第2章:リゾートの密室殺人

 ホテルのロビーは騒然としていた。宿泊客たちが不安そうな表情で固まっている中、警備員たちが慌ただしく動き回っていた。


「なんや、こりゃ大変そうやな」


 紬が周囲を見回す。


 そのとき、ロビーの隅で何やら慌ただしく動いている男性の姿が目に入った。スーツを着た中年の男性だった。七三分けの黒メガネ。如何にもホテルマン然としている。


 彼は周囲を警戒するように見回しながら、何かを内ポケットにしまい込むと、急いでエレベーターに乗り込んでいった。


「あれ?」


 紬が首をかしげる。


「どうかしましたか?」


 柚子が尋ねる。


「いや、なんでもない。気のせいや」


 紬は一瞬考え込むような表情を見せたが、すぐにいつもの軽い調子に戻った。

 そこへ、ホテルのマネージャーらしき男性が二人に近づいてきた。


「申し訳ございません。お客様にはお部屋でお待ちいただくようお願いしております」

「あ、実はワシら探偵なんですわ」


 紬が得意げに言う。


「ワシらが事件を解決したるさかい、状況を詳しく教えてんか」


 マネージャーは驚いた表情を浮かべた。


「探偵さんですか? それは……」


 柚子が慌てて割り込む。


「すみません。私たちは確かに探偵ですが、今回は休暇で来ているので……」

「いやいや、柚子。せっかくの機会やないか」


 紬が柚子の言葉を遮る。


「ほな、事件の詳細を教えてもらえまっか?」


 マネージャーは困惑した様子だったが、しばし考えた後、小声で話し始めた。


「実は……当ホテルのオーナーが、自室で亡くなっているのが発見されたんです。しかも、完全な密室状態で……」

「ほう、密室殺人か」


 紬の目が輝いた。


「推理小説の定番やないか。こりゃ面白うなってきたで」


 柚子は呆れたように紬を見つめながらも、事件の詳細をメモし始めた。


「部屋の様子や、他に不審な点はありませんでしたか?」


 柚子が尋ねる。もう柚子も探偵モードに入ってしまったようだ。

 マネージャーは首を振った。


「警察の方々が調べていますが、今のところ手掛かりらしきものは……」


 その時、エレベーターから出てきた刑事が、紬たちに気づいた。


「おや、紬さん! こんなところで何を?」

「あら、多田はんやないですか!」


 こんなところで旧知の仲の刑事と出逢うとは!

 紬が笑顔で答える。


「ちょっと休暇でね。でも、こんな事件が起きるとは、ワシらなぁ~」


 多田刑事は複雑な表情を浮かべた。


「紬さん、今回は殺人事件なんです。さすがにプロの我々に任せてもらえませんかね」

「わかりました、ワシらも協力させてもらいます!」


 紬が多田の言葉をガン無視して軽く応える。


「それより、現場を見せてもらえへんかな?」


 多田刑事は一瞬躊躇したが、やがて小さくため息をついた。


「まあ、僕は紬さんの実績は知っていますからね。でも、くれぐれも内密に頼みますよ」


 紬はニヤリと笑った。


「任せときぃ。ほな、行こか柚子」


 柚子は複雑な表情を浮かべながらも、紬についていった。

 二人は多田刑事に導かれ、事件現場へと向かう。

 南の島の楽園で起きた密室殺人。

 その謎を解く鍵は、果たしてどこにあるのか。紬と柚子の推理が今、始まろうとしていた。

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