[総ルビ]転移者ホクトの異世界ハーレム旅行記

２６. イノシシレース

●２６. イノシシレース

　数日（すうじつ）かけて王都（おうと）アルバーンまで戻（もど）ってきた。適当（てきとう）な宿屋（やどや）に部屋（へや）を借（か）りて一泊（いっぱく）していく。

　翌朝（よくあさ）には北東（ほくとう）側（がわ）へそのまま進（すす）む。

　相変（あいか）わらず穀倉（こくそう）地帯（ちたい）と林（はやし）が交互（こうご）に来（く）るような土地（とち）だ。しばらくは特筆（とくひつ）すべきこともなく、のんびりするだけだった。

　途中（とちゅう）の村々（むらむら）には、街道（かいどう）沿（ぞ）いなので宿（やど）があり、寝（ね）どこにも困（こま）らなかった。

　低（ひく）い山（やま）を越（こ）えた先（さき）の小（ちい）さめの川（かわ）があるところに、検問所（けんもんじょ）があった。

　ここが国境（こっきょう）だ。ここから先（さき）はアンダルシア帝国（ていこく）である。

　検問所（けんもんじょ）は石造（いしづく）りのしっかりした建造物（けんぞうぶつ）だった。検問所（けんもんじょ）の前後（ぜんご）は町（まち）になっている。

　検問（けんもん）の兵士（へいし）にギルドカードを見（み）せ、皆（みな）が奴隷（どれい）であることを告（つ）げる。

　担当者（たんとうしゃ）は、奴隷（どれい）の獣人（じゅうじん）とエルフが珍（めずら）しいのか、四人（よにん）を順番（じゅんばん）に眺（なが）めまわすと、「ふむ」とうなずいて「行（い）ってよし」と言（い）った。

「簡単（かんたん）に通（とお）れたウサ。何（なに）も突（つ）っ込（こ）まれなかったウサ」

「アリス、なにかやましい気持（きも）ちでもあるのか？」

「何（なん）でもないでウサ」

　釈然（しゃくぜん）としないが、まあいいや。再（ふたた）び馬車（ばしゃ）に乗（の）り込（こ）み先（さき）を急（いそ）ぐ。

　アンダルシア帝国（ていこく）の国旗（こっき）は赤地（あかじ）に黄色（きいろ）い満月（まんげつ）だった。月（つき）は真（ま）ん中（なか）ではなく、右上（みぎうえ）に少（すこ）しずれている。左側（ひだりがわ）には、黄色（きいろ）い星（ほし）が二（ふた）つ斜（なな）めに並（なら）んでいた。

　そのまま国境（こっきょう）の町（まち）を通過（つうか）して、次（つぎ）の町（まち）まで来（き）た。

　今日（きょう）はこの町（まち）に泊（と）まることにしよう。馬車（ばしゃ）を置（お）いて、少（すこ）し早（はや）いが夕（ゆう）ご飯（はん）を食（た）べる場所（ばしょ）を探（さが）していた。

　俺（おれ）たちが歩（ある）いていると、突然（とつぜん）女（おんな）の子（こ）の声（こえ）が響（ひび）いた。

「どいて、どいて、どいて！」

　左方向（ひだりほうこう）を見（み）ると猛（もう）スピードでイノシシが迫（せま）ってくる。俺（おれ）はどちら側（がわ）に避（よ）けるか迷（まよ）ってしまう。右（みぎ）か、左（ひだり）か、やっぱり右（みぎ）か。

　イノシシには、手綱（たづな）が付（つ）けられていて、乗（の）れるようになっているみたいだ。

　俺（おれ）は右（みぎ）に避（よ）けたが、イノシシも何故（なぜ）かこっちに進路（しんろ）を変（か）えた。

　ぎりぎりでイノシシを避（よ）け、手綱（たづな）を掴（つか）み、飛（と）び乗（の）った。

　必死（ひっし）にイノシシを制御（せいぎょ）しようと、手綱（たづな）をひっぱった。道（みち）の障害物（しょうがいぶつ）や人（ひと）をなんとか避（よ）けて、落（お）ち着（つ）かせるように、肩（かた）のあたりをポンポン叩（たた）いてやる。

　いくらか時間（じかん）が掛（か）かったが、イノシシは息（いき）を切（き）らせて、走（はし）るのをやめた。

　みんながいる場所（ばしょ）まで戻（もど）ってくると、そこには、赤（あか）い髪（かみ）の女（おんな）の子（こ）が、申（もう）し訳（わけ）なさそうに立（た）っていた。

