第15話 如何なる難敵を撃破してでも恋敵を減じる③
凜花の胸にテラコが飛び込んでから、更に数分の後。
「ふぅ……すみませんです、お恥ずかしいところをお見せしてしまいましたです」
「ふふ、いいんですよ」
ようやく泣き止んで赤くなった頬を掻くテラコの頭を、凜花がポンポンと優しく撫でた。
「改めて……皆さん、テラコを助けて欲しいのです」
表情を真剣なものにし、テラコは居住まいを正す。
「テラコは、ブルースカイ王国……皆さんの言う地下世界を治める国の王女なのです。いえ……王女、だったのです」
そこで、テラコは悲しげに目を伏せた。
しかし、すぐに決意を秘めた目を上げる。
「けど王位を狙う叔父上……いえ、グランダーク・ブルースカイの卑劣な罠にかかり父上と母上は今や囚われの身。しかもグランダークはブルースカイ王国の掌握だけでは飽きたらず、地上の征服まで企んでいるです。そのための秘密兵器として地下世界の更に地底深くに封じられているという大魔神を復活させようと目論み、封印の鍵たるテラコを捕えたです。テラコは、儀式の間に移される時に協力者のおかげでどうにか脱出出来たですが……お願いするです、皆さん! このままではテラコの家族や友達が……それどころか地上の皆さんさえも、危ないのです! グランダークを倒して下さいです!」
早口で言い切って、テラコは勢い良く頭を下げた。
それに対して。
「ソウデスカー、ソレハタイヘンデスネー」
凜花の返答は、実に空々しいものであった。
「えぇっ!? どうして急に棒読みに!? あっあっ、後ろのお二方もなんだか凄い生暖かい感じの目になってるです!?」
テラコが、ここまでで最大限に驚きの表情を見せた。
「いえ、なんかもう似たような話をこれまでに百遍は聞いたなって……んんっ。いえ、なんでもないですよ?」
「全然誤魔化せてないです!? もうほとんど出ちゃってたですよ!?」
思わずこぼれたらしき本音を取り繕うように優しげな笑みを浮かべた凜花だが、流石の女神の笑顔もこれは取り繕いきれなかったようである。
「ちなみに以前邪神の生け贄にされて十分の九くらい死んだアタシの経験から言うと、最後にモノを言うのはやっぱ気合いよ。何くそふざけんな! どっか行けボケ! アタシをてめぇなんぞにくれてやるか! って、自分の中に入ってくる得体のしれないものに言ってやんの。でないと、すぐに取り込まれちゃうわ。そう……そんなことになったら、アタシのために犠牲になったあの子たちに顔向け出来ないからね……」
「ちなみに実の兄の裏切りによって国を追われた妾の経験から言うと、復讐は自らの手できっちり行うべきじゃぞ? でないと、各所に遺憾が残るからのぅ。何より、それがせめてものけじめという奴じゃ。結果的に、家族をバラバラにするきっかけとなってしまった者としての、の。たとえその末に、自らが新たな憎しみの渦に身を投じることになろうとも……」
「重い!? 何やら実体験を元にしたらしい諸先輩方のアドバイスが滅茶苦茶重いです!?」
遠い目で語る亜衣とミコに、テラコはあたふたと慌てた様子となる。
「ま、安心なさい」
力強い笑みへと表情を変えた亜衣が、ポンとテラコの頭を撫でた。
「今回はそんなことになる前に、アタシらが何もかも解決してあげるわ」
でないとアイツが来ちゃうしね……と、小声で付け加える亜衣。
「妾の時は、既に父上を討たれていたため対立以外の選択を取れなんだが……生きてさえおれば、いつかは和解の道もあろう」
ミコも亜衣に似た表情を浮かべ、ポンとテラコの肩を叩く。
「ゆえに今回、誰一人として犠牲者は出さぬと約束しよう」
でなければアヤツが来よるからの……と、小声で付け加えるミコ。
「ほわっ!? お二人とも、滅茶苦茶頼もしいです!」
付け加えられた小声には気付かなかったようで、テラコは目をキラキラさせて拳を握った。
「それじゃあ早速、ブルースカイ王国にご案内するです! ちょっと複雑な手順になるですけど、まず地下世界に通じる扉の封印を解くための鍵を手に入れるために近くの洞窟で……」
「あー、いいわよそういうのは」
やる気満々といったテラコに、亜衣がひらひらと手を振る。
「この辺をウロチョロしてたってことは、近くの地下にあんでしょ? もう、それっぽい場所は《掌握》してるわ」
「ほわ?」
言っている意味がわからなかったらしく、テラコは小さく首を傾げた。
「《ゲート》オープン」
構わず、亜衣は空間を斬り裂くように指を動かし《ゲート》を出現させる。
「ほわっ!? 何もないとこに穴が!?」
その光景に、テラコが目を丸くした。
彼女を『保護』した際にも現れていたはずだが、その時はテンパっていて気付いていなかったらしい。
「にしても、《掌握》した感じ地下世界って結構広いわよ。足元にこんなもんがあるなんて思わなかったわね」
「そういえば地下での事件って、今までありそうでなかったですもんねー」
「灯台下暗し、といったところかの」
「いや、それはちょっと意味合いが違わない?」
まるで学校からの帰り道を行くかのように、気負いのない調子で雑談を交わしながら三人は《ゲート》をくぐっていった。
「………………ほわっ!?」
驚いて固まっているうちに一人取り残された形のテラコが、我に返った様子でキョロキョロと辺りを見回す。
その船内まで真っピンクなハイパー・プリンセス号の中には、もちろん彼女以外もう誰もいない。
「……い、行くですっ!」
やがて意を決した表情で、テラコは勢い良く《ゲート》へと飛び込んだ。
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