●８. 三人（さんにん）パーティー

　日没（にちぼつ）までもう少（すこ）し時間（じかん）があったのでソテレーティア、通称（つうしょう）ソティの家（いえ）に一度（いちど）挨拶（あいさつ）に行（い）くことになった。

　家（いえ）は町（まち）のはずれの方（ほう）にあった。両親（りょうしん）は農業（のうぎょう）と川（かわ）で漁業（ぎょぎょう）をして生活（せいかつ）している。双子（ふたご）の弟（おとうと）がいて、引退（いんたい）した父親（ちちおや）のご両親（りょうしん）とも同居（どうきょ）している。

　ソティはゴールデンレトリーバーみたいな色（いろ）で肩（かた）までの髪（かみ）の毛（け）に犬耳（いぬみみ）、色白（いろじろ）で、目（め）が緑色（みどりいろ）をしている。身長（しんちょう）はピーテとほぼ同（おな）じ、おっぱいが割（わり）と大（おお）きい。しかし手足（てあし）は細（ほそ）くてちょっと頼（たよ）りない感（かん）じだ。

　両手（りょうて）剣（けん）使（つか）いでロングソードを装備（そうび）している。まだ戦闘（せんとう）は見（み）ていないが、よく剣（けん）に振（ふ）り回（まわ）されずに戦（たたか）えるものだ。槍（やり）も少（すこ）し教（おそ）わったそうだ。

　一家（いっか）はあまり裕福（ゆうふく）ではなく、ソティはお嫁（よめ）さんに出（だ）すか冒険者（ぼうけんしゃ）として稼（かせ）いでもらう位（くらい）しか選択肢（せんたくし）がなく、特（とく）に反対（はんたい）などはされなかった。無口（むくち）な父親（ちちおや）はただ一言（ひとこと）こう言（い）っただけだった。

「大切（たいせつ）にしてやってください」

　いつ死（し）ぬか分（わ）からない冒険者（ぼうけんしゃ）家業（かぎょう）である。父親（ちちおや）も元（もと）冒険者（ぼうけんしゃ）としてよく分（わ）かっているのだろう。俺（おれ）ではまだ守（まも）ってやるだけの力（ちから）がないかもしれないが、精（せい）いっぱい努力（どりょく）はしようと思（おも）った。

　俺（おれ）とピーテは引（ひ）き続（つづ）きプレレ商人（しょうにん）の家（うち）にお世話（せわ）になっている。プレレ家（け）でご飯（はん）も頂（いただ）いているが代（か）わりに毎日（まいにち）料金（りょうきん）を払（はら）うことで落（お）ち着（つ）いた。プレレは明日（あした）には町（まち）を出発（しゅっぱつ）するそうだ。

　ソティとは毎日（まいにち）冒険者（ぼうけんしゃ）ギルドで待（ま）ち合（あ）わせることにした。

　本来（ほんらい）安全（あんぜん）重視（じゅうし）なら、六（ろく）人（にん）ぐらいがパーティーとして一番（いちばん）いいと思（おも）うのだが、ソティの話（はなし）から増員（ぞういん）は難（むずか）しそうだ。とりあえず三（さん）人（にん）で頑張（がんば）るしかない。

　翌日（よくじつ）、さっそく三（さん）人（にん）で草原（そうげん）に繰（く）り出（だ）す。まずは連携（れんけい）の訓練（くんれん）だ。

　アイアンマイマイが一匹（いっぴき）でいたので、さっそく練習（れんしゅう）相手（あいて）になってもらう。囲（かこ）ってボコる。ただそれだけ。

　ソティのロングソードはリーチが長（なが）いだけあって、攻防（こうぼう）ともに安心感（あんしんかん）がある。俺（おれ）よりは剣（けん）に慣（な）れている感（かん）じの動（うご）きだった。

