[総ルビ]転移者ホクトの異世界ハーレム旅行記

３０. 魔王国

●３０. 魔（ま）王国（おうこく）

　砂漠（さばく）を進（すす）んでいく。

　俺（おれ）には転移（てんい）があるので、砂漠（さばく）を歩（ある）いて転移（てんい）で戻（もど）って休（やす）んだりお風呂（ふろ）で水（みず）を浴（あ）びて寝（ね）て、また転移（てんい）で戻（もど）ってきて続（つづ）きを歩（ある）けばいいと思（おも）うかもしれない。

　しかしこの転移（てんい）には欠点（けってん）と言（い）うか、ジャンプ先（さき）をイメージできる必要（ひつよう）があるんだ。

　そして何（なに）も目標物（もくひょうぶつ）がない砂漠（さばく）では、どこの地点（ちてん）か見分（みわ）けがつかないから、つまりイメージできないわけで、戻（もど）ってくることができないことが判明（はんめい）している。

　転移（てんい）でホイホイ戻（もど）るとまた歩（ある）き直（なお）しになるので、最終（さいしゅう）脱出（だっしゅつ）手段（しゅだん）ということになった。

　またサンドワームや巨大（きょだい）サソリと戦闘（せんとう）をたまにやりつつ、進（すす）む。

　次（つぎ）の休憩（きゅうけい）ポイントは、砂漠（さばく）に突如（とつじょ）ある井戸（いど）だった。

　井戸（いど）しかない。

　周（まわ）りはなんもなし。人（ひと）もいない。

　水（みず）は補給（ほきゅう）できるけど、まだ十分（じゅうぶん）あった。

　うれしいのは井戸（いど）でイメージ可能（かのう）なので、転移（てんい）ポイントにできる。

「やったわ。じゃあ今日（きょう）は町（まち）まで戻（もど）ってシャワーを浴（あ）びましょう」

「そうなのです」

　ピーテが提案（ていあん）してフルベールが乗（の）ってくる。

「んじゃ、えっとどうしようか、砂漠（さばく）手前（てまえ）の町（まち）まで戻（もど）ってみるか」

「わーい」

　単純（たんじゅん）に喜（よろこ）んでるのはソティだ。

　それなりに距離（きょり）があり魔力（まりょく）をけっこう消費（しょうひ）することになったが、戻（もど）ってきた。

　途中（とちゅう）のオアシスに戻（もど）ることもできるけど、それだと転移（てんい）が目立（めだ）ち過（す）ぎるし、別（わか）れの挨拶（あいさつ）もしたのに戻（もど）ってきたら変（へん）だろう。

　暖（あたた）かい宿（やど）の食事（しょくじ）と、あまりいいものではないけどベッド。

　みんなで別（わか）れて布団（ふとん）をかぶって寝（ね）た。

　そんな感（かん）じで、砂漠（さばく）を横断（おうだん）していく。

　途中（とちゅう）、ちゃんとした町（まち）になっているオアシスもあった。

　土（つち）を水（みず）で固（かた）めたような日干（ひぼ）しレンガの町（まち）だった。白亜（はくあ）の町（まち）は美（うつく）しい観光地（かんこうち）みたいだった。

　そこそこ人（ひと）もいるので、戻（もど）ってきても怪（あや）しまれないと思（おも）う。

　それ以降（いこう）は、戻（もど）れるときはそのオアシスの宿（やど）に泊（と）まることにしている。

　同（おな）じ宿（やど）でずっといるのも変（へん）なので、いくつかの宿（やど）をたまに変更（へんこう）して使（つか）った。

　やはり狭（せま）いテントよりは、屋根（やね）がある部屋（へや）だとずっといい。

　転移（てんい）での宿（やど）暮（く）らしもあり、順調（じゅんちょう）に砂漠（さばく）を進（すす）み、そして……。

　ついに、ついにですよ。この時（とき）が。

「ホクトさん、見（み）てください。緑（みどり）が。緑（みどり）が見（み）えます」

　ピーテちゃんはじめ、みんな大（おお）はしゃぎ。

　一度（いちど）、歩（ある）くのをやめて、砂（すな）山（やま）の頂上（ちょうじょう）から先（さき）のほうを見（み）る。

「魔（ま）国（くに）というから、どんなすごいところかと思（おも）ってたけど、普通（ふつう）に緑（みどり）なんだな」

「そうですね」

「カニいるかにゃ」

「ポコジャーキーを補給（ほきゅう）しないとウサ」

「緑（みどり）はすばらしいのです」

　みんな、それぞれ感想（かんそう）を口（くち）にする。

　目標物（もくひょうぶつ）があると、がぜんやる気（き）がでる。

　その日（ひ）のうちに、歩（ある）いて、砂漠（さばく）を抜（ぬ）けた。

「そういやさ、魔（ま）王国（おうこく）にも村（むら）とか町（まち）とか人（ひと）とかいたり、あったりするのかな」

「さあ」

「あるらしいのです。住民（じゅうみん）は魔族（まぞく）で角（つの）がついていますが、人間（にんげん）の商人（しょうにん）も行（い）っているので、商（しょう）隊（たい）ということにするのです」

