[総ルビ]転移者ホクトの異世界ハーレム旅行記

５. 旅立ち

●５. 旅立（たびだ）ち

　翌朝（よくあさ）、朝（あさ）ご飯（はん）の後（あと）、俺（おれ）たち二人（ふたり）は旅（たび）の準備（じゅんび）をしていた。

　まず、訓練（くんれん）教官（きょうかん）のおっさんに会（あ）いに行（い）く。

「二（に）週間（しゅうかん）よく頑張（がんば）った。俺（おれ）が保証（ほしょう）する。お前（まえ）たちはもっと強（つよ）くなれる。これからも訓練（くんれん）を忘（わす）れないように続（つづ）けること。村（むら）で余（あま）っていた剣（けん）だ。安物（やすもの）なので遠慮（えんりょ）なく持（も）っていくがいい。あと盾（たて）は木（き）の盾（たて）ですまんが持（も）っていけ」

　金属（きんぞく）、たぶん鉄（てつ）のショートソードを貰（もら）った。あと練習（れんしゅう）で使（つか）った木（き）の盾（たて）だ。おっちゃんは笑顔（えがお）で見送（みおく）ってくれた。

　家（いえ）に帰（かえ）り、替（か）えの服（ふく）などを荷物（にもつ）袋（ぶくろ）に入（い）れていく。といっても一（いっ）着（ちゃく）しか持（も）っていない。お金（かね）は、ピーテが主（おも）に持（も）っている。俺（おれ）も安全（あんぜん）のために少（すこ）し持（も）たせてもらった。そして剣（けん）を腰（こし）に下（さ）げ、盾（たて）は荷物（にもつ）袋（ぶくろ）と共（とも）に背中（せなか）に背負（せお）う。

　長老（ちょうろう）の家（いえ）に行（い）ったら、なぜか村（むら）の若者（わかもの）の代表（だいひょう）がいてお金（かね）をくれた。

「村（むら）の有志（ゆうし）一同（いちどう）からピーテちゃんへ餞別（せんべつ）だ」

「わしもポテトチップスのお礼（れい）に多（おお）めに入（い）れておいたのじゃ」

「こんなに貰（もら）ってしまって。ありがとうございます」

「ありがとうございます」

　相場観（そうばかん）がよく分（わ）からないが、結構（けっこう）かさばっている量（りょう）だ。ピーテが素直（すなお）に受（う）け取（と）ったので、俺（おれ）も礼（れい）を言（い）って受（う）け取（と）っておくことにする。

　行商人（ぎょうしょうにん）と共（とも）に長老（ちょうろう）宅（たく）を後（あと）にし、アルパカ馬車（ばしゃ）の荷台（にだい）に乗（の）り込（こ）む。荷台（にだい）の前（まえ）には、暇（ひま）な村人（むらびと）や子供（こども）たち、そしてピーテ父（ちち）母（はは）がいた。

「お父（とう）さん、お母（かあ）さん、行（い）ってきます」

「ピーテ、行（い）ってらっしゃい」

　挨拶（あいさつ）を聞（き）き届（とど）けた行商人（ぎょうしょうにん）のプレレは馬車（ばしゃ）を発進（はっしん）させる。

「それでは出発（しゅっぱつ）アル」

　走（はし）り出（だ）して村（むら）が見（み）えなくなってから少（すこ）しして、そういえば、おっちゃんの名前（なまえ）知（し）らないなと気（き）が付（つ）いた。荷物（にもつ）の隅（すみ）にピーテと座（すわ）っているので聞（き）いてみる。

「なあ、教官（きょうかん）の名前（なまえ）はなんていうんだ」

「確（たし）かアルフレドだったと思（おも）います」

「もしかして、村人（むらびと）全員（ぜんいん）の名前（なまえ）を知（し）ってるとか？」

「え、知（し）ってますよ。普通（ふつう）じゃないんですか？」

「それが、普通（ふつう）じゃないんだな」

「そうなんですか。不思議（ふしぎ）ですね」

　暇（ひま）なので、色々（いろいろ）な話（はなし）をピーテと、さらにたまに御者（ぎょしゃ）の行商人（ぎょうしょうにん）とする。プレレはもう何年（なんねん）も一人（ひとり）でこの地域（ちいき）の村（むら）を二（に）週間（しゅうかん）周期（しゅうき）で回（まわ）っているそうだ。四十（よんじゅっ）歳（さい）のオス。拠点（きょてん）の街（まち）の店（みせ）では奥（おく）さんと子供（こども）とアルバイトが一人（ひとり）いる。村々（むらむら）から特産（とくさん）品（ひん）を買（か）い、生活（せいかつ）物資（ぶっし）を届（とど）けている。例（れい）のカエルも、街（まち）の酒場（さかば）にほとんどを卸（おろ）していて、高（たか）めのお値段（ねだん）ながら人気（にんき）料理（りょうり）だそうだ。

