第11話 如何なる障害を回避してでも文字を見せる②
かくして、乙女たちの『声がダメなら文字で届ければいいじゃない作戦(命名:空井凜花)』は幕を開けたわけだが。
◆ ◆ ◆
「よしっ、ラブレターの準備はバッチリです!」
「ちゃんとストレートかつ簡潔な表現にしておるし、完璧じゃな」
「アタシも、一応書いたけどさ……」
「それじゃあ早速渡しに……あぁっ!? なぜ突然ヤギの群れが!?」
「こ、こりゃ! なぜ妾たちのラブレターを集中的に食らう!? あぁ、見る見るラブレターが腹の中に収まっていきよる!?」
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「あ、天条がヤギの群れに撥ねられた」
ラブレター(紙)作戦、失敗。
◆ ◆ ◆
「やっぱり今時、紙でラブレターはなかったですね! 時代は木ですよ、木!」
「むしろ時代逆行してない……?」
「存外、木に文字を掘るというのもムズかったのぅ」
「それじゃあ早速渡しに……あぁっ!? チェーンソーを持った不審者が!?」
「こ、こりゃ! なぜ妾たちの持つ木片に向けてばかりチェーンソーを振り下ろす!? 汝のその道具はもうちっとでっかい木を斬るためのもんじゃろ!?」
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「あ、振りかぶったチェーンソーに天条が巻き込まれた」
ラブレター(木)作戦、失敗。
◆ ◆ ◆
「やっぱり、木では強度に問題がありましたね! ここは、鉄の強靭さに託しましょう!」
「鉄に文字を掘る技術習得するのに、結局丸三日も費やしてしもうたのぅ」
「付き合っといてなんだけど、これ自分らで掘る意味あった……?」
「それじゃあ早速渡しに……あぁっ!? 金属が大好物な怪物の群れが現れたですって!?」
「こ、こりゃ! なぜなぜ妾たちの持つ鉄に群がる!? 奮発して高純度の鉄を用意したのが裏目に出たとでも言うのか!?」
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「あ、治療のために身体の一部に金属埋め込まれてる天条が齧られた」
ラブレター(鉄)作戦、失敗。
◆ ◆ ◆
「やっぱり、卑金属などに頼ろうとしたのが間違いでした! 金なら完璧です! なんてったって『金』属っていうくらいですからね!」
「今回は割と加工も楽じゃったのぅ」
「なんかウチら、変な方向に技術向上してない……?」
「それじゃあ早速渡しに……あぁ!? あ、貴方は……? 王水魔法の使い手!? なんなんですかそのピンポイントな魔法!? いつ使うんですか!?」
「こ、こりゃ! なぜ妾たちの持つ金を執拗に狙う!? なに、王水の一番の見せ場は金を溶かす時だけどそんな場面滅多にないから嬉しくて? マジ汝なんでその魔法習得したん!?」
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「あ、天条が全身に王水浴びて皮膚デロデロになった」
ラブレター(金)作戦、失敗。
◆ ◆ ◆
「やっぱり、遷移元素を使ってる時点で常識を脱しきれていませんでした! ここはあえてのセシウム! アルカリ金属ですよ!」
「割と柔らかいんで、加工自体は楽じゃったの」
「アタシ、これこそもう完璧にオチまで見えてるんだけど……」
「それじゃあ早速……あっ、悠人くんちょうどいいところに! これを受け取って下さい! てぇぇぇぇぇぇぇい! ……あぁ!? なぜか急にスプリンクラーが作動しました!?」
「おー、流石セシウムは劇的に反応して景気よく爆発しよるのぅ」
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「予想に一分と違わず天条が爆発に巻き込まれたわね……つーか放り投げた時点でこれもう故意犯よね?」
ラブレター(セシウム)作戦、失敗。
◆ ◆ ◆
「やっぱり、チマチマ小物に文字を書こうという発想がそもそも軟弱でした! スケールはでかく! ということで、校庭にでっかく書いちゃいました!」
「しかし、よぅ許可が降りたもんじゃのぅ」
「許可が降りたっていうか、空井のアレで降ろさせたんだけどね……」
「それじゃあ早速悠人くんに見てもらいましょう! おーい、悠人くーん! こっちですー! あれ、悠人くーん? なんでこっちを見てくれないんですかー? え、空? ……あぁっ!? なんと、巨大な隕石が!?」
「はいはい《ゲート》オープン、宇宙へポイー」
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「あ、隕石を止めに行こうとしていたらしい天条が残った熱波をモロに浴びた」
「んなことより、今の風でせっかく校庭に書いた文字が吹き飛んだんじゃが」
ラブレター(校庭)作戦、失敗。
◆ ◆ ◆
暗幕で日の光が遮られた、薄暗い会議室。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
ただでさえ暗い会議室が、今はジメジメと更にその暗く湿った雰囲気を増している。
会議室にいるのは無論、恋する乙女三人。
空井凜花、出雲亜衣、ミコ・プリンセス・ユニヴァースである。
「それじゃ、次は何に書きましょうかね……?」
絞り出すように、凜花が掠れた声で言う。
「アタシ、思うんだけどさー……」
のろのろとした動作で、亜衣が小さく手を上げた。
「次辺り、そろそろ天条の目が潰れると思う」
『あー……』
残る二人から返ってきたのは、納得の「あー……」である。
「そうなってくると、目が潰れてても見てもらえる方法を考えないとですねー」
「それもう、『見る』っていうの……?」
もはや想い人の目が潰れることそのものについては全く言及しない一同であった。
慣れとは恐ろしいものである。
「……なるほど、そういうことなら妾に一つ心当たりがある」
ミコが、何か思いついた表情で軽く手を上げた。
「それも、考えてみれば一石二鳥の方法じゃ」
凜花と亜衣の期待の目が、ミコに向けられる。
それを手で制し、ミコは制服のポケットから携帯電話を取り出した。
一見某リンゴマークの会社が販売している最新のスマートフォンに見えるが、その実態は宇宙テクノロジー的なサムシングの結晶であり軽く数億光年先ともリアルタイム通信が可能な逸品だ。
「もしもし? 妾じゃ。………………あん? 妾妾詐欺? 語呂悪いじゃろそれ! ちゅーかこれ、帝室ホットラインじゃぞ!? これでなりすまされとる時は、帝国のセキュリティ全部やられとる時じゃからな!? えーい、えぇからちっと《バグズ》を地球まで持て! 地球時間で一時間後にハイパー・プリセンス号に集合な!」
最後の方は早口で捲し立て、ミコは乱暴に通話停止ボタンをタップした。
「ふぅ……」
そして、やや疲れたように溜め息を吐く。
「話は聞いとったな?」
しかしすぐに表情を改め、ミコは凜花と亜衣の顔を見た。
「詳細は現物を見ながら話した方が早いじゃろうから、まずはハイパー・プリンセス号に向かおうぞ。恐らくじゃが……これならば、いける」
自信に満ちたミコの表情。
それに頷きを返す凜花と亜衣の目にも、少しだけ力が戻っていた。
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