　今日（きょう）は大（おお）カマキリの二匹（にひき）とも戦闘（せんとう）になる。

　俺（おれ）とソティが前衛（ぜんえい）でピーテが遊撃（ゆうげき）というフォーメーションだ。ソティは前（まえ）に行（い）きたがる性格（せいかく）らしい。

　ソティは剣（けん）の長（なが）さでもって敵（てき）を寄（よ）せ付（つ）けない。

　俺（おれ）はカマキリの鎌（かま）と剣（けん）をぶつけ合（あ）い、攻撃（こうげき）をしのぐ。しかし相手（あいて）は二刀流（にとうりゅう）だ。今度（こんど）は逆（ぎゃく）の盾（たて）で右手（みぎて）の鎌（かま）の攻撃（こうげき）を受（う）ける。

　しかし俺（おれ）もそうだがカマキリも横（よこ）ががら空（あ）きだ。ピーテがカマキリの胸（むね）と首（くび）の間（あいだ）を一撃（いちげき）で切（き）り離（はな）した。

　二人（ふたり）より圧倒的（あっとうてき）に良（よ）さそうな感（かん）じだ。一人（ひとり）がフリーなので、横（よこ）から攻撃（こうげき）ができる。ピーテは素早（すばや）いので、俺（おれ）たちの陰（かげ）から敵（てき）の懐（ふところ）に飛（と）び込（こ）み攻撃（こうげき）するのがうまい。

　三人（さんにん）ともぼろい中古（ちゅうこ）の皮（かわ）の防具（ぼうぐ）である。なに、当（あ）たらなければ、どうということはないのである。嘘（うそ）です。俺（おれ）はたまに敵（てき）が突（つ）っ込（こ）んでくるので、もう少（すこ）し防御力（ぼうぎょりょく）の高（たか）い防具（ぼうぐ）がほしい。あと盾（たて）もバックラー系（けい）の小（ちい）さめの鉄（てつ）の盾（たて）がほしい。

　俺（おれ）にも俺（おれ）Tueeee系（けい）の主人公（しゅじんこう）みたいに魔法（まほう）が使（つか）えるようになったら、戦闘（せんとう）スタイルも変（か）わるかもしれないけど、今（いま）は剣（けん）と盾（たて）しかないので。

　その辺（へん）のことをコミュ力（りょく）の低（ひく）い俺（おれ）がオブラートに包（つつ）んで交渉（こうしょう）したところ、盾（たて）は王都（おうと）で、防具（ぼうぐ）は余裕（よゆう）があったらこの町（まち）で買（か）うことになった。防具（ぼうぐ）は三人（さんにん）分（ぶん）である。

　良（よ）い防具（ぼうぐ）はこの町（まち）では売（う）っていない。王都（おうと）まで行（い）かなければない。だから王都（おうと）で買（か）った方（ほう）が効率的（こうりつてき）だが、王都（おうと）へ行（い）く道中（どうちゅう）にも不安（ふあん）がある。そして、失敗（しっぱい）すれば死（し）あるのみ。安全（あんぜん）第一（だいいち）なので、この町（まち）で買（か）うのだ。

　ついでに分（わ）かったことがある。草原（そうげん）にあったでっかい石（いし）をピーテに収納（しゅうのう）してもらおうとしたのだが、できなかった。どうやら何（なに）か制限（せいげん）があるようだ。無限（むげん）収納（しゅうのう）かと思（おも）っていたが違（ちが）うようだ。

　夕方（ゆうがた）になる前（まえ）に余裕（よゆう）を見（み）て冒険者（ぼうけんしゃ）ギルドに戻（もど）る。この日（ひ）の分（ぶん）を換金（かんきん）して、肉屋（にくや）に行（い）ってまた戻（もど）ってくる。この町（まち）はそれほど大（おお）きくないので、武器（ぶき）・防具（ぼうぐ）屋（や）が独立（どくりつ）していなくて、冒険者（ぼうけんしゃ）ギルドが代（か）わりに販売（はんばい）・買（か）い取（と）りしている。

