[総ルビ]転移者ホクトの異世界ハーレム旅行記

１７. お花見

●１７. お花見（はなみ）

　午後（ごご）。どういう訳（わけ）かお花見（はなみ）に行（い）くことになった。場所（ばしょ）はフクベル市内（しない）南西（なんせい）のベリリンジャン記念（きねん）公園（こうえん）というところだ。

　俺（おれ）たちは私服（しふく）で連（つ）れ立（だ）って公園（こうえん）に向（む）かっていた。アリスだけは今日（きょう）も黒（くろ）いローブを頭（あたま）から被（かぶ）っている。天気（てんき）は快晴（かいせい）。ぽかぽか陽気（ようき）だ。

「おっ花見（はなみ）。おっ花見（はなみ）。たのしみですっ」

　今日（きょう）はピーテがご機嫌（きげん）だ。アリスから公園（こうえん）の事（こと）を聞（き）いて花見（はなみ）を提案（ていあん）してきたのはピーテだった。

「で、どんなところなんだ」

「具体的（ぐたいてき）には着（つ）いてからのお楽（たの）しみなのじゃウサ」

「ふうん。もったいぶるね。別（べつ）にいいけど」

　道中（どうちゅう）歩（ある）きながら食（た）べ物（もの）の話（はなし）を中心（ちゅうしん）に三人娘（さんにんむすめ）は良（よ）くしゃべる。俺（おれ）は後（うし）ろからのんびり見学（けんがく）中（ちゅう）だ。あとなぜか俺（おれ）の後（うし）ろをギーナさんが武装（ぶそう）した格好（かっこう）でついてくる。

「ギーナさんも一緒（いっしょ）に話（はな）しませんか？」

「いや。私（わたし）は護衛（ごえい）が任務（にんむ）なので」

　ピーテが後（うし）ろを振（ふ）り返（かえ）りながら聞（き）いてきた。とてもいい子（こ）だ。諦（あきら）めて再（ふたた）び前（まえ）を向（む）いて会話（かいわ）に戻（もど）る。

「最高（さいこう）のパスタは何（なに）パスタだと思（おも）いますか？」

「もちろんカニパスタだにゃ」

「そうだなポコ肉（にく）と野菜（やさい）のパスタがおすすめウサ」

「私（わたし）はきっとカエルパスタがあれば一番（いちばん）だと思（おも）うんです」

　ソティは良（よ）くお肉（にく）に飛（と）びつくが、一押（ひとお）しはカニなんだよな。ピーテは故郷（こきょう）の味（あじ）カエル好（ず）きだな。

　俺（おれ）だったら何（なに）だろう。まだ最高（さいこう）の味（あじ）に出会（であ）っていないがカルボナーラかな。ナスのミートソースも好（この）みだな。

　そうこうしている内（うち）に公園（こうえん）入口（いりぐち）にたどり着（つ）いた。有料（ゆうりょう）で一人（ひとり）四〇〇（よんひゃく）コルカ、合計（ごうけい）で銀貨（ぎんか）一枚（いちまい）と大（だい）銅貨（どうか）六（ろく）枚（まい）だった。

　公園（こうえん）内（ない）に入（はい）るとまずはコスモス畑（ばたけ）が左右（さゆう）に広（ひろ）がっていた。公園（こうえん）の外周（がいしゅう）には木（き）も沢山（たくさん）生（は）えている。

　人（ひと）は平日（へいじつ）昼間（ひるま）で有料（ゆうりょう）だからかまばらだった。

「お花畑（はなばたけ）ですよ、お花畑（はなばたけ）。これがコスモスですか。綺麗（きれい）なピンク色（いろ）ですね」

　ピーテはソティの手（て）を取（と）って先（さき）に進（すす）む。俺（おれ）たちも後（あと）を追（お）った。

　とても平和（へいわ）である。

　少（すこ）し進（すす）むと今度（こんど）はヒマワリ畑（ばたけ）になっていた。季節（きせつ）が混（ま）ざっているが異世界（いせかい）なので気（き）にしてはいけない。

