極彩色の大森林⑥
「ゴオオォォ!」
「集え、
それから、体勢を立て直して
その質量もあってか、範囲はそう広くはない。
コウマ達と
「やああああっ!」
その間、アオナは走りながら必死に銃の引き金を引いていた。
それにより幾度となく受ける反動は、彼女の
それでも、弾が無くなれば素早く
「ゴオオォォッ!」
その銃撃で傷は負わずとも、
大きく身体を振って声を上げ、そこから逃れようとその生物は氷の壁に向けて手を振り払う。
「ゴオォォ……ッ!」
しかし、その厚みもあって、ヒビは生じたものの初めのときのように叩き割るまではいかなかった。
そこに、コウマが太刀を手にその生物の
それからは、激しい攻防の連続だった。
コウマは鋭い斬撃を何度も放ちつつ、身軽な動きで
その動きでコウマが敵を引き付けることで自由を得たアオナは、相手にめがけて力の限り銃を放ち続ける。
その生物も硬い表皮で存分に攻撃を受け止め、怪力を秘めた枯れ木のような手で反撃を行っている。
「ゴオオォォッ!」
その最中に、またも
そこから溢れ出す甘い香りが、周囲を幻惑の中に取り込んでいく。
「コウマさん、もう……!」
彼らの周囲に
ただ、それと同時にコウマ達自身の首を
迫る匂いからの逃げ場を失っており、アオナは観念したように目を
「今だ、あれ撃ち落とせ!」
しかし、そこまでして敵と共に閉じこもったのは、確実に大きな一撃を当てるためだった。
コウマの言葉で上に目をやったアオナは、太い枝から吊り下がる巨大な氷の槍を見た。
「……はい!」
いつの間に作り出したのかという疑問はすぐに追いやり、コウマの意図を感じ取ったアオナは、銃でその槍と枝を
「まだだぞ! 撃ち続けろ!」
「……ゴオォ――ッ!」
それでも左右は氷の壁に防がれ、前方からはコウマとアオナの猛攻が襲い来る。
結果、逃げ切ることは叶わず、落下で十分な速度を得た氷の槍が匂いを振り
「ゴオオオァァァ!」
氷の槍は
そのままその圧倒的な重量に押し
「えっ……あれって……」
「あれが、アイツの本当の頭だ」
目的を果たしたこともあり、既に二人はコウマが作った氷の階段を
そこで目にしたその顔に、アオナは甘い香りを吸ってぼやけていた脳が一気に
「あの量の氷の矢に対してなら、まず真っ先に大事なところを守るはずだ。それが、アイツはあの顔じゃなくて背中の
「じゃあ、あの目と口がある場所は……?」
「俺らみたいに中枢神経がある場所じゃなかったってことだ。まあ、
「そ、そうですか……」
まったくの素人ではないにせよ、訪れたことのある
その珍妙な構造を知り、アオナは
「でも、倒せましたね。少し休む時間を取ってまた……」
「いや、まだだ」
「え? 距離を取ったので、もう倒せたかと……」
「さすがに、あの距離で匂いを吸ったら俺でもキツい。だから、引かざるを得なかったって感じだ」
その生物は何とか氷の槍の下から脱したものの、傷口からどす黒い血液が勢いよく流れ出ている。
その姿を見れば、アオナのように終わったと判断しても仕方がないだろう。
しかし、コウマが呟いた一言を証明するように、奇妙な変化が生じた。
「ゴオオオァァァ……」
そして、あの青白い顔が発光し、地面と
さながら地中から養分を吸い上げているようであり、それと比例して逆再生のように負った傷が急速に
「あれが、アイツの
「そ、そんな。早く追撃を……あ、でもあの匂いが……!」
氷の壁の中には、今もまだ幻惑を生じさせる甘美な香りが充満している。
それが敵の接近を妨げ、回復までに要する時間を十分に稼げると理解しているのだろう。
あの生物は無駄には動かず、氷の壁に
「焦るなって。最後の一撃はもう準備してある」
しかし、
「え? どこに……?」
コウマの言葉に先程の氷の槍が頭に
「もっと上だよ」
それから周辺に目を配り始めたアオナをよそに、コウマはゆっくりと上空を指差す。
「上って……きゃあ!」
その指を追って再び上を向こうとしたアオナの眼前を氷の槍が、
先程、あの生物に致命傷を与えたそれよりも二回りほどは大きい。
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