　カマキリ二匹（にひき）の魔力（まりょく）結晶（けっしょう）が七（なな）級（きゅう）で銀貨（ぎんか）十六（じゅうろく）枚（まい）になって思（おも）ったより金（かね）になった。

　防具（ぼうぐ）ついでに武器（ぶき）のラインナップを見（み）せてもらったが、やはり種類（しゅるい）は多（おお）くなかった。

　中古（ちゅうこ）の半分（はんぶん）革（かわ）で胸当（むなあ）てなど急所（きゅうしょ）が鉄（てつ）でできているライトプレートが三人（さんにん）分（ぶん）なんとかサイズが合（あ）うのがあったので、それを銀貨（ぎんか）二十（にじゅう）枚（まい）で購入（こうにゅう）できた。銀貨（ぎんか）一枚（いちまい）おまけしてもらった。カマキリ以外（いがい）の収入（しゅうにゅう）も合（あ）わせれば、ぎりぎり黒字（くろじ）になった。

　俺（おれ）も目立（めだ）つし、ソティはよく来（き）ていたので覚（おぼ）えられていた。

　なお、ピーテとソティは身長（しんちょう）が同（おな）じだが胸（むね）が違（ちが）うので、同（おな）じ防具（ぼうぐ）を使（つか）いまわせないようだ。

　ホクト　　鉄（てつ）のショートソード　木（き）の盾（たて）　ライトプレート　異世界（いせかい）のシューズ

　ピーテ　　謎（なぞ）の短剣（たんけん）　　　　　　　　　　ライトプレート　革（かわ）の靴（くつ）

　ソティ　　鉄（てつ）のロングソード　　　　　　ライトプレート　革（かわ）の靴（くつ）

　頭（あたま）装備（そうび）は今（いま）のところない。頭（あたま）も急所（きゅうしょ）なので何（なに）かつけたほうがいいのだろう。ケモ耳（みみ）はどう収容（しゅうよう）したらいいのだろうか。耳（みみ）だけ出（で）てたら切（き）れてしまいそうだ。かといって鉄（てつ）で覆（おお）ったら聴力（ちょうりょく）・索敵（さくてき）能力（のうりょく）が下（さ）がりそうだ。

　次（つぎ）の三日（みっか）間（かん）は、草原（そうげん）で三人（さんにん）で訓練（くんれん）を兼（か）ねた魔物（まもの）狩（が）りで現金（げんきん）収入（しゅうにゅう）を増（ふ）やしていた。カマキリ、カタツムリ、バッタ、さらに巨大（きょだい）陸（りく）ガニなどを狩（か）った。

　ほとんどケガはしなかったが、一度（いちど）カマキリに、浅（あさ）い切（き）り傷（きず）をもらった。低級（ていきゅう）ポーションで全（ぜん）回復（かいふく）できる程度（ていど）のダメージだったので助（たす）かった。

　カニはハサミが頑丈（がんじょう）で力（ちから）も強（つよ）く、動（うご）きも縦横（たてよこ）どっちにも素早（すばや）く歩（ある）く。なかなかの難敵（なんてき）だった。カニの足（あし）を折（お）った後（あと）二人（ふたり）がかりでひっくり返（かえ）し、口（くち）から腹（はら）のあたりを剣（けん）で刺（さ）してやっと倒（たお）した。一匹（いっぴき）持（も）って帰（かえ）って食（た）べたが普通（ふつう）にカニで、塩茹（しおゆ）でしたら甘（あま）くてとても美味（おい）しかった。

「カニうまいにゃ。カニ、カッニッ、カニカニカニ」

　ソティは大喜（おおよろこ）びで変（へん）な歌（うた）を歌（うた）っている。俺（おれ）が両手（りょうて）のピースでカニのポーズをしてやるとソティも真似（まね）した。カニは冒険者（ぼうけんしゃ）がやっつければ肉屋（にくや）で買（か）えるが値段（ねだん）が高（たか）い。ソティ家（け）では食（た）べたことなかったようだ。

