[総ルビ]転移者ホクトの異世界ハーレム旅行記

１６. フクベル迷宮(４)

●１６. フクベル迷宮（めいきゅう）(４)

　迷宮（めいきゅう）探索（たんさく）は十（じゅっ）層（そう）まで来（き）ていた。十層（そう）は氷（こおり）ゾーンらしく通路（つうろ）も部屋（へや）の壁（かべ）も凍（こお）っている。

「凍（こお）っててだんだん寒（さむ）くなってきたな」

「――スプリング・ブリーズ」

　アリスが魔法（まほう）を発動（はつどう）させる。周囲（しゅうい）が暖（あたた）かくなって寒（さむ）さを感（かん）じなくなった。

「ありがとう、アリス。春（はる）のそよ風（かぜ）か。なかなかしゃれたネーミングだな」

「魔法（まほう）なんでも大（だい）辞典（じてん）に載（の）っていた魔法（まほう）でウサ。学院（がくいん）で研究（けんきゅう）も結構（けっこう）したウサ」

「春（はる）、というのがよく分（わ）からないにゃ」

「季節（きせつ）の説明（せつめい）は馬車（ばしゃ）の旅（たび）でしてやっただろ」

「覚（おぼ）えてないにゃ」

　やれやれ。ソティはご飯（はん）の話（はなし）以外（いがい）は食（く）いつきが悪（わる）く、たまに居眠（いねむ）りもしていたからな。ピーテも感心（かんしん）しているようで、内容（ないよう）はよく分（わ）かっていないようだった。話（はなし）のし甲斐（がい）のない子（こ）たちだ。

　しばらく進（すす）むと白（しろ）い巨大（きょだい）芋虫（いもむし）が出（で）てきた。一（いち）メートルほどの背丈（せたけ）で長（なが）さは二（に）メートルぐらいだ。

「ホワイト・クローラーでウサ」

「食（た）べられるにゃ？」

「食（た）べたければどうぞ。意外（いがい）と美味（おい）しいらしいウサ」

　食（た）べられるかよりも、戦闘（せんとう）に有利（ゆうり）な情報（じょうほう）優先（ゆうせん）にしてほしい。白（しろ）芋虫（いもむし）は伸（の）びたり縮（ちぢ）んだりして前（まえ）に進（すす）む。

　ソティが正面（しょうめん）で俺（おれ）が横（よこ）から斬（き）りかかる。しかし皮（かわ）が厚（あつ）いのか弾（はじ）き返（かえ）される。

「弱点（じゃくてん）は火（ひ）の魔法（まほう）剣（けん）でウサ」

「魔法（まほう）剣（けん）？」

「火（ひ）魔法（まほう）を剣（けん）の周（まわ）りに発生（はっせい）させて、魔法（まほう）で斬（き）りつけるウサ。きっとできるウサ」

　そんな、いきなり本番（ほんばん）で言（い）われても難（むずか）しい。俺（おれ）は集中（しゅうちゅう）して火（ひ）が剣（けん）の周（まわ）りを覆（おお）うのをイメージして魔力（まりょく）を集（あつ）める。妄想（もうそう）は得意（とくい）だ。頑張（がんば）れ俺（おれ）のイメージ力（りょく）。