　次（つぎ）は芝生（しばふ）と噴水（ふんすい）池（いけ）があった。芝生（しばふ）の上（うえ）には白（しろ）いウサギが何匹（なんびき）かいて放（はな）し飼（が）いになっている。

「これがウサギでウサ。王家（おうけ）の象徴（しょうちょう）なので大切（たいせつ）にされているウサ」

「ウサギは美味（おい）しいにゃ？」

「食（た）べたりしたら牢屋（ろうや）送（おく）りウサ」

「分（わ）かったにゃ。食（た）べないにゃ」

「ウサギが兎（うさぎ）人（ひと）族（ぞく）に進化（しんか）したの？」

「いいや。伝承（でんしょう）によれば神様（かみさま）が元（もと）からいたウサギと人（ひと）を真似（まね）て、新（あたら）しく兎（うさぎ）人（ひと）族（ぞく）を創造（そうぞう）したとされているウサ。他（ほか）の獣人（じゅうじん）もそうウサ」

「じゃあ、人（ひと）族（ぞく）の方（ほう）がこの世界（せかい）には古（ふる）くからいたんだ」

「そうウサ。神様（かみさま）は人（ひと）族（ぞく）だけでは世界（せかい）が良（よ）くならないと考（かんが）え獣人（じゅうじん）族（ぞく）を作（つく）った。人（ひと）族（ぞく）と獣人（じゅうじん）族（ぞく）が仲良（なかよ）く暮（く）らし発展（はってん）することを願（ねが）っていたウサ。しかし現実（げんじつ）には人（ひと）族（ぞく）と獣人（じゅうじん）族（ぞく）はあまり仲（なか）が良（よ）くないウサ」

「そうなんだ。俺（おれ）別（べつ）に人（ひと）族（ぞく）だからっていままで差別（さべつ）とかされていないけど」

「獣人（じゅうじん）族（ぞく）は人（ひと）族（ぞく）を差別（さべつ）しないウサ。けれど人（ひと）族（ぞく）は新（あたら）しい住人（じゅうにん）である獣人（じゅうじん）族（ぞく）は獣（けもの）の血（ち）が混（ま）ざっているとして差別（さべつ）しているウサ」

「なるほど、それで人（ひと）族（ぞく）は東国（とうごく）で固（かた）まって住（す）んでいるんだね」

「差別（さべつ）されていた獣人（じゅうじん）族（ぞく）は西（にし）の未開拓（みかいたく）地（ち）を神（かみ）から譲（ゆず）り受（う）けて国（くに）を作（つく）ったんだウサ」

「それがセルフィール王国（おうこく）なんだね」

　芝生（しばふ）の隅（すみ）に、ウサギの餌（えさ）の無人（むじん）販売所（はんばいしょ）がある。一袋（ひとふくろ）で二〇〇（にひゃく）コルカすなわち大（だい）銅貨（どうか）二枚（にまい）だ。

「ウサギの餌（えさ）がほしいにゃ。一（ひと）つ買（か）ってにゃ」

　俺（おれ）はソティに一袋（ひとふくろ）買（か）ってやる。中身（なかみ）は乾燥（かんそう）ニンジンのスティックのようだ。

「はい、あーんにゃ」

　俺（おれ）に一本（ほん）食（た）べさせてくれる。っておい。俺（おれ）はウサギじゃないぞ。

「違（ちが）うだろ」

「違（ちが）ったにゃ」

　なぜかピーテとアリスも一本（ほん）ずつ受（う）け取（と）って俺（おれ）の方（ほう）に向（む）けてくる。

「はい、あーんですよ。ホクトさん」

「はい、あーんなのウサ。ホクトよ」

「だから違（ちが）うだろ」

　俺（おれ）は二人（ふたり）に軽（かる）くチョップのまねをする。二人（ふたり）とも頭（あたま）を手（て）で庇（かば）う仕草（しぐさ）をしてからウサギのほうへ向（む）かった。

