第19話 如何なる手段を用いてでも愛を叫ばんとする少女たち

「さぁ、それでは今日も張り切って参りましょう!」


 分厚い暗幕……は全開で、太陽の光が存分に差し込んだ明るい教室。


 その声は、元気に響いた。


 室内にいるのは、三人の少女だ。


「おやおや? どうしましたお二人共、なんだか暗いですよー?」


 初夏の太陽に負けないくらい明るい笑顔の、空井凜花。


「フッ……そういう空井は随分明るいわね……」


 対照的に、太陽の光を拒絶しているかのように『どよん』と暗い雰囲気の出雲亜衣。


「流石、一歩リードしたお方は違うのぅ……」


 そして、同じくキノコでも生えそうなほどジメッとした空気を纏うミコ・プリンセス・ユニヴァースである。


「うふふふぅ……どうして私がこんなに明るいか、聞いちゃいます? 聞いちゃいますぅ?」


「……………………」


「……………………」


 ニマニマ笑いながら問いかける凜花に対して、残る二人は闇を背負ったまま無言で力のない笑いを浮かべるのみ。


「昨日はぐっすり眠れたからか、やけにスッキリしてるというのもあるんですけどー。それよりもですねー」


 二人からの返答がないのも構わず、凜花は勿体ぶった調子で勝手に話し始めた。


「今朝の通学路でですねー。悠人くんがやけにチラチラこっち見てきたり、何か言いたげにしてたり、そのくせこっちから話しかけたら妙に慌てた感じで視線を逸らしたりでですねー。なんだかこれって、私のこと意識しちゃってるみたいじゃないですか!? もしかして私の想い、届いちゃいました!? 気付かれちゃいました!?」


 きゃっ! などと言いながら自らの頬に手を当て「いやんいやん」と身を捩る凜花。

 端的に言って、浮かれっぷりが留まるところを知らない。


「そっすかー」


「よかったのー」


 同時に、亜衣とミコが纏う闇のオーラの肥大化もまた留まるところを知らなかった。


 二人共、一般人が見れば心臓が止まってもおかしくない、とてもお茶の間にはお届け出来ない表情を浮かべている。

 今の彼女たちの禍々しさに比べれば、昨日の大魔神などまだだいぶ可愛げがある方だと言えよう。


「……なーんてね」


 ふと表情を改めた凜花が、ほぅと溜め息を吐く。


「わかってますよ、気のせいか自意識過剰だって。あの悠人くんが、そんな簡単に私の気持ちに気付いてくれるわけないですよね」


 苦笑を浮かべて凜花がそう言うと、亜衣とミコはキョトンとした表情に。


 闇のオーラも、大部分が引っ込んだ。


「なんせ悠人くんですからねー……って、どうしました? お二人共」


 何言ってんだコイツ、という表情を浮かべている亜衣とミコに気付いた凜花が首をかしげる。


 亜衣とミコは一瞬顔を見合わせてから、再び凜花を見た。


「あー……アンタ、もしかして……」


「昨日のこと、覚えとらんのか……?」


 恐る恐るといった調子で尋ねる。


「昨日のこと? もちろん覚えてますよ?」


 今度は、凜花がキョトンとした表情となった。


「テラコさんの件は、もう仕方ないですよねー。まぁ地上の危機は去って地下世界にも平和が戻ったんですし、良しとしておきましょうよ」


 やれやれ、と凜花は訳知り顔で肩をすくめる。


「いや、そうじゃなくてさ……」


「その、後のことなんじゃが……?」


「その後? その後のことは私、寝ちゃったんで知らないですよ? ……って、あっ!」


 何かを思い出したような凜花の声に、亜衣とミコはビクッと身体を震わせた。


「そういえば、なんだかすっごくいい夢を見た気がするんですよねー。内容は全然思い出せないんですけど、とっても幸せな気持ちだったのだけは覚えてます。そっかー、たぶんその余韻が残ってたから悠人くんの行動がなんだか意味深に見えちゃったりしたんですかねー」


 なるほどなるほど、と凜花は一人納得の表情で頷いている。


「あー……そういえば、空井も天条並の鈍さなんだっけか……」


「……まぁ、それに関しては汝もあんま人のことは言えんがの」


「アンタ、前もなんかそんなこと言ってたわね……だから、どういう意味よ?」


「そのまんまの意味オブそのまんまの意味じゃ」


 亜衣とミコ、顔を寄せてヒソヒソとそんなことを話す。


「お二人共、どうかしました?」


「いや、別に」


「うむ、汝が気にするようなことは何もない」


 不思議そうに凜花が問いかけるとサッと体勢を戻し、素知らぬ顔でそんなことを答える二人。


 再び一瞬だけ視線を交わし合い、ニヤリと笑い合った。

 本人に覚えがないなら、それに越したことはないのである。


「そうですか? ならいいんですけど」


 首をかしげつつも、凜花は軽く頷く。


「放課後の時間も限られてますし、そろそろ本題始めますか!」


 次いで表情を改め、パンと手を打った。


「そうね」


 頭の後ろで手を組み、背もたれに体重を預けながら亜衣。


「良かろう」


 腕を組み、鷹揚に頷くミコ。


「それでは」


 少女たちは、今日も思案する。


 想い人に、その気持ちを伝えるために。


 難攻不落の彼の心を攻め落とすために。


 胸に溢れんばかりの愛を届けるために。


 そう……そのためならば、如何なる手段を採ることも厭わず。

 その方法を、模索するのである。


 ゆえに。


 それは、今日も高らかに宣言された。


「これより、天条悠人攻略会議を始めます!」






―――――――――――――――――――――

本作、これにて完結です。

最後まで読んでいただきました皆様、誠にありがとうございました。


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インフレした世界の中心で如何なる手段を用いてでも愛を叫ぶ はむばね @hamubane

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