　火（ひ）が出（で）るというか、ぼやっとした半透明（はんとうめい）の赤（あか）い色（いろ）が剣（けん）を覆（おお）った。

「やったウサ。さっさと倒（たお）すウサ」

「お、おう」

　俺（おれ）は気合（きあい）を入（い）れて、右手（みぎて）の剣（けん）を白（しろ）芋虫（いもむし）の首（くび）らへんに縦（たて）に斬（き）りつける。

「うおぉぉおぉ」

　白（しろ）芋虫（いもむし）は首（くび）が取（と）れて動（うご）かなくなった。

「ファイヤー・アローじゃだめなのか？」

「アローだと穴（あな）は空（あ）くけど胴体（どうたい）だと平気（へいき）な顔（かお）して生（い）きてるウサ」

「他（ほか）の攻撃（こうげき）手段（しゅだん）は？」

「ファイヤー・ソードとかの魔法（まほう）だけの剣（けん）で斬（き）ることは可能（かのう）ウサ」

　また歩（ある）いていると、今度（こんど）は白（しろ）芋虫（いもむし）が二匹（にひき）現（あらわ）れた。

「一匹（いっぴき）は私（わたし）が相手（あいて）ウサ」

　アリスが左手（ひだりて）に杖（つえ）を持（も）ち替（か）えて右手（みぎて）に炎（ほのお）の魔力（まりょく）剣（けん）を形成（けいせい）する。

　俺（おれ）はもう一匹（いっぴき）の相手（あいて）をするべく、炎（ほのお）を出（だ）すため集中（しゅうちゅう）を始（はじ）める。

　白（しろ）芋虫（いもむし）が俺（おれ）に向（む）かって糸（いと）を飛（と）ばしてきた。俺（おれ）はもろに当（あ）たり糸（いと）が絡（から）んだ。

「うわ。やられた。動（うご）きづらい」

　ソティが俺（おれ）の代（か）わりに芋虫（いもむし）の相手（あいて）をしてくれる。ピーテは剣（けん）を使（つか）い糸（いと）を切（き）ってくれている。

　俺（おれ）としたことがかっこ悪（わる）い所（ところ）を見（み）せてしまった。

　結局（けっきょく）、一匹（いっぴき）目（め）の相手（あいて）を倒（たお）したアリスがもう一匹（いっぴき）も首（くび）をちょん切（ぎ）ってやっつけてくれた。

　おれはまだ絡（から）まったままだ。

「何（なに）やられてるウサ。恥（は）ずかしいウサ」

「ホクトさんはこれでも頑張（がんば）っているんです」

「たまにはしょうがないにゃ」

「でもちょっと情（なさ）けないですね」

「ですよウサ」

　しばらく女子（じょし）三人（さんにん）が俺（おれ）をネタに盛（も）り上（あ）がっていた。

　今度（こんど）は氷（こおり）でできた巨人（きょじん）が現（あらわ）れた。

「アイス・ゴーレムでウサ。この辺（あた）りの中（なか）ボス格（かく）でウサ」

「ボスは初（はじ）めてだな」

　ゴーレムは動（うご）きはゆっくりだが二（に）メートル弱（じゃく）ある。腕（うで）を振（ふ）り下（お）ろされるだけでも脅威（きょうい）だ。

　剣士（けんし）三人（さんにん）で囲（かこ）んで斬（き）りつけるが、腕（うで）だけでなく蹴（け）りも飛（と）んでくる。

　ソティが蹴（け）りを食（く）らい吹（ふ）き飛（と）んだ。

「ソティ！」

　ソティは飛（と）ばされたが生（い）きているようだ。何（なに）かうめいている。

　アリスがそれを横目（よこめ）で見（み）つつ魔力（まりょく）を集中（しゅうちゅう）させ魔法（まほう）を使（つか）う。

「アイス・ロック」

　ゴーレムの両足（りょうあし）を氷（こおり）の塊（かたまり）で縫（ぬ）い止（さ）める。

「でかしたアリス」

「はい。あとはボコってくださいウサ」

　俺（おれ）たちは剣士（けんし）二人（ふたり）で囲（かこ）んで剣（けん）で斬（き）りつける。斬（き）ると氷（こおり）でできた体（からだ）がわずかに削（そ）れる。俺（おれ）は後（うし）ろ側（がわ）を取（と）ると、背中（せなか）を攻撃（こうげき）する。

　あんまり効（き）いていない気（き）がする。

　そのうちアリスがソティにヒールを使（つか）い、ソティが攻撃（こうげき）に加（くわ）わる。しかし二人（ふたり）が三人（さんにん）になってもあまり効（き）いているとは言（い）えない。

　らちが明（あ）かないので火（ひ）魔法（まほう）剣（けん）がこいつにも有効（ゆうこう）かもしれないからダメ元（もと）でやってみることにした。

　結果（けっか）は、そりゃあもう有効（ゆうこう）だった。ゴーレムも火（ひ）の剣（けん）で真（ま）っ二（ぷた）つになり倒（たお）れた。

　魔力（まりょく）結晶（けっしょう）を取（と）る作業（さぎょう）はナイフに火（ひ）魔法（まほう）剣（けん）を使（つか）って俺（おれ）がやった。難航（なんこう）したがなんとか取（と）り出（だ）せた。いままで見（み）た中（なか）で一番（いちばん）大（おお）きくて透明度（とうめいど）の高（たか）い水色（みずいろ）の結晶（けっしょう）だった。結構（けっこう）高（たか）く売（う）れそうだ。

　ところでこの火（ひ）魔法（まほう）剣（けん）、俺（おれ）のイメージ力（りょく）が低（ひく）いためか魔力（まりょく）効率（こうりつ）が悪（わる）いようで、かなり魔力（まりょく）を消費（しょうひ）する。長期（ちょうき）戦（せん）は遠慮（えんりょ）したい。

「魔法（まほう）戦士（せんし）はあまりいないウサ。魔法（まほう）が使（つか）えるなら魔法使（まほうつか）いになったほうがお得（とく）だからウサ」

　その後（あと）もいくらか敵（てき）を倒（たお）してから地上（ちじょう）に帰（かえ）る。

「火（ひ）魔法（まほう）剣（けん）の効率（こうりつ）が悪（わる）いんだが、どうにかならない？」

「そうウサな、もっと魔力（まりょく）と相性（あいしょう）の良（よ）いミスリルなどにすればよいウサ」

「やっぱりお高（たか）いんでしょう？」

「そりゃあ、まあまあ高（たか）いウサ」

　冒険者（ぼうけんしゃ）ギルドで魔力（まりょく）結晶（けっしょう）を換金（かんきん）する。あのアイス・ゴーレムの結晶（けっしょう）は金貨（きんか）五（ご）枚（まい）になった。