　彼女（かのじょ）から話（はなし）を伺（うかが）う。

　名前（なまえ）はウェコエ。彼女（かのじょ）はイノシシに乗（の）ってレースの練習（れんしゅう）をしていたところ、柵（さく）を跳（と）び越（こ）えて暴走（ぼうそう）してしまい、落（お）とされて、イノシシを追（お）いかけていたらしい。

　レースは町（まち）の行事（ぎょうじ）で、本番（ほんばん）は三日（みっか）後（ご）だそうだ。

　俺（おれ）が話（はなし）を聞（き）いている間（あいだ）に、フルベールとソティはイノシシを餌付（えづ）けしていた。

「ほーれ、イノシシちゃん。たくさん食（た）べて、美味（おい）しいお肉（にく）になるのです」

「お肉（にく）！　お肉（にく）になるのにゃ」

　二人（ふたり）とも食（た）べる気（き）満々（まんまん）だな。

　彼女（かのじょ）は、さっきの俺（おれ）の騎乗（きじょう）を見（み）て、提案（ていあん）してきた。

「それで、いきなりなんですが、私（わたし）の代（か）わりに、ワイルドボアレースに出（で）てみませんか？　あなたは私（わたし）より、ずっと才能（さいのう）があると思（おも）うんです」

「ほうほう？」

「参加（さんか）するだけで、景品（けいひん）が貰（もら）えますよ。優勝（ゆうしょう）すると豪華（ごうか）賞品（しょうひん）が貰（もら）えます」

「なるほど。ちなみに、優勝（ゆうしょう）賞品（しょうひん）はなんなの？」

「なんと、大（だい）陸（りく）ガニの身（み）、なんとまるごと一匹（いっぴき）分（ぶん）です」

　餌付（えづ）けをしていたソティが「カニ」と聞（き）いて、すごい速度（そくど）で反応（はんのう）してこっちに飛（と）んできた。

「カニ食（た）べたいにゃ。ご主人（しゅじん）様（さま）」

「そういうと思（おも）ったよ」

　三日（みっか）足止（あしど）めを食（く）らうけれど、まぁ、それぐらいなら許容（きょよう）範囲（はんい）か。

「分（わ）かった。レース出（で）るよ」

「やったにゃ」

　この日（ひ）は、彼女（かのじょ）のおすすめの店（みせ）に行（い）き、夕（ゆう）ご飯（はん）を食（た）べてお開（ひら）きになった。

　今日（きょう）の夕（ゆう）ご飯（はん）は、薄（うす）いトルティーヤ風（ふう）のパンもどきに、鶏肉（とりにく）と野菜（やさい）の炒（いた）め物（もの）だった。

　明日（あした）の朝（あさ）から、レースの練習（れんしゅう）をしてもらうことになっている。

　さっさと宿（やど）に戻（もど）って、皆（みな）ですぐに寝（ね）た。

　翌朝（よくあさ）、宿屋（やどや）のこちらもトルティーヤ風（ふう）のパンの朝（あさ）ご飯（はん）を食（た）べ終（お）わって、外（そと）に出（で）る。

　宿屋（やどや）の前（まえ）には、昨日（きのう）のウェコエがイノシシを連（つ）れて待（ま）っていた。イノシシに乗（の）るためか今日（きょう）も男装（だんそう）風（ふう）のパンツルックだ。

「おはようございます。ホクトさん。さっそく練習（れんしゅう）しましょう」

「ああ、おはよう。よろしくお願（ねが）いします」

　挨拶（あいさつ）を交（か）わすと、すぐに歩（ある）き出（だ）した。

　目的（もくてき）地（ち）はすぐそこの空（あ）き地（ち）兼（けん）、レース練習（れんしゅう）場（じょう）だ。

　イノシシの名前（なまえ）は「与太郎（よたろう）」だった。スタート地点（ちてん）まで引（ひ）っ張（ぱ）っていき、上（うえ）に乗（の）る。

　今日（きょう）は機嫌（きげん）がいいのか、ブウブウと一度（いちど）鳴（な）いて、まっすぐ前（まえ）を見（み）ている。

　俺（おれ）が尻（しり）を一度（いちど）叩（たた）くと、与太郎（よたろう）は走（はし）り出（だ）した。真（ま）っすぐ突（つ）き進（すす）んでいく。

　途中（とちゅう）、木（き）を横（よこ）に倒（たお）した障害物（しょうがいぶつ）があるが、軽々（かるがる）と飛（と）び越（こ）えて再（ふたた）び走（はし）り出（だ）す。

