[総ルビ]転移者ホクトの異世界ハーレム旅行記

１９. デコア王国入国

●１９. デコア王国（おうこく）入国（にゅうこく）

　俺（おれ）たちは朝（あさ）から固焼（かたや）きパンに薄味（うすあじ）のポコと野菜（やさい）のスープを食（た）べて微妙（びみょう）な気持（きも）ちだ。

　船（ふね）の出発（しゅっぱつ）を待（ま）っている。国（くに）を挟（はさ）んでいるのはクネスノク川（がわ）で、幅（はば）が一（いち）キロメートル位（くらい）ある。

「アリス様（さま）。なんてお労（いたわ）しい格好（かっこう）なんでしょう」

「よい、気（き）にするでないウサ。仕方（しかた）がなかったウサ」

「せめて首輪（くびわ）を取（と）ってあげたい所（ところ）です」

「これは愛（あい）の印（しるし）なのウサ。問題（もんだい）ないウサ」

　アリスはギーナと別（わか）れを惜（お）しんで会話（かいわ）中（ちゅう）だ。

　アリスは数少（かずすく）ない白兎（しろうさぎ）で例（れい）のミニスカートの赤白（あかしろ）の制服（せいふく）もどきなので非常（ひじょう）に目立（めだ）つ。周（まわ）りの人（ひと）たちが遠巻（とおま）きに眺（なが）めてくる。

　せめてアリスの格好（かっこう）をおとなしい物（もの）にしたいがこの格好（かっこう）が一番（いちばん）防御力（ぼうぎょりょく）が高（たか）い。

　俺（おれ）たちもライトプレートを着込（きこ）んで冒険者（ぼうけんしゃ）風（ふう）、というか冒険者（ぼうけんしゃ）そのものの格好（かっこう）をしている。

　いつ何時（なんどき）、何（なに）に襲（おそ）われるか分（わ）からないのが異世界（いせかい）である。

　乗船（じょうせん）時間（じかん）になったようで先頭（せんとう）のほうが動（うご）き出（だ）した。一応（いちおう）ゲートのような所（ところ）で警備（けいび）隊（たい）の人（ひと）が人相（にんそう）を確認（かくにん）している。ちなみに並（なら）んでいる人（ひと）は俺（おれ）たち以外（いがい）みな人（ひと）族（ぞく）だ。

　俺（おれ）たちの番（ばん）になった。警備（けいび）隊（たい）の人（ひと）も驚（おどろ）いたようだが見（み）て見（み）ぬふりをして俺（おれ）たちを通（とお）した。

　俺（おれ）たちの乗（の）る船（ふね）は中型船（ちゅうがたせん）で五十（ごじゅう）人（にん）程度（ていど）乗（の）れそうだ。料金（りょうきん）は前払（まえばら）い制（せい）で銀貨（ぎんか）十五（じゅうご）枚（まい）だった。

　ギーナさんは離（はな）れたところからこっちを見（み）ていた。

　船（ふね）が岸（きし）を離（はな）れる。帆（ほ）も付（つ）いているのだがこの船（ふね）はゴーレム船（せん）らしい。左右（さゆう）の水車（すいしゃ）のような装置（そうち）が回転（かいてん）して前（まえ）に進（すす）む力（ちから）を得（え）ている。

　岸（きし）を離（はな）れてからすぐに、警備（けいび）隊（たい）の人（ひと）たちが一斉（いっせい）に手（て）を振（ふ）り始（はじ）めた。どうも見（み）た感（かん）じアリスの見送（みおく）りだ。よく見（み）ると、エルリル王女（おうじょ）や偉（えら）い人（ひと）も混（ま）ざっている。

「警備（けいび）隊（たい）の人（ひと）皆（みんな）が見送（みおく）りしてくれるみたいだぞ」

「はい。頑張（がんば）って行（い）ってきますウサ」

　アリスも船（ふね）の隅（すみ）から手（て）を振（ふ）り返（かえ）した。

　船（ふね）は深（ふか）い青（あお）い水（みず）が流（なが）れている川（かわ）を横断（おうだん）していく。

　ほどなくして反対（はんたい）側（がわ）に到着（とうちゃく）した。桟橋（さんばし）に接岸（せつがん）して人（ひと）が下（お）りていく。こちらにもゲートがあり人（ひと）族（ぞく）がチェックをしている。