「アイス・ゴーレムばかり狩（か）ればあっという間（ま）に大金（たいきん）が手（て）に入（はい）るな」

　うやっほー。大金（たいきん）だぜ。俺（おれ）は心（こころ）の中（なか）でこぶしを上（あ）げる。夢（ゆめ）が広（ひろ）がりんぐ。

「残念（ざんねん）だがアイス・ゴーレムはごくたまにしか発生（はっせい）しないのウサ」

「発生（はっせい）頻度（ひんど）を詳（くわ）しく」

「そうさな、一（ひと）月（つき）に一（いっ）回（かい）程度（ていど）ウサ」

「それじゃあダメだな」

　俺（おれ）たちは帰（かえ）り道（みち）でポコ肉（にく）の串焼（くしや）きを買（か）って食（た）べる。

「お肉（にく）うまいにゃ」

　ソティはそればっかりだな。でも可愛（かわい）いから許（ゆる）しちゃう。

　さらにこの前（まえ）に盾（たて）を買（か）ったお店（みせ）に寄（よ）っていく。俺（おれ）用（よう）の剣（けん）と余裕（よゆう）があれば防具（ぼうぐ）を新調（しんちょう）したい。いつまでもボロを着（つ）けているのも気（き）になる。

　店（みせ）に入（はい）ると前回（ぜんかい）の店員（てんいん）が出迎（でむか）えてくれた。

「いらっしゃいませ、ホクトさま。今（いま）店長（てんちょう）をお呼（よ）びします」

　すぐに店長（てんちょう）が奥（おく）から出（で）てくる。

「今度（こんど）は何（なに）をお求（もと）めでしょうか？」

「魔法（まほう）剣（けん）用（よう）の剣（けん）を頼（たの）みます。金貨（きんか）二枚（にまい）程度（ていど）で」

　店長（てんちょう）が片手（かたて）剣（けん）コーナーに行（い）きすぐに物（もの）を取（と）り出（だ）してくれる。

「このミスリル製（せい）のスタンダード・ソードはいかがでしょう。長（なが）さも長（なが）過（す）ぎず短（みじか）過（す）ぎず。色々（いろいろ）な属性（ぞくせい）の魔法（まほう）剣（けん）とも相性（あいしょう）が良（よ）いです」

　店長（てんちょう）のおすすめはピンポイントを突（つ）いてくる。しかし、俺（おれ）は欲張（よくば）りなので他（ほか）も確認（かくにん）する。

「それではこのミスリル合金（ごうきん）の剣（けん）はいかがでしょう。先（さき）ほどの物（もの）より威力（いりょく）は劣（おと）りますが、お買（か）い得（どく）です。先（さき）ほどのが金貨（きんか）三（さん）枚（まい）。これが金貨（きんか）一枚（いちまい）でございます」

　俺（おれ）は振（ふ）ってみたり、許可（きょか）を得（え）て魔力（まりょく）を通（とお）してみたりする。

　ミスリル製（せい）のほうはすごく楽（らく）に魔力（まりょく）剣（けん）にでき、魔力（まりょく）の消費（しょうひ）も少（すく）なかった。合金製（ごうきんせい）のほうはそこまでではないが今（いま）の鉄（てつ）の剣（けん）よりはましという感（かん）じだ。

　女子（じょし）三人（さんにん）にも聞（き）いてみる。しかしホクトの気（き）に入（い）ったもので良（よ）いと言（い）われた。

「じゃあミスリル製（せい）の剣（けん）をください」

「毎度（まいど）、ありがとうございます」

　あと金貨（きんか）が二枚（にまい）残（のこ）っている。

「後（あと）、金貨（きんか）二枚（にまい）でアリス以外（いがい）の防具（ぼうぐ）を新（あたら）しくしたい。金額（きんがく）はこれ以上（いじょう）出（だ）せない」

「承（うけたまわ）りました。そうですな、ミスリル合金製（ごうきんせい）のライトプレートはいかがですかな。サイズも取（と）り揃（そろ）えております」

　試着（しちゃく）してみると、なかなかよさそうだ。前（まえ）の物（もの）より全体的（ぜんたいてき）に動（うご）きやすい。これも購入（こうにゅう）することにした。

　ついでにピーテとソティの剣（けん）も新（あたら）しい鉄（てつ）合金製（ごうきんせい）に新調（しんちょう）した。金貨（きんか）五（ご）枚（まい）と銀貨（ぎんか）を二十（にじゅう）枚（まい）払（はら）ってお店（みせ）を出（で）る。

「せっかくの臨時（りんじ）収入（しゅうにゅう）が全部（ぜんぶ）なくなってしまいましたね」

「まあしょうがないさ。武器（ぶき）と防具（ぼうぐ）は仕事（しごと）道具（どうぐ）だからね」

　ピーテが残念（ざんねん）がる。ここ数日（すうじつ）間（かん）に普通（ふつう）に稼（かせ）いだ分（ぶん）はほとんど残（のこ）してあるから大丈夫（だいじょうぶ）だ。