　左側（ひだりがわ）に障害物（しょうがいぶつ）、その先（さき）は右側（みぎがわ）に障害物（しょうがいぶつ）がある。

　俺（おれ）は手綱（たづな）を右（みぎ）、左（ひだり）と引（ひ）っ張（ぱ）って、障害物（しょうがいぶつ）を避（よ）けるコースに誘導（ゆうどう）する。

　与太郎（よたろう）は頭（あたま）がいいようで、素直（すなお）に従（したが）って、障害物（しょうがいぶつ）を避（よ）けて走（はし）っていった。

　障害物（しょうがいぶつ）を抜（ぬ）けると、すぐゴールだ。

　ウェコエが感心（かんしん）して言（い）った。

「与太郎（よたろう）と息（いき）ピッタリですね。すごいですね」

　皆（みな）も、横（よこ）で見（み）ていて、ワイワイ言（い）って褒（ほ）めてくれた。

　ゴールした与太郎（よたろう）におやつを与（あた）える。

　主（おも）に与太郎（よたろう）の休憩（きゅうけい）を挟（はさ）みつつ、ウェコエにスタートの素早（すばや）い仕方（しかた）や障害物（しょうがいぶつ）避（よ）けなどについてレクチャーを受（う）けた。

　与太郎（よたろう）の疲労（ひろう）が溜（た）まってしまうので、それほど長（なが）くは練習（れんしゅう）できなかった。

　町（まち）を見（み）て回（まわ）っても、あまり見（み）るものがないので暇（ひま）だった。

　残（のこ）り時間（じかん）は、他（ほか）の動物（どうぶつ）の世話（せわ）の手伝（てつだ）いや畑（はたけ）の手伝（てつだ）いをして過（す）ごした。

　翌日（よくじつ）。イノシシが二匹（にひき）になっていた。今日（きょう）からは競争（きょうそう）をするらしい。

　レースは、ストップウォッチとかがないので、三匹（さんびき）が同時（どうじ）スタートで最初（さいしょ）にゴールしたイノシシが勝（か）ち抜（ぬ）きで二回（にかい）戦（せん）に進（すす）む形式（けいしき）らしい。

　なお途中（とちゅう）でイノシシから振（ふ）り落（お）とされると失格（しっかく）になるようだ。

　ソティがスタート係（がかり）をしてくれる。

　ウェコエは俺（おれ）の右（みぎ）隣（どなり）で、イノシシ「勘太郎（かんたろう）」に乗（の）っている。

　俺（おれ）たちは、ほぼ同時（どうじ）にスタートを切（き）った。

　最初（さいしょ）の障害物（しょうがいぶつ）は、丸太（まるた）越（ご）えだ。

　ウェコエのほうが軽（かる）いからか、簡単（かんたん）にジャンプをしていく。

　俺（おれ）の方（ほう）は若干（じゃっかん）遅（おく）れてジャンプをして越（こ）えていく。

　もう一回（いっかい）丸太（まるた）越（ご）えがある。今度（こんど）は与太郎（よたろう）も頑張（がんば）って、差（さ）は同（おな）じままで進（すす）めた。

　次（つぎ）は障害物（しょうがいぶつ）避（よ）けだ。左右（さゆう）に避（よ）ける。俺（おれ）はぎりぎりの所（ところ）を狙（ねら）って素早（すばや）く抜（ぬ）ける。

　ウェコエは左右（さゆう）コントロールが苦手（にがて）なのか、若干（じゃっかん）よろけている。

　障害物（しょうがいぶつ）を抜（ぬ）けた段階（だんかい）で、俺（おれ）が追（お）い付（つ）き、両者（りょうしゃ）が並走（へいそう）する。

　あとは直線（ちょくせん）を走（はし）り切（き）れば終（お）わりだ。どちらも全力（ぜんりょく）で走（はし）り抜（ぬ）ける。

　俺（おれ）は姿勢（しせい）を低（ひく）くして、上下（じょうげ）の揺（ゆ）れを抑（おさ）えるように踏（ふ）ん張（ば）って、与太郎（よたろう）に発破（はっぱ）を掛（か）ける。

　頭（あたま）一個（いっこ）分（ぶん）の差（さ）で、俺（おれ）が勝（か）った。

　こんな感（かん）じで練習（れんしゅう）をして、あっという間（ま）にレース本番（ほんばん）になった。

　レースは昼（ひる）過（す）ぎから始（はじ）まる。

　今日（きょう）は晴（は）れで、丸（まる）い形（かたち）の雲（くも）が時折（ときおり）流（なが）れていく。暖（あたた）かく、過（す）ごしやすい日（ひ）だ。

　参加者（さんかしゃ）は二七（にじゅうなな）名（めい）、三回（さんかい）戦（せん）を勝（か）ち抜（ぬ）けば優勝（ゆうしょう）だ。

　町（まち）の中央通（ちゅうおうどお）りの真（ま）ん中（なか）にレースコースが作（つく）られ、周（まわ）りに人（ひと）だかりができている。

　周（まわ）りでは、サンドイッチや肉（にく）串（ぐし）、美味（おい）しいスープなどが売（う）られている。

　人出（ひとで）はそこそこだが、宗教的（しゅうきょうてき）な感（かん）じはしなくて、祭（まつ）りというか、催（もよお）し物（もの）と言（い）う感（かん）じだ。

　俺（おれ）と対戦（たいせん）するのは、小（ちい）さな女（おんな）の子（こ）と、スキンヘッドの二〇（にじゅっ）歳（さい）前（まえ）位（くらい）の青年（せいねん）だった。

　オッズ、そう、賭（か）け事（ごと）をしている連中（れんちゅう）がいる。

　一番（いちばん）人気（にんき）は女（おんな）の子（こ）で次（つぎ）がスキンヘッドの青年（せいねん）、そして不人気（ふにんき）絶好調（ぜっこうちょう）なのが俺（おれ）である。

　若干（じゃっかん）釈然（しゃくぜん）としないものも感（かん）じるが、確（たし）かに三日（みっか）前（まえ）に始（はじ）めた新参者（しんざんもの）だからこんなもんか。

「旅（たび）の兄（にい）ちゃん、頑張（がんば）って」

「ホクトさん、頑張（がんば）ってください。カニのために！」

　周（まわ）りの人（ひと）やソティはじめ、みんなが応援（おうえん）してくれた。

「よーい、どん！」

　三人（さんにん）とも一斉（いっせい）にスタートした。

　小（ちい）さな女（おんな）の子（こ）を載（の）せたイノシシは猛（たけし）ダッシュで、どんどん引（ひ）き離（はな）していく。

　さすがに、一番（いちばん）人気（にんき）、手（て）ごわいぞ。

　俺（おれ）と、スキンヘッド君（くん）は同（おな）じぐらいの速度（そくど）でそれを追（お）った。

　そうしているうちにすぐに、女（おんな）の子（こ）が一（ひと）つめの障害物（しょうがいぶつ）に達（たっ）した。

　なんかすごいジャンプを披露（ひろう）している、すでにぎりぎりでしがみついているだけだ。

　俺（おれ）たちも一（ひと）つめの障害物（しょうがいぶつ）を乗（の）り越（こ）える。

　すぐに、女（おんな）の子（こ）のが二（ふた）つめの障害物（しょうがいぶつ）を乗（の）り越（こ）えようと、イノシシがジャンプしたが、ジャンプがすごい。

　俺（おれ）たちの倍（ばい）ぐらいジャンプしたよ。

　あー。やっぱり、女（おんな）の子（こ）はジャンプに耐（た）えきれず、振（ふ）り落（お）とされてしまった。

　俺（おれ）はなるべく最小（さいしょう）のジャンプで二（ふた）つめの障害物（しょうがいぶつ）を超（こ）えて、左右（さゆう）に避（よ）ける障害物（しょうがいぶつ）もなるべく大回（おおまわ）りにならないように避（よ）けてゴールをした。

　スキンヘッド君（くん）より若干（じゃっかん）余裕（よゆう）で勝（か）つことができた。

「ちぇー。大損（おおぞん）だぜ」

「まさかテアリーちゃんがジャンプで失敗（しっぱい）するなんてっ」

「兄（にい）ちゃんよくやった。大儲（おおもう）けだ！」

　など様々（さまざま）な声（こえ）が聞（き）こえてきた。