同行の条件③
◆
降り
むしろ雨天ゆえの厚い雲に覆われた空が、街を彩るネオンライトの光をより強調している。
通りはそれぞれが差す傘の色で、カラフルに埋め尽くされている。
通り沿いの飲食店も雨宿りを兼ねての小休憩を選んだ人々がよく入り、注文と談笑の声で
「……ふう、すごい雨だな」
その街を抜けて日本
そして、他人の傘から
「さて、早速コウマさんに今日の報告を……ん?」
雨で視界が悪い中でも、その大きさもあって日本
それを頼りに進むアオナだったが、玄関まであと数メートルとなったところで妙な影を目にした。
その影は、大きな平たい
「いやー、いいシャワーだ!」
「……コウマさん?」
それは、半裸で雨に打たれながら、本格的に身体を洗っているコウマの姿だった。
「おう、おかえり。ちゃんと打ち合わせ通りいったか?」
「あ、はい。無事にお話はできたんですけど……じゃなくて、こんなところで一体何をしてるんですか?」
「何って、シャワーだよ。随分久しぶりにシャワーが降ったからさ、よし洗おうと思って」
「あの、雨のことシャワーって言わないでください。ややこしくなってきました」
もつれた
肌についた泡は汚れを存分に吸着して、くすんだ色になっている。
それだけではなく、さらに洗濯までしたようで、玄関先には使い古されたコウマの衣類が、
「すまん、ついな。俺がいた孤児院でもそうだし、第1地区からここまでの旅でも雨で身体とか流してたから、その
「そのときならそうでしょうけど……ここ街中ですよ? 銭湯とかランドリーも近くにありますし……」
「……忘れてた。じゃあ、今の俺ってほとんど変質者じゃん」
「いや、完全にそうですよ」
「やべえ、片付けよ」
習慣化している行動も、場所が変われば
カスミガセキという街にいる事実を改めて実感したらしいコウマは、慌てて身体を流し終えると
「あれ、全然水がなくならねえ」
「道が
「いいか? じゃあ、あの服取っといてくれ」
「わかりました」
「……大事に使ってるのかな?」
はじめにアオナと出会ったときの服もそうだったが、どれも年季が入っている。
それらの様子を見て、アオナは何か思い入れのあるものだと考えたようだ。
それもあって、傘を閉じたアオナはなるべく
「いや、助かった。サンキューな」
それから少しして、コウマも
そして、玄関のすぐ近くに置いていたタオルを広げると身体を
「あの、これ。ここに置いといたので」
そのコウマに、アオナは改めて室内で干しておいた服の場所を伝えた。
どれもしっかりとシワが伸ばされ、等間隔で
「なんだ。床に放り投げといてよかったのに」
「そんなわけにもいかないですよ。大事に使ってそうですし」
「……大事にって?」
「え? それは、色もあせてボロボロなのに、それを捨てずに使ってるので大事なんだなと……」
「何だそりゃ。新しく服買うのが面倒で使い続けてるだけだぞ」
「そ、そうだったんですか……」
しかし、予想とは裏腹にコウマがただ
「……えっと、準備ができたら応接間に来てくださいますか? 今日のことについてお話したいので」
「そうだな。それで、いい話は出来たのか?」
「そうですね、要望は却下されずに済みました。ただ、あの場所を探索する企業に選定されるための条件として、
「
「それは、わかりません。担当者の方も局長の指示で行っただけで、あまり詳しくは……」
「……まあ、いいか。それなら仕方ないし、どうせならしっかり稼がせてもらうか。
「でも、目的は成果を出すことで……」
「成果は出すに決まってるだろ。そのうえで、稼ぐって言ってんだよ俺は。任せとけ」
「……はい、お願いします!」
それを
いくつか残念な面が見えたものの、コウマがアオナに与える安心感に揺るぎはないのだろう。
「では、詳細は応接間で――」
「すいません、警察です」
「――え? 警察?」
そして、場所を移そうとしたアオナだったが、玄関を叩く警察の声に表情を
「この付近で、全裸で水浴びをしている不審者がいると通報がありまして。何かご存知ないですか?」
「全裸って……」
「違うって! 確かに、全裸にはなったけど大事なところを洗うときだけで……!」
「違わないですよ! 事実じゃないですか!」
「……巡査長! 怪しい声がします。全裸がどうとか言ってます!」
「何? すいません、そこに誰かいらっしゃいますよね? 警察です。ここを開けてください!」
「……社長、社員の危機です! お助けを!」
「こんなときだけ、社長って呼ばないでくださいよ!」
その後、コウマは警察から厳重注意を受け、アオナも事情の聴取を念入りに受けることとなった。
……そうしたアクシデントもありながら、必要な準備を済ませた彼らはその二日後、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます