第3話 残り21日。ヒロインは幼馴染

「あー……食った食った」


 そうめん、三人前は食べた気がする。ぽっこり膨れたお腹をぽんぽんと叩いて、俺はゴロンと横になった。


「ケイちゃん食べるの早すぎ~」


 ちゅるちゅるとまだそうめんを啜っているみのりは、半人前程度しか食べていない。


「ばぁか。お前が遅すぎるんだよ」

「ええ~? そうかなぁ」


 顔にかかった髪を耳にかけながら、そうめんを食べるみのり。

 コイツの横顔を見ながら、俺は「あっ」と閃いた。


「そうか! みのりをヒロインにすればいいのか!」

「ん? なぁに?」

「いや、ちょっとな。新作の小説を書き始めててさ~名前が決まらないんだ。みのりの名前、借りてもいい?」

「わ、わたし? い、いいけど……どんなお話~? 変な役はやめてね」

「大丈夫、大丈夫。ラブコメのヒロインだから」

「ラブ、コメ……?」

「そっ! ちなみに主人公の名前は俺な!」


 うっしっしと笑って、みのりを見ると、こいつはポンッと顔を赤くして、片手でぱたぱたと仰ぎだした。

 あれ? どうした? 部屋が暑かったか?


「へっ、へぇ~! そうなんだ。ケイちゃんが主人公なんだ。ちょっとそれ面白そうだね」

「だろ~? ちょっと面白おかしい恋愛話が書きたくてさ~。お前をベースにして、ちょい足しすれば、キャラが立つと思うんだよな」


 寝転んでた俺は、よっと立ち上がり、勝手知ったる幼馴染の家の中を移動する。

 おばさんに一声かけて、俺はメモ紙を数枚とボールペンを片手に持って、テーブルに戻ってきた。


「なぁ。お前って身長っていくつだっけ? 誕生日は……知ってるから、いいか。好きな食べ物、好きな色、好きな異性のタイプ……あとは~クセとかか?」

「す……好きなタイプ……!?」


 みのりはキョロキョロと視線をあちらこちらに動かし、顔は更に赤くなっている。

 その顔を見て、俺はピンときた。


 はっはーん。なるほどな。理解したぞ。


「お前……さては、好きなヤツがいるな?」

「うえっ!?」


 慌てたみのりの手から箸がすべり落ちる。

 床に落ちたお箸を俺が拾って、キッチンへ行く。

 新しい箸を持ってきて、それをみのりに渡した。


「あ、ありがとう。も、もう~! ケイちゃんが変なこと言うから、落としちゃったよぉ!」

「俺のせいか? それで? いるのか? 好きなヤツ」

「す、好きっていうか……こう~……いいなぁって人なら?」

「おっ! いいじゃん、いいじゃん! よし、吐け! 全部吐け! 俺の創作の糧になれ!」

「ええ~? まず先にご飯食べさせてよぉ」


 みのりは、ちゅるちゅると再びそうめんを食べ始める。

 俺はメモ紙とペンを片手に、みのりの真横であぐらをかいて待った。


「なぁ、まだか? 早く食べろよ!」

「うう……食べにくいよぉ……」


 俺は、みのりをせっつく。

 メモを取ったら、早く家に帰って小説を書きたい。そう思った俺は、みのりがそうめんを食べ終わるのを、今か今かと待つのだった。

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