第17話 残り7日。オオカミ

「うっうっ……もうお婿に行けないかもしれない」


 ビーチパラソルの下で横になり、俺はメソメソと泣いた。

 大事なところをカニに挟まれた。もうダメだ。

 たたないかもしれない。ナニとは言わないが。


「ケイちゃん大丈夫……?」


 みのりが保冷剤を差しだす。俺はありがたく受け取った。


「あっはっは! 大丈夫よぉ! 貰い手がないときは、きっと、みのりちゃんが貰ってくれるわよ!」

「ふえっ!?」


 母さんが豪快に笑いながら酒をあおる。

 母さんの発言を聞いたみのりは、驚いて身体をビクッと跳ねていた。


「みのり……役に立たないかもしれないけど、俺を貰ってくれるか?」

「け、けけけ、ケイちゃんっ」


 あわあわと慌てるみのり。


「わっ、私! 車から絆創膏取ってくるね!」


 そう言うと、駐車場のほうへ向かって、みのりは走っていく。

 あ。砂に足を取られて、転んでる。


「絆創膏……? みのりよ、それどこに使うんだ」


 俺は思わず苦笑した。


「ほーら、圭。あんたも行きなさいよ」

「母さん?」

「さっきも言ったでしょ? ちょっとでも目を離すと、狼が来るわよ」


 母さんはまた酒を飲みながら、俺に向かってシッシッと手を振る。

 仕方がないなぁと立ち上がり、砂をパンパンと払ってから、俺も駐車場に向かって歩き出した。



「お。いたいた、みの──」


 り。

 と声をかけようとしたら、みのりに大学生くらいの男が三人近づいている。

 ひとりが、みのりの肩をポンと叩いて、声をかけていた。



『狼が来るわよ』



 母さんが言ったことが現実になってことか……?

 俺は慌てて、みのりに向かって走り出した。


「こーんにちはー。ねぇねぇ、ひとり? 俺達と一緒に海で遊ぼうよ」

「野郎ばっかで、つまんないなーって思ってたんだ」

「いま何歳? 高校生くらいかな?」


 三人は、みのりが足を止めた途端、囲むようにして声をかけ続ける。

 明らかに、逃げられないようにしているのが分かった。


「チッ」


 つい舌打ちが出る。俺は走っていた足を緩めて、早足でそいつらに近づいた。


「あーちょっとスミマセーン」


 そう声をかけて、早足のまま、男たちの間を割って入る。

 みのりの腕を掴むと、そのままみのりを引っ張って、男たちの囲いから抜け出した。


「おい!!」

「なんだてめぇ!?」


 背後から男たちの怒号が聞こえる。


「け、ケイちゃん」

「いいから、みのり! 走れ!」


 駐車場を挟んだ反対側は岩場がある。

 そこに隠れようと、俺たちは走ってそこを目指したのだった。

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