第16話 残り8日。作家だからしょうがない

「海だー!!」


 大声をあげて、はしゃぐ凛那。

 水着に着替えた凛那は、砂浜を駆けて、海に突進して行く。

 みのりはその後ろから「待ってよぉ~」と追いかけていた。



「ほらぁ! 圭! さっさとしなさい!」


 俺は、というと……母さんにせっつかれて、現在ビーチパラソルを広げている。


「母さん! 椅子に座ってないで、ちょっとは手伝ってよ……!」

「力仕事は男の仕事。さぁキリキリ働きなさい!」

「くそぉ……!」


 ビーチパラソルを二本広げたら、次は車から、くそ重たいクーラーボックスを運ぶ。この中身はきっと全部酒だ。


 飲むやつが運べよ! と心の中で悪態をつく。

 海で遊ぶ前に、疲労困憊。

 ぜーはーと息をしながら、俺はスポーツドリンクを煽った。


「若いのに体力ないわねぇ……」

「クーラーボックス何個あると思ってるんだよ。てか、なんでこんなに必要なんだよ」


 足元に重ねられたクーラーボックス、全部で五箱。

 一箱は子ども用のソフトドリンクで、残り四箱は大人の飲み物だろう。


 ようやく終わったと、ドカッとそこに座り込む。

 すると母さんからスイカのビーチボールが飛んできた。


「なーに座ってんのよ! ほら! つばさちゃんとみのりちゃんのボディーガードに行きなさいっ!」

「は、はぁ!? ちょっとは休ませろよ!!」

「あんな可愛い女の子たちを放っておいたら、すぐに狼が来ちゃうわよ! ほらっ! 行った行った!」

「ちょっ母さん! いたっ! 叩くなよ!!」


 俺は仕方なしに、立ち上がった。

 パンパンと尻を叩いて砂を落とし、小脇にビーチボールを抱える。

 はーっとため息をついて、凛那とみのりのいる方向へ歩いていく。


「……ったく」


 本来の予定では、俺の家とみのりの家で海に出かける予定だったのだが、前日に凛那と母さんが遭遇し、どうやら彼女を気に入った母さんが凛那も誘った。というわけだ。


 凛那は、健康的な小麦色の肌の映える白いビキニ。胸は標準くらいか? 太ももは引き締まっている。むむっ! これはとても素晴らしい。

 みのりは、ホルターネックビキニに花柄のパレオを腰に巻いている。ふくよかな胸がちょっと目立つな。うむ、なるほど。けしからん。


「…………」


 いや、あの、これは、だな。

 描写のためには観察が必要なんだ。

 そう! 小説のために! 俺は!

 じっくりと観察しなければならない!!


 カッと目を見開いて、俺は凛那とみのりをじっと見た。


「門川ぁー! 死ねぇえええええ!!」

「ぶっ!?」


 ベチンと顔面にナマコが飛んできた。

 俺はそれを掴んで、海に投げ返す。


「なにすんだ凛那ぁ!!」

「視線がキモイんだよっ! いやらしい!」

「……ケイちゃん?」


 みのりもどこか引いている気がする。

 なぜだ。お前はほわほわ天然女子で、こういうことには疎いはずだろ?


(……作家魂がつい、仕事をしてしまったようだ。気をつけよう)


 俺は目をつむり、すーはーと深呼吸をする。


 今度こそバレないように。


 もう一度、カッと目を見開く。



「門川ぁああああ!! 天誅ぅううううう!!」

「いやあああああ! カニでソコを挟むのはやめてぇええええええ」

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