第2章:聖マリア女学院へ

 朝靄に包まれた聖マリア女学院の校門前。紬は新任の英語教師として、真新しいスーツに身を包み、少し気恥ずかしそうに立っていた。


「こんな格好するの久しぶりやな、まるでコスプレイヤーや♪」


 紬が楽しそうに独り言を呟いていると、制服姿の柚子が恥ずかしそうに近づいてきた。


「紬さん、もっとしゃきっとしてください、仮にも教師なんですから!」

「わかっとるわかっとる。おー、柚子もセーラー服めっちゃ似合とるやんけ、眼福眼福♪」


 確かに柚子は現役女子高生にしか見えないほど、完璧に制服を着こなしている。やはり貧乳が……いや、なんでもないです。

 上機嫌の紬に対して、柚子が小さな声で「いつかコロス……」と呟いたのは、紬の耳には届いてないようだ。


「ほな、がんばっていこか、美人転校生さん♪」


 意味ありげな笑みを浮かべる紬に、柚子は不承不承頷きながら校内へと向かった。しかし顔は若干紅かった。


 教室に入った柚子は、クラスメイトたちの好奇の目にさらされながら、緊張した面持ちで自己紹介を始める。


「はじめまして。佐々峰柚子です。浅草から転校してきました。よろしくお願いします」


 一方、職員室では紬が他の教師たちに紹介されていた。


「こちらが新任の紬先生です。英語を担当していただきます」


 紬は笑顔で挨拶をする。


「よろしくお願いします。紬です。Nice to meet you!」


(うわ、なんやこの学校。みんな何か隠しとるみたいやな)


 紬は周囲の教師たちの心の声を次々と拾い上げていく。

 しかし、柚子の言葉を思い出し、すぐには口に出さないよう自制した。

 紬にしては上出来である。


 授業が始まり、紬は英語の教壇に立つ。

 しかし、彼女の関心は英語よりも生徒たちの心の声に向けられていた。


(新しい先生、めっちゃ綺麗!)

(昨日の夜また、あの音がしたんだよね……)

(理事長先生、最近様子がおかしい気がする)

(あそこのカフェ、もうすぐしまっちゃうんだって……)


 雑多で様々な心の声が紬の耳に入ってくる。

 その中で、特に気になる声を紬は注意深く聞き取っていた。


 放課後。

 夕方も過ぎて夜が近くなってきた時間。

 紬が職員室で休憩をとっていると、音楽室から奇妙な音が聞こえてきた。


「あれ? 誰もおらへんはずやのに」


 紬が音楽室に行ってみると、そこでは誰もいないのにピアノが勝手に演奏されていた。


「ほおほおほお、これが噂の怪奇現象か」


 紬はニヤリと笑う。


「でもなあ……これ、単なる自動演奏装置がついてるんとちゃうんか?」


 紬がピアノを覗き込む。


「紬さん、首尾はどうですか?」


 そこに柚子が他の生徒にばれないようにそっと近づいてくる。


「ああ、もう犯人確定や」

「またすぐそんないい加減な事言って! いったい証拠はどこに……」


 柚子の言葉に、紬は渋々地道に調査を始めることにした。

 しかしこの学院ではあくまで教師と生徒の関係。慎重に行動せねば。


 柚子は放課後、図書館で学校の歴史を調べ始めていた。

 古い資料を紐解くうちに、彼女は創立者に関する奇妙な逸話を発見する。


「これは……」


 柚子の目が輝く。彼女は急いでメモを取り始めた。

 柚子の怜悧な頭脳が静かにフル回転を始めていた。


 その夜、紬と柚子は密かに情報交換を行った。


「なあ、柚子。もう犯人わかっとんねんけど」

「だめです! ちゃんとした証拠がないと」

「へーへー、美人助手ちゃんはきびしいのう……」


 紬はため息をつきながら、だるそうな表情を浮かべる。

 しかし、その目には確かな自信が宿っていた。

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