　魔法（まほう）についても聞（き）いてみた。プレレはあんまり知（し）らないそうだ。この獣人（じゅうじん）族（ぞく）の国（くに）の王都（おうと）に行（い）けば、図書館（としょかん）や国立（こくりつ）学院（がくいん）はあるという。また、街（まち）の神殿（しんでん）に行（い）けば、お金（かね）を払（はら）えば回復（かいふく）魔法（まほう）を受（う）けることができる。魔法使（まほうつか）いのほとんどは、騎士（きし）団（だん）や軍（ぐん）所属（しょぞく）や迷宮（めいきゅう）があるもっと東（ひがし）の方（ほう）にいてこの辺（へん）の街（まち）にはいない。いても魔法使（まほうつか）いらしい格好（かっこう）はしていないので普通（ふつう）は分（わ）からないという。

　盗賊（とうぞく）についても聞（き）いてみた。プレレの行商（ぎょうしょう）ルートは田舎（いなか）過（す）ぎて、盗賊（とうぞく）も出（で）ない。若（わか）いころは護衛（ごえい）付（つ）きの隊商（たいしょう）を組（く）んで、もっと都会（とかい）の方（ほう）を回（まわ）っていた時（とき）にはたまに遭遇（そうぐう）したという。

　俺（おれ）の話（はなし）も最初（さいしょ）はせがまれたが、話下手（はなしべた）なのと地球（ちきゅう）の話（はなし）はほとんどの単語（たんご）を説明（せつめい）しなければならない上（うえ）に、よく理解（りかい）できないことばかりなので、あまり要求（ようきゅう）されなくなった。

「美味（おい）しい食（た）べ物（もの）の話（はなし）をされても、想像（そうぞう）できなくてホクトばかりずるいです」

　カレー、焼（や）きそば、パスタ、プリンとかを言葉（ことば）だけで説明（せつめい）するのは難（むずか）しい。ピーテのいたボロレ村（むら）は、あらゆるものがないので説明（せつめい）しづらい。小麦粉（こむぎこ）はない。卵（たまご）は普段（ふだん）食（た）べないし、牛乳（ぎゅうにゅう）もない。母乳（ぼにゅう）はあるが子供（こども）が飲（の）むものという認識（にんしき）だ。

　そうそう、文字（もじ）についても意外（いがい）だった。言語（げんご）はなぜか日本語（にほんご）だが文字（もじ）はローマ字（じ）だった。分（わ）かち書（が）きで書（か）くそうだ。これなら新（あたら）しい言語（げんご）を覚（おぼ）えなくても済（す）む。神様（かみさま）ありがとう。

　ピーテは村（むら）の寺子屋（てらこや）のような所（ところ）で文字（もじ）と算数（さんすう）は習（なら）ったようだ。異世界（いせかい）をなめていたがこの国（くに）の教育（きょういく）水準（すいじゅん）は高（たか）い方（ほう）らしい。

　森（もり）の中（なか）をずっと進（すす）み、川沿（かわぞ）いの道（みち）を進（すす）む。道（みち）の横（よこ）に空（あ）きスペースがある所（ところ）でお昼（ひる）休憩（きゅうけい）をすることになった。

「いつも通（とお）る道（みち）だからアル。ちょうどいい時間（じかん）に休憩（きゅうけい）場所（ばしょ）もあるアル」

　隅（すみ）のほうに簡易（かんい）のかまどのような石組（いしぐみ）が常設（じょうせつ）されていた。毎回（まいかい）作（つく）るより、取（と）っておいた方（ほう）が効率的（こうりつてき）なんだろう。プレレ商人（しょうにん）は、そこで火（ひ）を起（お）こしてお茶（ちゃ）のお湯（ゆ）を作（つく）っている。

