新入社員①
本日の競売が終了してから一時間ほど経ち、別室で契約を済ませたアオナはビルのエントランスにいた。
競売の会場となったこのビルには、日本という国家の運営に関わる
その中身に
「
その一角に置かれた革張りのベンチに腰かけ、アオナは正式に自身の案件となった
彼女の表情には
「無事に契約を終えられたようで何よりですよ、アマガミ社長。久々の案件でしたでしょうしね」
「……コガネイ部長」
そのアオナの元に、コガネイが薄ら笑いを浮かべて近寄ってきた。
今は春先の
身にまとういかにも高級そうな
そんなコガネイの背後には、付き人らしき女性と護衛であろう
「しかし、未開部分のない
「そんなつもりは……ただ単純に、興味があっただけで……」
「なるほどですな。いや、しかし今回は中々に難しい競売でしたな。弊社も苦戦いたしました」
皮肉から始まり、コガネイは話題を競売の結果に移す。
しかし、
「落札できたのは、たったの八件ですよ。狙っていた案件も、二つほど他社に取られてしまいました。もちろん、これでも十分な利益は見込めますがね。会社のさらなる成長のためには、口惜しい部分があります」
「……そ、そうなんですね」
見るからに
「おっと、そうでした。八件ではなく、十二件でしたね。あまりに価格が安くて、四つほど落札したことを忘れておりました。確か、ナンバー436と……後は、何でしたかな?」
それだけに留まらず、コガネイはアオナから
その神経を
「えっと、すいません。緊張していたのか、あまり記憶になくて……」
「左様ですか。私の覚えている限りですと、弊社が入らなければ御社が落札できた状況だったはず……申し訳ないことをしました」
「あ、そうでしたか。そんな、御社が最高額を提示したんです。仕方ないですよ」
しかし、コガネイの
それを理解しているアオナは、あくまで冷静にルール通りの結果でしかないと言葉を返す。
「ご理解いただいているようで、安心いたしました。……それと、せっかくの機会ですのでもう少しお話しても?」
「……何でしょうか?」
「御社の土地の件についてです」
それでも、コガネイが切り出したその件に対しては、アオナはすぐさま声を上げた。
「その、申し訳ございませんが、そのお話は以前にお断りしたはずです」
「そうおっしゃらずに。まだ経営の改善はしておられないでしょう?」
「それは……」
「そこで、弊社が御社のある土地を高値で引き取るという有意義なご提案をしているのです」
「……それでも、答えは変わりません! 失礼いたします」
これまでに、何度か同じ
しかし、アオナにそれを受け入れる意志はないようで、断りを入れると足早にコガネイの前から立ち去る。
「……
その背中にコガネイの意味深な
「……どっと疲れた」
ビルの外に出たアオナは、一度大きく息を吐いた。
コガネイとの会話で、精神的にも肉体的にもかなり
顔には疲れが見え、足取りも
「誰のせいで案件が取れずに経営が苦しいのか、わかってて言ってるよね……悔しいな」
そのアオナが向かう先には、
増改築を繰り返したビルやアパートが
それらの
そのうえ、店舗から突き出した
そんな
例に
「邪魔だよ、姉ちゃん!」
「……す、すいません」
「どこ見て歩いてんだよ!」
「ごめんなさい……」
しかし、明らかに人口と街の容量とがつり合っていない。
人がすれ違うのにも一苦労で、アオナは必死に身を
「着いた……」
そうして、真新しいアパートのある角を曲がったところで、ようやく
アオナは、そこからさらに奥に入った建物の前で足を止める。
小高い三角屋根の
玄関にはくすんだ
「えっと、鍵は……」
「あ、やっと帰ってきた」
その扉の前で
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます