第19話 残り5日。ナマコ、カニ、タコの次は

「イテッ!」

「あ、あ、ごめんね。ケイちゃん。大丈夫?」


 みのりが俺の顔に絆創膏を貼る。

 小さな指が傷にあたって、俺は思わず声を上げた。

 オロオロするみのり。

 母さんは豪快に笑っている。


「あっはっは! 大丈夫よぉみのりちゃん! こんなのツバ付けとけば、治るって」

「うわっ! 絶対イヤだよ!」


 俺は嫌な予感がして、急いで立ち上がった。

 そそくさと母さんから距離を取る。

 酔っ払いはなにするか分からないので、逃げるが勝ち。

 俺は海の方へ向かった。


「……あれ? 凛那は?」


 そういえば、アイツはどこにいるんだ? さっきから見当たらない。

 キョロキョロと周囲を見回すと、青い海の中に、金色の頭が浮かんでいる。


「アイツまだ海の中にいたのか?」


 おーい! と声をかけて近づく。

 凛那は慌てた様子でなにかを訴えていた。


「……ないでー!!」

「えー!? どうしたー!?」

「こーなーいーでー!!」


 必死な顔をして「来ないで」と言っている。

 でも、お前かれこれ二時間以上、海の中にいないか?

 気になった俺は更に近づいた。


「……ん?」


 足元近くの浅瀬に白い物が浮かんでいる。


「……イカ?」


 俺はそれを拾い上げた。

 それはイカではなく──


「それっ! 私の水着ー!!」


 凛那がザバッと海から出る。

 片腕で隠されていた胸元には、白い水着が見当たらなかった。


 **


「……すまん」

「……別に」


 俺は拾い上げた水着を凛那に届けようと思ったのだが、正面から渡すわけにもいかず、後ろ向きに海に入って、後ろ手に渡すという謎の行動を取ることになった。

 なんとかそれを渡して、俺は浜に戻り、凛那が水着をつけて出てくるのを待つ。


 お互いに気まずい空気を出しつつも、凛那は俺に話しかけてきた。


「あ、アンタのおかげで助かった。ありがとう。それだけはお礼を言うわ。ところで……アンタの顔すごいまだらなんだけど、どうしたの? ケンカ?」

「あ、いや、うん。まぁ、うん。実は色々あって……」

「ふーん? 言いたくないなら、深くは聞かないけど……。あー! やっぱ、海は楽しいわね~少し休んだら、また入ろうかな」

「まだ泳ぐの?」

「水着取れちゃってからは、全然泳げてないの!」


 凛那は不完全燃焼だと、手をわきわきさせている。

 俺は少し考えて、自分の着ていたパーカータイプのラッシュガードを脱いで渡した。


「これ着て海に入れば? また水着が取れたとしても、海からは出られるだろ?」


 凛那は目をきょとんとさせている。

 「……そうね」と言って、俺のパーカーを受け取った。

 そしてそれをゴソゴソと着ている。


「門川って、結構気配りできるやつなんだ?」

「……そうか?」


 自分じゃ分からないんだけど。


「もしそうだとしたら……みのりのおかげかなぁ?」

「みのり……?」

「だってアイツ、基本天然ドジじゃん?」

「あー……」


 凛那も思い当たることがあるのか、否定はしない。


「そっか。そっか。なるほどねぇ~その優しさが生まれたのも全部……なるほどねぇ」


 なにやら、凛那がうんうんと納得してる。

 タタッと走って俺の前に出たと思ったら、凛那が振り返った。

 にししっと笑って、俺に爆弾をぶつける。


「ねっ! 門川ってさ、みのりのこと、好きでしょ!?」

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