　なんか火（ひ）をつけるときに、不自然（ふしぜん）に一瞬（いっしゅん）でつけている。火打石（ひうちいし）とかを使（つか）っている様（よう）子（こ）がない。

「プレレさん、どうやって火（ひ）をつけてるんです？」

「これ？　生活（せいかつ）魔法（まほう）。便利（べんり）でしょ？」

「魔法（まほう）は神殿（しんでん）とかに行（い）かないとって言（い）ってませんでした？」

「生活（せいかつ）魔法（まほう）は神殿（しんでん）に行（い）って聖（せい）なるペンダント買（か）って祝福（しゅくふく）してもらうと、大体（だいたい）の人（ひと）は使（つか）えるようになるアルよ」

「あ、そうなんですか、自然（しぜん）に覚（おぼ）えないんですね」

「自然（しぜん）に使（つか）える人（ひと）は天才（てんさい）アル」

　いいこと聞（き）いた。国立（こくりつ）学院（がくいん）とかは攻撃（こうげき）・回復（かいふく）魔法（まほう）とかの部類（ぶるい）のことらしい。そういえば、前回（ぜんかい）のとき「攻撃（こうげき）とかの魔法（まほう）」って俺（おれ）が質問（しつもん）してた。

「これはツメツ茶（ちゃ）アル。健康（けんこう）にいいアル」

　健康（けんこう）にいいお茶（ちゃ）、怪（あや）しい。薄青（うすあお）色（いろ）のお茶（ちゃ）だ。二人（ふたり）とも熱（あつ）いお茶（ちゃ）のカップをフウフウして飲（の）む。レモン水（すい）みたいな味（あじ）だった。ポコという動物（どうぶつ）のジャーキーも一緒（いっしょ）に頂（いただ）く。

「ツメツ茶（ちゃ）もポコジャーキーも美味（おい）しいですね」

「俺（おれ）も結構（けっこう）好（す）きだよ」

「どちらも近（ちか）くの村（むら）で買（か）い付（つ）けたアル。庶民（しょみん）の旅（たび）の味方（みかた）アルね」

　出発（しゅっぱつ）しようとしたところ、プレレとピーテが周（まわ）りをキョロキョロしだした。

「どうした？」

「生（い）き物（もの）の近（ちか）づく気配（けはい）がします」

　盗賊（とうぞく）は出（で）ないが、動物（どうぶつ）は出（で）るらしい。プレレが剣（けん）を抜（ぬ）いて構（かま）えている。敵（てき）は後（うし）ろ側（がわ）からのようだ。

　森（もり）の中（なか）から、ヒョウ系（けい）の動物（どうぶつ）が出（で）てきた。

「ポイズンヒョウでアル。三匹（さんびき）いるけど楽勝（らくしょう）アル」

　そう言（い）うと、プレレが突撃（とつげき）していく。あっという間（ま）に一匹（いっぴき）仕留（しと）めた。しかし左右（さゆう）から挟（はさ）まれてしまう。

　俺（おれ）とピーテが一匹（いっぴき）ずつの相手（あいて）を務（つと）める。剣（けん）を振（ふ）ってヒョウを牽制（けんせい）する。俺（おれ）は飛（と）びかかってくるヒョウをぎりぎりで避（よ）けるのに精（せい）いっぱいだ。

　横（よこ）からプレレが俺（おれ）を攻撃（こうげき）しているヒョウを斜（なな）めに斬（き）りつけて、斬（ぎ）り裂（さ）いた。

　ピーテのほうもすでに首（くび）を斬（き）りつけて仕留（しと）めていた。

　なんか、あっという間（ま）だった。

「プレレのおっちゃん、強（つよ）いじゃないですか」

「言（い）ったアル。隊商（たいしょう）を護衛（ごえい）していたって」

「商人（しょうにん）じゃなくて護衛（ごえい）だったのかよ」

　ポイズンヒョウはプレレとピーテが皮（かわ）だけ剥（は）いで持（も）って帰（かえ）る。肉（にく）は毒（どく）があり食（た）べられない。牙（きば）とか爪（つめ）には毒（どく）がないらしい。名前（なまえ）からしたら毒（どく）攻撃（こうげき）かと思（おも）ったが違（ちが）うらしい。

　あと、体（からだ）の中心（ちゅうしん）から魔力（まりょく）結晶（けっしょう）を取（と）り出（だ）していた。

「魔力（まりょく）結晶（けっしょう）ってなに？」

「魔物（まもの）の核（かく）ですね。普通（ふつう）の動物（どうぶつ）にはありません。魔道（まどう）具（ぐ）の材料（ざいりょう）になるので売（う）れます。ちなみに森（もり）にはほとんどいません」

