第5話 残り19日。ライバルはギャル

「にゃあー! 良かったにゃあ!」


 凛那が、俺の家で猫をそっと撫でている。

 その光景を見ながら、俺はどうしてこうなったんだっけ? と一時間ほど前のことを思い出していた。


 一時間前──コンビニの出入り口で、凛那は暑さでバテていた猫を少しだけ休ませてほしいと、店員に頼んでいた。しかし、お店側は衛生面の問題もあるのか、猫の入店を断る。そのタイミングで偶然現れたのが俺だったというわけだ。


 俺の家に連れ帰り、涼しい場所にしばらくいると、元気を少し取り戻したのか、猫がにゃーと鳴く。

 適当なサイズのお皿に水を入れて、猫の前に差し出すと、ペロペロと飲みだした。

 その姿を見て、凛那は感動し、猫の背をそっと撫でる。


 その光景を見て俺は──


(……これは、使える!!)


 ──そう思った。


 猫には申し訳ない。

 ……少々不謹慎かもしれないけど、


『金髪ギャルが猫を助ける』


 これは主人公の男が、ライバルキャラのギャップにキュンとくるシーンとして、使えるんじゃないか!?


 アイスを買いにコンビニに行っただけなのに、まさかネタになりそうなことに出会うとは……!

 これは小説の神様が、俺にほほ笑んでくれている!

 きっとそうだ! そうにに違いない!


 俺はスマホをポケットから取り出すと、忘れないうちに『エピソード』としてメモをする。

 一通りメモが終わると、俺はスマホをポケットに戻した。


 ピンポーンとインターホンが鳴る。

 モニターには、みのりが映っていた。

 俺は通話の状態にして「開いてるから、入っていいぞ」と伝える。


 玄関のほうでガチャリとドアが開いた音がして、それから廊下をぱたぱたと歩く足音が聞こえてきた。


「ケイちゃん、お母さんが今日もそうめんスライダーしないかって──」


 リビングのドアを開けたみのりが、そう言いかけて固まった。

 みのりと凛那が、互いを見つめ合っている。


(──はっ!? これはヒロインとライバルが、どちらの方が主人公に相応しいかっていう戦いを繰り広げる展開なのでは!?)


 俺は慌てて、ポケットからスマホを取り出し、構える。

 今から始まるキャットファイトをメモすべく、俺はふたりの様子を注意深く観察するのだった。


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