　俺（おれ）たちの番（ばん）がくる。

「三人（さんにん）ともあなたの奴隷（どれい）ですか？」

　首輪（くびわ）には所有者（しょゆうしゃ）の名前（なまえ）が魔法（まほう）か何（なに）かで浮（う）き出（で）ているので見（み）ればすぐ分（わ）かる。

「ずいぶん甲斐性（かいしょう）があるんですね。身分（みぶん）証明書（しょうめいしょ）はありますか」

　冒険者（ぼうけんしゃ）ギルドカードを差（さ）し出（だ）す。俺（おれ）が横（よこ）に置（お）いてあった読（よ）み取（と）り機（き）にかざすとすぐにチェックされる。

「はい、結構（けっこう）です。行（い）っていいです」

　国境（こっきょう）はすんなり通（とお）してくれた。こちら側（がわ）も町（まち）になっているようだ。

　道（みち）沿（ぞ）いに国旗（こっき）が掲（かか）げられている。白（しろ）い下地（したじ）に緑（みどり）の五芒星（ごぼうせい）が三（みっ）つ書（か）かれている。

　どうやって進（すす）もうか。乗合（のりあい）馬車（ばしゃ）か、荷馬車（にばしゃ）に相乗（あいの）りさせてもらうか。最悪（さいあく）徒歩（とほ）でも構（かま）わないができれば目立（めだ）つので歩（ある）きたくない。

「お兄（にい）さん、おひとついかがですか。甘（あま）いですよ」

　十（じゅっ）歳（さい）ぐらいの少女（しょうじょ）の露天（ろてん）商（しょう）が声（こえ）をかけてくる。オレンジ色（いろ）の果物（くだもの）だ。確認（かくにん）したらミカンのようだ。セルフィールの硬貨（こうか）で四（よっ）つ買（か）ってみんなに配（くば）る。ついでに馬車（ばしゃ）がありそうな商人（しょうにん）ギルドの場所（ばしょ）を尋（たず）ねる。

　俺（おれ）が皮（かわ）の剥（む）き方（かた）をみんなに見（み）せてやる。

「甘（あま）くて少（すこ）し酸味（さんみ）があって美味（おい）しいです」

「美味（おい）しいにゃ」

「ホクトについてくると新（あたら）しい食（た）べ物（もの）にありつけてよいウサ」

　ミカンを食（た）べながら歩（ある）く。皮（かわ）を捨（す）てるゴミ箱（ばこ）がないのでピーテに収納（しゅうのう）してもらう。

　商人（しょうにん）ギルドに着（つ）きさっそく馬車（ばしゃ）を確認（かくにん）する。乗合（のりあい）馬車（ばしゃ）は明日（あした）の朝（あさ）の出発（しゅっぱつ）のようだ。まだ昼前（ひるまえ）なので暇（ひま）過（す）ぎる。

　冒険者（ぼうけんしゃ）ギルドに今度（こんど）は寄（よ）って、小中（しょうちゅう）の魔力（まりょく）結晶（けっしょう）をいくつか換金（かんきん）する。こちらはポルンという単位（たんい）でいくつかの硬貨（こうか）で構成（こうせい）されているようだ。硬貨（こうか）とは別（べつ）にギルドカードにチャージできる魔法（まほう）による電子（でんし）通貨（つうか）もどきも利用（りよう）できる。八（はち）割（わり）をカードに入（い）れてもらった。女子（じょし）三人（さんにん）にもいくらか分（わ）けて持（も）たせる。

　おすすめの食（た）べ物屋（ものや）さんを紹介（しょうかい）してもらう。

　目当（めあ）ての食（た）べ物屋（ものや）を発見（はっけん）した。牛肉（ぎゅうにく）のステーキ屋（や）だ。

　俺（おれ）たちは牛肉（ぎゅうにく）のステーキ、白（しろ）パン、コンソメ風（ふう）スープの昼食（ちゅうしょく）セットを頼（たの）む。

「お肉（にく）、美味（おい）しいにゃ」

「美味（おい）しいごはんが食（た）べられて幸（しあわ）せウサ」

「良（よ）いご主人（しゅじん）様（さま）に巡（めぐ）り合（あ）えてよかったです」

「ほんとウサ。ご飯（はん）にけち臭（くさ）いこと言（い）わない人（ひと）で良（よ）かったウサ」

　三人（さんにん）ともフォークとナイフを器用（きよう）に使（つか）って黙々（もくもく）とお肉（にく）を食（た）べる。牛肉（ぎゅうにく）は三〇〇（さんびゃく）グラムで塩（しお）、胡椒（こしょう）、ニンニクの味付（あじつ）けで赤身（あかみ）が残（のこ）らない程度（ていど）の焼（や）き具合（ぐあい）だ。

