極彩色の大森林⑦
「ゴオオオァァァ――ッ!」
当然逃げ場などなく、
あの生物の
「これで、アイツの
「……まさか、これを狙って?」
「狙ってって……これが案件の目的だろ」
「じゃあ、最初の槍でトドメを刺す気はなかったってことですか?」
「そうだけど?」
それを横目にあっけらかんと話すコウマの姿に、アオナは気が抜けたようにへたり込む。
彼女にとっては、あの生物との戦いは生きるか死ぬかの瀬戸際の連続だったのだろう。
そんな自身とは違って、コウマには調査のために相手を泳がせる余裕があったことに大きな衝撃を受けている。
「私には、まったくわかりませんでした。倒すのに必死で……」
「アンタはそれでよかったんだよ」
「……でも、いつわかったんですか?」
「いや、俺も確信があったわけじゃない。ただ、
「父の教え……ですか。すいません。私、何も知らなくて……」
「謝ることないだろ。……さて、そろそろ降りてもいいだろ。あの背中の花は取っときたい」
一番身近な人物であるにも関わらず、ギンジの教えはアオナにとって親しんだものではなかった。
それに複雑な表情を浮べるアオナをよそに、コウマは
「さてと――」
そして、そこを降りようと一歩踏み出したときだった。
「そこまでだ」
物陰から飛び出してきた人物が、長い武器を振り下ろす。
瞬間、
その着弾点にあった氷の壁は強烈な熱量を受けて次々と
「な、何が……?」
「急に何だよ、アンタ」
「
コウマ達の近くに降り立ったその人物は、手に持つ長い武器を突き出して警告を口にする。
そこで、ようやくこの
二十代前半といった見た目の女性で、身長はコウマより頭一つほど小さい。
白い
その全体的に
「おいおい、俺達はちゃんとした案件で来てるんだって」
「だとすれば、物証を出せ。そうでないと信用できない」
敵意がないことを示すためか両手を上げて無実を主張するコウマに、その女性は自身の武器を向けたまま疑う姿勢を崩さない。
その武器は特徴的な形をしていて、長い
底面で叩き、頂点で
当然、その大きさからしてそれなりの重量があるに違いない。
しかし、コウマの目の前に突き付けられている武器の先端は微動だにしておらず、その女性の
「契約書はあるけど、持ち歩くもんじゃないし今は持ってない。ただ、俺達の車まで戻れば探索許可証があるぞ。それを後で見せてやるからさ」
「そう言って、途中で逃げるつもりじゃないだろうな?」
「どんだけ信用されてないんだよ」
「まず、このレベルの
「酷すぎない? 髪は生まれ持ってのもんだから仕方ないし、臭いも二日前に雨浴びて
「雨だと? 一体、何を言っている」
「……あ、あの! すいません。名刺でもいいですか?」
言い争うコウマとその女性の間に、ようやく現状に理解が追いついたらしいアオナが口を挟む。
そして、アオナから名刺を受け取ったその女性は、それに目を通すと武器を下げる。
「日本
「はい、そうです」
「……早とちりをしたようだ。すまなかった」
正体を知ったことで警戒を解いたその女性は、コウマ達に謝罪を述べる。
「だから言ったのに。どんだけ疑うんだよ」
「雨を浴びたなんて、変なこと言うからじゃないですか?」
「その前から、怪しいだの臭いだの馬鹿だの彼女いなそうだの言われてんだよ」
「いや、そこまでは言ってなかったですよ。というか、あの雨の日からお風呂入ってないんですか?」
「銭湯ってやつだろ? どうも面倒でな」
「……ともかく、同業者とわかったのならばこれ以上接触する必要はない。互いに案件をこなすだけだ」
それから普段のような気の抜けたやり取りを始めたコウマとアオナに背を向けて、その女性はその場を離れようとする。
「キノさーん!」
そこに、緑色の
「そろそろ行かないと、班長に怒られるっすよ! ただでさえ、進捗が滞ってるんっすから」
色素の薄い髪を長めに伸ばしており、頭頂部からは短い毛が跳ね出ている。
その青年は口だけではなく大きなジェスチャーを交えて話をしていて、その様子から彼の
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