第8話 残り16日。回覧板

「夏祭り? どれどれ……あー本当だ」


 みのりが持ってきた回覧板の中に、町内会のリーフレットが挟まれている。

 そこには夏祭りのチラシも一緒になって入っていた。


 夏祭りの開催日は8月17日、18日。

 メインは打ち上げ花火の上がる18日、日曜日のほうだろう。


「ケイちゃんは夏祭り行く?」

「ん~……どうしようかな~。町内の夏祭りは何度も行ってるし、別に行かなく……」


(ちょっと待て。これは……ネタになるんじゃないか!?)


 俺の目がカッと見開く。

 ラブコメ小説のイベントとして、夏祭りを取材する。

 これは──アリだ!


「みのり。俺、夏祭り行くわ」

「えっ? ほんと?」

「せっかくだし、一緒に行かないか?」

「…………えっ!?」

「あ。もしかして、他に約束してるヤツがいる? だったら別に──」

「だっだいじょうぶ! 約束してないよっ!」


 食い気味に返事をするみのり。

 両手を前に出して、左右に小さく振っている。


 こいつ、そんなに夏祭り好きだったのか。

 でも、同行者がいるのは、正直ありがたい。

 ひとりで行くのは、ちょっとハードルが高かったからな。


「じゃあ、何時頃に行こうか。花火が19時半だから……17時半くらいか?」

「そ、そうだねぇ~」

「歩く時間も考えると、もう少し早く出るか。17時15分でいいか?」

「そ、そうだねぇ~」

「……おい、みのり。お前ちゃんと話聞いてる? なんでそんなにニヤついてんの?」

「え? えっと……だ、だって……えへへ」


「だって」の後の声が小さすぎて、ゴニョゴニョとしか聞こえない。

 俺はもっとしっかり喋れと、みのりの頭にゴスッとチョップを入れた。


「いたいよケイちゃん。なんで叩くのぉ!?」

「ちゃんと喋らないお前が悪い」


 みのりは両手で頭を押さえる。

 少し太い眉がハの字になって下がった。

 俺はみのりの両手の隙間を狙って、更にチョップを入れる。


 ちょっと楽しくなってきて、調子に乗った俺は、スコスコとみのりの頭にチョップを入れ続けた。

 みのりが「もぉー!」と思わず膝を振り上げたとき、運悪く『玉』に当たるまで、俺はそのチョップを入れ続けたのだった。

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