　白（しろ）パンは異世界（いせかい）に来（き）てから初（はじ）めて食（た）べた。ふわふわもっちりな感（かん）じの高級（こうきゅう）パンである。

　獣人（じゅうじん）族（ぞく）の国（くに）では一日（いちにち）二食（にしょく）が普通（ふつう）で、お昼（ひる）は休憩（きゅうけい）とおやつ程度（ていど）。人（ひと）族（ぞく）は一日（いちにち）三食（さんしょく）が基本的（きほんてき）な文化（ぶんか）だそうだ。

　アリスなんか平（たい）らだったお腹（なか）が少（すこ）し膨（ふく）れているのが見（み）える。あとの二人（ふたり）は鎧（よろい）でよく分（わ）からない。

「ぽんぽこりんだな」

　お腹（なか）がいっぱいになった所（ところ）で歩（ある）いて腹（はら）ごなしをしよう。

「なにしようか。明日（あした）の朝（あさ）まで暇（ひま）なんだが」

「町（まち）を隅（すみ）から隅（すみ）まで歩（ある）きましょう」

　ということで、上流（じょうりゅう）側（がわ）の南（みなみ）のほうへ行（い）く。

　基本的（きほんてき）に獣人（じゅうじん）族（ぞく）はこちら側（がわ）へ来（こ）ないので、人（ひと）族（ぞく）が向（む）こう側（がわ）へ行（い）く。そのため商店（しょうてん）もほとんど向（む）こう側（がわ）にあり、町（まち）の隅（すみ）のほうは馬屋（うまや）や倉庫（そうこ）が並（なら）んでいるだけになっている。

　人族（ひとぞく）側（がわ）も警備（けいび）隊（たい）の人（ひと）がたくさんいる。軽（けい）鎧（よろい）を着（き）た、剣（けん）や槍（やり）を持（も）った人（ひと）たちだ。

　露店（ろてん）や出店（でみせ）、商店（しょうてん）などを物色（ぶっしょく）して回（まわ）る。肉（にく）はさっき食（た）べたので露店（ろてん）では買（か）わない。

　水（みず）あめの露店（ろてん）を見（み）つけた。黄金色（こがねいろ）をしている。俺（おれ）はお腹（なか）いっぱいなので、女子（じょし）三人（さんにん）に買（か）ってやる。

「甘（あま）くて美味（おい）しいにゃ」

　他（ほか）にはコマの露店（ろてん）や近（ちか）くの村（むら）から来（き）た野菜（やさい）を販売（はんばい）する露店（ろてん）があった。

　夕方（ゆうがた）になる直前（ちょくぜん）に宿（やど）をぶらぶら探（さが）して決（き）める。狙（ねら）いは中流（ちゅうりゅう）の宿（やど）だ。

「ツインの部屋（へや）二（ふた）つですか？　申（もう）し訳（わけ）ないのですが奴隷（どれい）だけの部屋（へや）を取（と）ることはできません。大部屋（おおべや）へ奴隷（どれい）を入（い）れるならできます。あとは馬屋（うまや）です」

　どうしようか。相談（そうだん）する。

「ダブルの部屋（へや）でみんなで一緒（いっしょ）に寝（ね）ましょう」

「屋根（やね）さえあればなんでもいいにゃ」

「わたしもダブルでいいウサ」

　夕（ゆう）ご飯（はん）は宿屋（やどや）の食堂（しょくどう）でとる。若干（じゃっかん）固（かた）い白（しろ）パンにビーフシチューだ。牛肉（ぎゅうにく）と野菜（やさい）のうまみがたっぷり出（で）ていて、肉（にく）もほぐれて柔（やわ）らかい。パンはダメだがシチューは良（よ）かった。

　何（なん）となく成（な）り行（ゆ）きで、みんなで一（ひと）つのベッドで眠（ねむ）ることになった。

　俺（おれ）を挟（はさ）んでピーテが右（みぎ）隣（どなり）とソティが左隣（ひだりどなり）に布団（ふとん）に入（はい）った。アリスが言（い）う。

「じゃあ私（わたし）は上（うえ）で寝（ね）るウサ」

「上（うえ）？　それはちょっと」

　俺（おれ）の上（うえ）に乗（の）っかってくる。思（おも）ったより軽（かる）い。これならなんとか、いやしかし長時間（ちょうじかん）はきついだろう。

「悪（わる）いけどピーテの向（む）こう側（がわ）で眠（ねむ）って」

　俺（おれ）はアリスをどかして四人（よにん）で並（なら）んで眠（ねむ）った。ピーテとソティがくっ付（つ）いてくる。

「ホクトさんいつ私（わたし）たちを食（た）べてくれるんですか？」

「まだそういう気分（きぶん）じゃないので」

「ホクトは甲斐性（かいしょう）なしにゃ」