「やれやれ」

　俺（おれ）は一人（ひとり）ため息（いき）をついて三人（さんにん）がウサギに餌（えさ）をあげるのを眺（なが）める。ちょうど三匹（さんびき）近（ちか）くにいて、一人（ひとり）一匹（いっぴき）ずつあげている。何（なに）か声（こえ）を掛（か）けながら餌（えさ）をあげている。

「沢山（たくさん）食（た）べるウサ。ホクト二号（にごう）」

「落（お）ち着（つ）いて食（た）べるのですよ。ホクト三号（さんごう）」

「と、とりあえず食（た）べるにゃ。ホクト四号（よんごう）」

　ウサギたちに俺（おれ）の名前（なまえ）を付（つ）けている。なんてことしてるんだ。

　そのあとホクト二号（にごう）たちはあっという間（ま）にニンジンを食（た）べて去（さ）っていった。

　噴水（ふんすい）のある池（いけ）を覗（のぞ）いて見（み）たら、三十（さんじゅっ）センチぐらいの赤（あか）い魚（さかな）が泳（およ）いでいた。あの色（いろ）・大（おお）きさと形（かたち）には見（み）覚（おぼ）えがあるぞ。

「赤魚（あかうお）がいますね」

「赤魚（あかうお）まずいにゃ。食（た）べたことあるにゃ」

「あいつらか。懐（なつ）かしいな」

「とても目立（めだ）つので、王都（おうと）では観賞（かんしょう）用（よう）なのウサ」

　続（つづ）いて奥（おく）のサクラ並木（なみき）に移動（いどう）した。普通（ふつう）のサクラは寒（さむ）い冬（ふゆ）がこないと咲（さ）かないがこちらでは違（ちが）うらしい。

　サクラ並木（なみき）一面（いちめん）が花（はな）びらを満開（まんかい）にしていた。

「ここのサクラはいつも咲（さ）いているウサ。普通（ふつう）は年（ねん）に二（に）週間（しゅうかん）程度（ていど）しか咲（さ）かないウサ」

「綺麗（きれい）ですね」

「地脈（ちみゃく）のマナが関係（かんけい）していると言（い）われているウサ」

　俺（おれ）はアリスの手（て）を取（と）って持（も）ち上（あ）げて向（む）かい会（あ）う。

「なかなかのものだね。素晴（すば）らしいよウサ子（こ）君（くん）」

「ウサ子（こ）じゃなくてこれからはアリスって名前（なまえ）で呼（よ）んでほしいウサ」

「一番（いちばん）大（おお）きな木（き）の下（した）で永遠（えいえん）を誓（ちか）い合（あ）おうアリス」

　俺（おれ）たちが芝居（しばい）口調（くちょう）で盛（も）り上（あ）がっているとピーテが割（わ）り込（こ）んでくる。

「ダメ！　ハイ、小芝居（こしばい）はおしまいです」

「ちぇ」

「ちぇウサ」

「ダメな物（もの）はダメです」

　ピーテ先生（せんせい）厳（きび）しいな。

　俺（おれ）たちはサクラが舞（ま）い散（ち）る中（なか）を歩（ある）いていく。皆（みんな）周（まわ）りを見（み）ながら無言（むごん）で歩（ある）く。

　他（ほか）にも知（し）らない花（はな）などが咲（さ）いていた。一周（いっしゅう）して公園（こうえん）を後（あと）にする。

　まだ夕方（ゆうがた）までは時間（じかん）が余（あま）っている。商業（しょうぎょう）地区（ちく）の方（ほう）へ行（い）き、珍（めずら）しい食（た）べ物（もの）がないか捜索（そうさく）することにした。