「なるほど」

　さすがフルベール博識（はくしき）だ。

　俺（おれ）たちは、砂漠（さばく）を渡（わた）ってきた、人間（にんげん）の商人（しょうにん）ということにしよう。

　武装（ぶそう）しているのだって、砂漠（さばく）にはモンスターがでるから当（あ）たり前（まえ）だ。

　低（ひく）い木（き）と草（くさ）原（ばら）を歩（ある）いて行（い）ったら、やはり村（むら）があった。

　警戒（けいかい）しつつ、村（むら）に入（はい）る。

　人（ひと）がいる。いやフルベールのいう通（とお）り角（つの）がある。魔族（まぞく）さんたちだ。

　肌（はだ）は少（すこ）し青（あお）っぽい感（かん）じらしい。

「こ、こんにちは」

　俺（おれ）はおそるおそる問（と）いかける。

　相手（あいて）は三十（さんじゅっ）歳（さい）ぐらいのお兄（にい）さん。

「やぁやぁ、人間（にんげん）さん、交易（こうえき）かい？」

「ええ、まぁ」

「この村（むら）にはなんもないけど、一泊（いっぱく）くらいしていきなされ」

「はい、そうさせてもらいます。ありがとうございます」

「丁寧（ていねい）にどうも。ようこそ、クーデイル村（むら）へ」

「あ、はい。お世話（せわ）になります」

　みんなで頭（あたま）を下（さ）げる。

　ここでは奴隷（どれい）とかいう身分（みぶん）もないのか、特（とく）にみんなが変（へん）な目（め）で見（み）られることもなかった。

　宿（やど）に案内（あんない）してもらえた。

　他民族（たみんぞく）なので、風習（ふうしゅう）とかが全（まった）く違（ちが）うのかと思（おも）ってたけど、そんなことはなく、普通（ふつう）にベッドもお風呂（ふろ）もあった。

　へんぴなところだからお風呂（ふろ）とかもないかと想像（そうぞう）してたのに、予想（よそう）は裏切（うらぎ）られた。

　魔都（まと）、魔（ま）王国（おうこく）の王都（おうと）についての情報（じょうほう）を聞（き）いた。

　普通（ふつう）にここから進（すす）んで、森（もり）の向（む）こう側（がわ）それほど遠（とお）くない場所（ばしょ）にあるらしい。

　魔王（まおう）の実在（じつざい）も確認（かくにん）できた。

　ただし、ここでも魔（ま）王様（おうさま）がどういう人（ひと）、いや魔族（まぞく）なのかは分（わ）からなかった。

　村（むら）を見（み）た感（かん）じでは、評判（ひょうばん）は悪（わる）くはなさそうだ。

　そんな魔王（まおう）を討伐（とうばつ）することが、俺（おれ）たちの目的（もくてき）だとは、とても言（い）えない。

　ファンタジーの勇者（ゆうしゃ）とかどうやって魔王（まおう）のところまで行（い）ったんだろう。

　普通（ふつう）に魔（ま）国（こく）があるなら、その中（なか）を通（とお）っていく必要（ひつよう）があるけど、勇者（ゆうしゃ）パーティーだけでいくのはかなりのムリゲーではないのだろうか。

　俺（おれ）たちは商人（しょうにん）ということになっているけど、有名（ゆうめい）な勇者（ゆうしゃ）たちですでにマークされているならこの方法（ほうほう）は無理（むり）だった。

　軍隊（ぐんたい）で蹂躙（じゅうりん）とかするのだろうか。砂漠（さばく）を渡（わた）って？　やはり無理（むり）ではないだろうか。

　魔（ま）王国（おうこく）からの進行（しんこう）が遅（おそ）いのも、砂漠（さばく）があるからだし。

　それでも昔（むかし）は魔物（まもの）の群（む）れがその砂漠（さばく）を横断（おうだん）して人類（じんるい）に攻（せ）めてきたらしいんだけども。

　魔族（まぞく）だからって人間（にんげん）とそれほど変（か）わらないらしい。

　今（いま）のところ特（とく）に人間（にんげん）を差別（さべつ）しているようにも感（かん）じられない。

　俺（おれ）たちにとっては好都合（こうつごう）だけど、あまり進（すす）んで魔王（まおう）憎（にく）し討伐（とうばつ）じゃという気分（きぶん）にはならなかった。

　しかし魔族（まぞく）ならびに魔王（まおう）は過去（かこ）、俺（おれ）たち人（ひと）族（ぞく）と獣人（じゅうじん）の国（くに）を攻（せ）めて、滅（ほろ）ぼそうとした前科（ぜんか）があるそうなので、油断（ゆだん）はできない。

　宿（やど）には普通（ふつう）に泊（と）まり、翌朝（よくあさ）、村（むら）を出（で）た。

　村（むら）から街道（かいどう）を歩（ある）き森（もり）を抜（ぬ）けると、今度（こんど）は町（まち）が待（ま）っていた。

　ここは王都（おうと）ではないっぽい。

「えっと、名前（なまえ）はクーデル町（まち）か」

　町（まち）の門（もん）のところに大（おお）きく、クーデル町（まち）へようそこと書（か）かれていた。

　クーデル町（まち）でも普通（ふつう）に魔族（まぞく）っぽい人（ひと）たちが生活（せいかつ）していた。

　魔族（まぞく）と魔物（まもの）は別（べつ）のもので、こちらでも魔物（まもの）を狩（か）ったり食（た）べたりする。

　俺（おれ）たちはそのまま、商人（しょうにん）を装（よそお）って町（まち）を観光（かんこう）した。