝かもしれないな。


「毎日更新なんて初めてやるけど、案外やれるもんなんだなぁ」


 毎日更新なんて、化け物がするものだと思ってたけど……。


「いや、もしかして、俺も化け物の仲間入りしてるのか?」


 それならそれで、ちょっと嬉しいかも。

 ランキング入りしている神作家たちに仲間入りできた気分だ。


「……っといけねっ。早く着替えないと、15分になる」


 俺は部屋着を脱いで、服を着替える。

 いつも着ている黒のTシャツにしようと思ったが、それはやめておくことにした。

 ちょっと明るい黄色のTシャツに手を伸ばす。


「みのりのヤツ、迷子になるかもしれないからな」


 目立つ色の服なら、アイツもきっと見つけやすいだろう。

 なーんて、迷子前提で着替えを選んでいることを知ったら、みのりはきっと膨れるんだろうなぁ。


「アイツいっつも迷子になるからな……仕方がない。こっちで打てる手は、打つに越したことないんだ」



『ケイちゃんどこぉ~? ねぇどこぉ~? けぇちゃああぁん』

『みのりー! どこだー!?』

『ケイちゃぁん!』

『あっ! いたっ! バカみのり! どこ行ってたんだよ!?』

『どこにも行ってないよぉ~ケイちゃんがいなくなったんだよぉ』



 幼い頃の記憶。

 俺の家とみのりの家と、家族ぐるみで動物園に出かけたときのことだ。

 みのりは、動物に気をとられ、ふらふらと歩いてはすぐに迷子になっていた。

 あの後は、ずっと手をつないでいたから、迷子にならなかったけど……。


「…………」


 俺は自分の右手をじっと見て、開いては閉じて、開いては閉じた。


「……さすがに、高校生になってまで繋ぐわけには、いかないしな」


 着替え終わって、靴下を履く。

 一階へ降りて、スニーカーを履き、外へ出た。

 待ち合わせ場所……といっても、互いの家の前。

 どうやら俺が先に出てきたらしい。


 みのりが出てくるまでの間、俺はポケットからスマホを取り出して、時間を潰したのだった。


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