「この赤（あか）い膨（ふく）らんだ身（み）はなんですか」

「パプリカだと思（おも）うよ、唐辛子（とうがらし）の親戚（しんせき）だけどほんのり甘（あま）い。少（すこ）し癖（くせ）がある」

　ピーテは食材（しょくざい）に興味津々（きょうみしんしん）だ。ソティはお肉（にく）やすぐ食（た）べられるものに興味（きょうみ）がある。そしてアリスは思（おも）ったほど興味（きょうみ）はなさそうに見（み）える。

　輸入物（ゆにゅうもの）の香辛料（こうしんりょう）屋（や）があった。色々（いろいろ）な色（いろ）をした粉（こな）が並（なら）んでいる。俺（おれ）はカレー粉（こ）を探（さが）す。よく見（み）ると、隅（すみ）の方（ほう）に調合（ちょうごう）済（ず）みのカレー粉（こ）らしきものがあった。さっそく購入（こうにゅう）した。思（おも）ったより高（たか）いかもしれない。

「今日（きょう）は特別（とくべつ）にカレーパンを作（つく）ろうと思（おも）う」

「カレーパンとは何（なに）ウサ？」

「さっき買（か）った香辛料（こうしんりょう）と野菜（やさい）と肉（にく）を詰（つ）めた辛（から）い揚（あ）げパンだよ」

「揚（あ）げパンにゃ。すぐ食（た）べたいにゃ」

「味（あじ）は揚（あ）げパンとは違（ちが）うから注意（ちゅうい）してほしい」

「期待（きたい）していますね」

　途中（とちゅう）でアリスが高級（こうきゅう）ポコジャーキーを補充（ほじゅう）していた。お金（かね）はギーナさん払（ばら）いだ。店員（てんいん）はギーナさんの顔見知（かおみし）りのようだ。いつもアリスに買（か）いに来（こ）させられるのだろう。

　夕方（ゆうがた）になる前（まえ）に王城（おうじょう）に戻（もど）ることができた。

　さっそくカレーパンの仕込（しこ）みにかかる。まずカレーを作（つく）るところから始（はじ）める。お肉（にく）は厨房（ちゅうぼう）にあったポコ肉（にく）にした。野菜（やさい）はジャガイモなどを小（ちい）さめに切（き）って適当（てきとう）に入（い）れる。固（かた）めのカレーに仕上（しあ）げる。カレーを煮（に）ている間（あいだ）にパン生地（きじ）を用意（ようい）する。

　夕（ゆう）ご飯（はん）には間（ま）に合（あ）わなかったので、ご飯（はん）は普通（ふつう）に頂（いただ）いた。

　食後（しょくご）にカレーとパンを合体（がったい）させて、カレーパン異世界（いせかい）風（ふう）が完成（かんせい）した。

　お風呂（ふろ）を済（す）ませた後（あと）、アリスの部屋（へや）に集（あつ）まった。俺（おれ）は明日（あした）でもいいと言（い）ったが、女子（じょし）三人（さんにん）は夜（よる）でも待（ま）ってると主張（しゅちょう）したためだ。

　俺（おれ）は三人（さんにん）のパジャマ姿（すがた）を初（はじ）めて目撃（もくげき）する。

「夜（よる）に食（た）べるなんて太（ふと）るぞ」

「毎日（まいにち）鍛（きた）えてるから大丈夫（だいじょうぶ）です。さあ食（た）べましょう」

　俺（おれ）たちは四人（よにん）でせーのの合図（あいず）でカレーパンにかぶりつく。辛（から）さは控（ひか）えめにしてある。お肉（にく）や野菜（やさい）もいい感（かん）じの甘味（あまみ）とうまみを出（だ）してくれている。

「ホクトさんの料理（りょうり）は相変（あいか）わらず美味（おい）しいです」

「なんだか変（か）わってるけどうまいにゃ」

「明日（あした）、お父様（とうさま）にも持（も）って行（い）ってあげないと後（あと）で何（なに）言（い）われるか分（わ）からないウサ」

　俺（おれ）は一（ひと）つだけ食（た）べたが、女子（じょし）三人（さんにん）は二（ふた）つずつ食（た）べきった。