「今回（こんかい）のポイズンヒョウは八（はっ）級（きゅう）魔力（まりょく）結晶（けっしょう）アル。ちょっと儲（もう）かったアル」

　十（じゅっ）級（きゅう）から一級（いっきゅう）まであり、一級（いっきゅう）が一番（いちばん）良（よ）くて高（たか）く売（う）れる。再度（さいど）出発（しゅっぱつ）だ。

　このアルパカ結構（けっこう）なスピードが出（で）る。普通（ふつう）の馬（うま）とそん色（しょく）ない。と言（い）っても普通（ふつう）の馬車（ばしゃ）のスピードとか知（し）らないけど。

　この翌日（よくじつ）の夕方（ゆうがた）、小（ちい）さな村（むら）に到着（とうちゃく）した。前日（ぜんじつ）の夜（よる）はたまにアルパカを休憩（きゅうけい）させつつ夜通（よどお）し馬車（ばしゃ）で走（はし）っていた。猫（ねこ）人（ひと）族（ぞく）とアルパカは夜目（よめ）が利（き）く上（うえ）に月（つき）が出（で）ているので問題（もんだい）ないらしい。

　村（むら）の入（い）り口（ぐち）では、槍（やり）を持（も）った革（かわ）鎧（よろい）の門番（もんばん）が二人（ふたり）いた。馬車（ばしゃ）の中（なか）を一度（いちど）確認（かくにん）してきた。

「やあ、プレレ。今日（きょう）は珍（めずら）しくお客（きゃく）付（つ）きかい。しかも一人（ひとり）は人（ひと）族（ぞく）かい」

「珍（めずら）しいアルか。ボロレ村（むら）の客人（きゃくじん）アルね」

「はい。通（とお）ってよーし」

　門番（もんばん）はすぐに通（とお）してくれる。特（とく）にお金（かね）とかは取（と）られなかった。ここはベケベケ村（むら）、王都（おうと）側（がわ）から伸（の）びる街道（かいどう）が通（とお）っており隣国（りんごく）まで続（つづ）いている。ボロレ村（むら）はベケベケ村（むら）から街道（かいどう）をそれた第（だい）三（さん）の道（みち）に繋（つな）がっている。

　この日（ひ）は村（むら）で宿（やど）に一泊（いっぱく）する。プレレで一（ひと）部屋（へや）、俺（おれ）とピーテで一（ひと）部屋（へや）だ。

　俺（おれ）とピーテが連（つ）れ立（だ）って部屋（へや）に入（はい）る。

「ベッドが一（ひと）つしかないぞ」

「意味（いみ）は分（わ）かりませんがダブルって言（い）ってましたよ。ダブルって二（ふた）つって意味（いみ）じゃないんですかね」

「いや、ダブルなら一（ひと）つであってる」

「一（ひと）つなのに二（ふた）つなんですか？　不思議（ふしぎ）です」

　あの宿屋（やどや）の親父（おやじ）。俺（おれ）が適当（てきとう）に聞（き）き流（なが）してる間（あいだ）にダブルにしてたのか。部屋（へや）はもう余（あま）っていないらしく、交換（こうかん）もできない。

　夕（ゆう）ご飯（はん）は宿屋（やどや）で、固焼（かたや）き黒（くろ）パンに川魚（かわざかな）の干物（ひもの）焼（や）き、野菜（やさい）スープだった。味（あじ）は食（た）べれなくもないかな。村（むら）のピーテの料理（りょうり）のほうが美味（おい）しく感（かん）じたな。

　食後（しょくご）はすることもないので、寝（ね）るのみ。

「俺（おれ）は床（ゆか）で寝（ね）る」

「いやいや、二人（ふたり）で一緒（いっしょ）に寝（ね）ましょうよ。寝（ね）れるくらいの幅（はば）はありますよ」

「俺（おれ）は床（ゆか）で寝（ね）る」

「私（わたし）、いつも両親（りょうしん）と川（かわ）の字（じ）で寝（ね）てたので、一人（ひとり）だと寂（さび）しくて眠（ねむ）れません。家（いえ）でだって並（なら）んで寝（ね）たじゃないですか」

「そこまでいうなら、一緒（いっしょ）に寝（ね）る？」

「はい。ありがとうございます」

　ニコニコ笑顔（えがお）がまぶしいね。ピーテちゃんついにデレ期（き）に突入（とつにゅう）か。俺（おれ）はドキドキしながら布団（ふとん）にもぐる。ピーテも布団（ふとん）に入（はい）ってくる。しかし二人（ふたり）ともすぐに眠（ねむ）ってしまった。