「ホクト、あたしカニ大好（だいす）きになったにゃ。でもポテチも食（た）べたいにゃ」

「ピーテから聞（き）いたの？」

「聞（き）いたにゃ。他（ほか）にも色々（いろいろ）な料理（りょうり）があるって聞（き）いたにゃ」

　いつの間（ま）にそんな話（はな）してたんだ。料理（りょうり）の時間（じかん）あたりか。

　さらに一日（いちにち）草原（そうげん）で魔物（まもの）狩（が）りを終（お）えてプレレ家（け）に帰（かえ）ってくると、商人（しょうにん）ギルドから連絡（れんらく）が来（き）て、ギルドに来（き）てほしいと言（い）ったそうだ。

　俺（おれ）たちは三人（さんにん）で商人（しょうにん）ギルドに入（はい）る。ギルドの係員（かかりいん）と一人（ひとり）の犬耳（いぬみみ）の女性（じょせい）しかいなかった。女性（じょせい）は俺（おれ）たちのほうへ近（ちか）づいてきて奥（おく）へ通（とお）される。女性（じょせい）は旅（たび）商人（しょうにん）のギーナと名乗（なの）った。

「依頼（いらい）通（どお）りのようですね。確（たし）かに黒髪（くろかみ）の人（ひと）族（ぞく）とそのお友達（ともだち）ですね。人（ひと）族（ぞく）は珍（めずら）しいです。黒髪（くろかみ）はもっと珍（めずら）しいです」

「はあ」

「うちのお嬢様（じょうさま）が、王都（おうと）までの話（はな）し相手（あいて）を探（さが）しております。異国（いこく）のあなたなら沢山（たくさん）お話（はなし）を聞（き）けそうです」

「俺（おれ）はあまり話（はな）し上手（じょうず）ではないんだが、いいかい？」

「結構（けっこう）です」

「乗（の）せてくれるほかの条件（じょうけん）は？」

「旅（たび）の間（あいだ）の旅費（りょひ）、食事（しょくじ）など全部（ぜんぶ）こちら持（も）ちで結構（けっこう）です。護衛（ごえい）は別（べつ）に連（つ）れています。条件（じょうけん）は、お嬢様（じょうさま）に手（て）を出（だ）さないことぐらいです。あと内密（ないみつ）にお願（ねが）いします」

「それは、もちろんだ」

　なにやら、訳（わけ）ありっぽそうな感（かん）じである。本当（ほんとう）に暇（ひま）なお嬢様（じょうさま）なのかもしれないが。その後（あと）、行程（こうてい）の確認（かくにん）などいくつか言葉（ことば）を交（か）わしてから商人（しょうにん）ギルドを出（で）た。

　王都（おうと）はこの町（まち）の川（かわ）を下（くだ）った先（さき）にあり、王宮（おうきゅう）にはもちろん国立（こくりつ）学院（がくいん）さらに国内（こくない）唯一（ゆいいつ）の迷宮（めいきゅう）がある。王（おう）は迷宮（めいきゅう）がある場所（ばしょ）を王都（おうと）に選（えら）んだのだ。それはもちろん、迷宮（めいきゅう）産（さん）の資源（しげん）を守（まも）るためであり、冒険者（ぼうけんしゃ）も集（あつ）まるので人口（じんこう）も多（おお）くなりちょうどいい。

　俺（おれ）たちは王都（おうと）に行（い）ったら迷宮（めいきゅう）にもぐりさらに強（つよ）くなる。迷宮（めいきゅう）にはその辺（へん）の草原（そうげん）より強（つよ）い魔物（まもの）、すなわち高（たか）い魔力（まりょく）結晶（けっしょう）を持（も）つ魔物（まもの）がたくさんいる。そいつらを倒（たお）して一攫（いっかく）千金（せんきん）を狙（ねら）うのだ。